若手技術者の専門性向上を目的に 学術論文 を読ませたい Vol.118
公開日: 2020年8月3日 | 最終更新日: 2020年8月2日
Tags: OJTの注意点, メールマガジンバックナンバー, 技術者人材育成, 要素技術醸成
技術者の多くは企業に勤めていることもあり、
「学術論文は大学の先生が読むもので企業には関係ない」
と考えているようです。
または逆に、
「企業の技術者も学術論文を読むことはもちろん、積極的に投稿し、基礎技術を高める」
というかなり少数派の技術者の方もいらっしゃいます。
個人的には企業の技術者にとって読むことはもちろん、
学術論文を書くことは特別な事ではないかと思っています。
ただ、知財関係の話も絡むため、
投稿前に特許の申請などを整えるといった事前準備が必要でしょう。
学術論文を書くことについては、
大学との共同研究ありきで進める企業の技術者が多いような気がしています。
大学にとっては論文が多い方が成果として認められるため熱意を傾けるのは当然といえますが、
企業にとってそれが本当に有益かはよく考えるべきです。
よく大学の学生が First Author となって企業の方と論文を出すケースがありますが、
本来の技術者の姿勢としては、技術者自身がFirstに名前を記載され、
単独で出すくらいの心意気が必要だと思います。
論文はやはり First Author となってはじめて成果として認められるからです。
前置きが長くなりましたが、
いずれにしても企業の技術者にとって、
学術論文を読むことはもちろん、書くこと自体もそれほど特別なことではない、
と考えています。
技術者にとって 学術論文 とは
まず
「若手技術者の専門性向上を目的に学術論文を読ませたい」
という際に、マネジメントが若手技術者に何を伝えるべきか、ということを考える前に、
技術者にとっての学術論文は何かということについて述べたいと思います。
結論から言うと、
「技術者にとって学術論文は、ビジネスマンにとっての経済紙と同じ」
です。
COVID-19等の蔓延、国の外交問題、地球環境変化等。
一般的なビジネスマンにとって、仮にサラリーマンであっても、
世の中がどのように動いているのかを経済紙等の媒体を通じて把握し、
自らの仕事をどのように進めていくか、それを通じて所属する企業にどう貢献するか、
といったことを考えるのは「当たり前」といえます。
上記でいう経済紙が、技術者にとっての学術論文に該当します。
投稿すれば形式だけの査読、または査読無しで掲載するような論文もありますが、
きちんとした論文の多くは専門性を有する第三者の研究者や技術者による厳しい査読、
という審査を通過して初めて掲載許可がおります。
私も3報ほど学術論文を掲載させていることもあり、
年に1報ほど、海外から査読依頼が来ることがあります。
このように論文執筆者と全く関係なく、
しかし技術的な専門性を有する第三者に論文を読んでもらい、
その中身の「技術的妥当性」について、審査を受けるのです。
上記の査読を通じて掲載された論文というのは、
何かしらの技術的進展や発見があったという前提条件があるため、
技術者にとっても有意義な内容になります。
このように技術者にとっての学術論文は、
普段から目にして把握すべき、
「技術的には一般的な情報である」
という理解で問題ありません。
学術論文を適宜読むということは、
・技術の概要把握に努める
・自分の技術の抜け漏れを補填する
といった、自己研鑽の観点からも大変重要な技術者の日常の一部であることを理解するのが第一歩かもしれません。
若手技術者に学術論文を読ませる際に起こる問題
では実際に学術論文を若手技術者に読んでもらうとします。
技術者といっても、終了した教育課程は高校卒業、高専卒業、短大卒業、大学卒業、大学院卒業と色々なケースがあります。
技術者の力量という観点だけでいうと、
今までの企業サポートの経験から、個人的にはこれらの教育期間にあまり相関は認められていませんが、
間違いなく相関が出てくるのが
「学術論文をどのように読むのか」
という事に対する理解です。
何故ならば、それなりにきちんと教育を行う大学の研究室であれば、
毎週研究室のメンバーが持ち回りで学術論文を教授や准教授の前で要点を説明する、
といったことをやるため、自然と学術論文の読み方がみにつくケースも多いからです。
大学院にもなると修士であっても、自らの考えで進めたテーマについて修士論文を書きますし、
博士に至っては外部の科学誌に対し、自分で学術論文を掲載させなくてはいけません。
このように、教育期間の長さに比例し、学術論文に触れる機会というのは増えるのは必然とも言えます。
そのため若手技術者に学術論文を読みなさい、と指示しても
「どのように読めばいいのかわからない」
という答えが返ってくる可能性は十分にあります。
その際、技術者のマネジメントは学術論文の読み方について指導する必要性が出てくるでしょう。
若手技術者が逃げたくなる学術論文解読
学術論文の多くは、国籍問わず多くの研究者、技術者の査読を要求するため、
現段階では世界共通言語の一つとして認識されている英語で書かれていることが殆どです。
そのため、この言葉の壁がまず立ちはだかり、
若手技術者に学術論文を読むよう指示しても、
「内容が難解で、何が書いてあるのかわかりません」
というケースも多いかと思います。
技術的なバックグラウンドが不足して上記の若手技術者の発言が出る可能性もありますが、
「そもそも学術論文の読み方がわからない」
というケースの方が多いのが実情かと思います。
上記の状況になると、若手技術者の多くは
「他に業務があって時間がないため、学術論文を読むのは後にしたいと思います」
といった趣旨の言動が見られるようになります。
端的にいうと、
「労力がかかるのでやりたくない」
というのが若手技術者の意図です。
これをマネジメントが許容してしまうと、
「面倒な仕事は、避けていいのだ」
という若手技術者にとって最も問題となる、
「主観による業務選別」
を行うようになってしまいます。
これを若手の段階で許容してしまうと、
組織における技術者としての戦力低下は免れません。
詳細については以下の関連コラムをご覧ください。
※ これは 自分の仕事ではない という言動が若手技術者に見える
https://engineer-development.jp/column-2/defining-work-area-and-volume
学術論文を読む際に重要なのは概要把握
技術者が若手のうちに学術論文を解読できるようになることは、
最新技術の把握はもちろんのこと、
現代技術の礎となっている基礎理論を固めるといった、
「技術者としての恩恵」
を得ることにつながります。
しかし、学術論文の読み方がわからない若手技術者に対して、
「どのように学術論文を読めばいいのか」
についてマネジメントが指導できないと、
この辺りの力は醸成されません。
では、どのような観点で若手技術者に指導すればいいのでしょうか。
具体的には、
「題名、Abstract(概略)、図、表、Conclusion(結言)に目を通し、概要を把握する」
ということを伝えることになります。
以下、順に説明します。
最も重要なのは「題名」です。
題名ではその論文が何を述べたいのか、
という最上位の主張が一言で述べられているはずです。
これを読んで、期待する内容が書かれているか否かということを検証することも可能です。
ここをまず第一に見るよう、若手技術者には指導してください。
そして次に見るべきがAbstract(概略)です。
これは技術報告書でいうと「概要」に該当する部分で、
論文中が書かれた背景と目的、そしてその目的達成のために何を行い、
結果としてどのようなことが分かったのか、ということがコンパクトにまとめられています。
ここを読むと内容の3割程度はわかると思います。
逆にいうとここの部分だけはわかるまで何度でも読み直すことが重要です。
続いて読むべき(見るべき)は表やグラフ、写真等の図です。
人間の認識能力は
動画→画像→活字
の順番で低下していきます。
そのため、論文中のグラフや写真などの図、
そして数値やキーワードがまとまっている表に目を通すことが、
論文内容のより詳細部分を理解することに大変役立ちます。
このような画像は活字があまりないので、言葉の障壁を低くするという効果もあります。
そして最後は、Conclusion(結言)です。
技術報告書では結論は初めに書きますが、
学術論文では最後に書くのが普通です。
Conclusion(結言)には最終的に筆者は何を言いたのか、
が述べられているので、学術論文で主張したいことが最も強く出てくる部分です。
これをみて共感できるのか、興味がわいた部分があるのか、
確認したい部分があるのか、といった観点を抽出し、
必要に応じて中身を見ていく、という動機につながっていきます。
上述の通り、細かいところから読み始めるのではなく、
「学術論文を解読する際には、ポイントを絞って論文で述べられている内容の基本構成を理解させる」
ということをマネジメントは若手技術者に伝えることが重要といえます。
技術者の技術力向上は、自分で実験や試験をやって様々な知見を積み上げることに加え、
外の技術情報の概要を把握する、という技術情報収集の取り組みがますます重要になります。
昨今の社会の流れに伴いデジタル化が進み、
技術情報の氾濫が今以上に加速すると、
「技術情報の本質の抽出力」
というものが技術者に求められるようになります。
このような力を養うにあたり、上記で紹介したような学術論文の解読力は、
今後の技術者にとって当たり前の力になっていくと思います。
先が読めない今だからこそ、
技術の本質を突き詰める力を若手技術者がみにつけるよう誘導するのが、
マネジメントの使命といえるかもしれません。
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