技術者育成における若手の 叱り方
若手技術者育成において、やはり「叱る」事も必要ですが、若手の叱り方については注意をしなくてはいけません。
以下に、若手技術者を叱るにあたり重要な点を挙げます。
1.叱るときはポイントをしぼり短時間で。
2.常習的に叱らない。
3.指導者も見本となるような言動を心がける。
それぞれのポイントを説明します。
1.叱るときはポイントをしぼり短時間で。
若手技術者を叱るとき、叱る側も程度の差はあれ感情的になっているのが通常です。
これは避けられません。
忘れてはいけないことは「叱るポイントをしぼる」、そして「短めに」ということです。
どちらも、叱った内容を相手に響かせ、記憶に焼き付けることが目的です。
例えば、別室に呼ばれて叱られたとします。
「いつも思っていたんだけどさ、あなたは…..」
「加えて普段の生活態度も…..」
「もう、2年目なんだから学生気分を捨てて……」
などと色々な観点から言われると、これはただの説教になってしまいます。
言っている側は、
「この際、気になったことを一気に言おう」
という気持ちでいろいろ話し、
「まぁ、これだけ言えば分ってもらえたかな」
と思うに違いありません。
通常叱られている方は、
「はい…。わかりました….。以後気を付けます…。」
といったことを繰り返していますが、ほとんど内容は頭に入っていないと思います。
本音でいえば、
「あ~、早く終わらないかなこの説教。もう、何回も同じことを言われているような気がする….話が堂々巡りになっているのでは…」
「叱られてショック。同期に愚痴を聴いてもらおう。」
といった感じであまり叱られている内容を聴いていないのが殆どです。
その一方で、
「今回の打ち合わせで見せた資料は何だ。目的と結論がかみ合っておらず、誰もわからない内容だ。今後は発表前に私に確認するようにしなさい。以上。」
と言われた方が、
– 何が問題で
– 今後どうすればいいのか
ということが明確であるため強く心に残るはずです。
この様に、問題点と、今後はどうすればいいのかという具体的な助言を言うだけであればそれほど時間もかからないでしょう。
せっかく叱る側も労力を割くのであれば、相手の心に残ることを優先し、叱るポイントをしぼり、短時間で、ということを心がけることが重要です。
2.常習的に叱らない。
ここに2人の上司がいたとします。
一人は毎日のように怒鳴り散らしている上司。
もう一人は面倒見もいい、優しい上司。
同じことについてこの2人から叱られたとき、叱られる若手技術者はどのように感じるでしょうか。
普段から怒鳴り散らしている上司であれば、
「またあの人何か言っているよ。面倒くさいなぁ。」
というのが本音ではないでしょうか。
毎度毎度叱られていては、こちらもつらいですが、さらに本音のところでいえば、いつも怒っているので何に対して叱られるか、ということを考えるよりも、早くいつもの長話終わらないかな、と思うに違いありません。
それに対して、普段穏やかな上司からひどく叱られ、しかもそれが上述したようなポイントをしぼって短時間なものであったらどうでしょう。
「あの普段穏やかなあの人がなぜ….。自分に問題があったのだ。反省しなくては。」
と感じないでしょうか。
なぜなら、普段めったに怒らない人から叱られれば、そのインパクトはかなり大きく、叱られた方もなぜ叱られたのか必死に思考をめぐらすはずです。
そこで、叱られたポイントも明確で短時間であれば、叱られた内容は強くその人の心に響くことになります。
もちろん、指導者の性格もあるのですべてとはいいませんが、普段から怒鳴り散らしていると、いざ叱った時の内容がうまく相手に伝わらず、叱った側にとっても叱り損となり、無駄な労力となってしまいます。
また、若手技術者が生真面目すぎる場合、あまり毎日のように叱られていては心を病んでしまうかもしれません。
可能な限り常習的に叱ることは避けるよう心掛けてください。
3.指導者も見本となるような言動を心がける。
実はこれが最も大切です。
若手技術者というのは、自分の無力さ、未経験さを棚に上げ、指導者のことを厳しい目で見ています。
「この人は尊敬できる人に値するかどうか」
ということを判断したい、というのが厳しい目で見ている理由です。
もちろん、若手技術者が指導者を評価するのは身の程知らずというお話も分からないでもありませんが、これは若手技術者の本能ですので、外からの話で止めることはできません。
しかしながら、この指導者を厳しい目で見ているという若手技術者の特性を活用することは重要です。
つまり、叱るからには指導者も叱るに値する人間である、ということをその自らの立ち振る舞いで見せるのです。
具体的には、技術者が最も尊敬する要素2つ、
– 知恵を持っている
– 常に向上心がある
というところを重点的に見せることが効果的です。
「知恵を持っている」というのは、ただ単に知っているという「知識を持っている」とは全くの別物です。
知恵というのは、知識をベースに、具体的にどのような行動を起こせばいいのかということがわかり、さらに実行できるということです。若手技術者は実務経験が浅いので、せいぜい狭い範囲の知識しか持っていません。
さらに、若手技術者は「知っていることは正義である」という専門性至上主義からも抜け切れていません。
そのため、持っている知識を具体的アクションとして具現化できる知恵というのは羨望のまなざしを受けるはずです。そこには知識とは比較にならない価値が映し出されるに違いありません。
もう一つの「向上心」も技術者にとっては尊敬を得るために重要な要素です。
多くの知恵を持つためには、多くのことを学び、多くの実戦経験を積むという両輪が必要です。
その両輪を常にまわし続けるという原動力こそ向上心です。
向上心にあふれる技術者は常に輝いています。
若手技術者はこの輝きを敏感に感じ取り、輝いている技術者のもとでいろいろ学びたいと考えるのが普通です。
場合によっては若手を上回る成長を見せる指導者というのは、歳を感じさせない魅力があります。
この魅力は向上心が無くなくなると簡単に色あせるものです。
常に上を目指すという向上心。
技術者が本能的に追い求めるこの向上心を持ち続け、経験に裏付けられた知恵を持って助言を与える。
その姿を見せつけた上で「叱る」という行為が若手技術者に叱られた内容を心から考えさせる一因となるはずです。