技術者には一般的な人材育成は通用しない
技術者に一般的な人材育成は通用しないということは、企業組織にとって人材育成は重要である、というのは万人の共通認識である今日現在でも意外にも知られていません。
人材育成というキーワードでGoogleにて600万件以上がヒットする時代となり、人材育成は一つの大きな商業圏を作り上げているにも関わらずです。
そのため、
「技術者(エンジニア)」の人材育成
というのは、今でも技術者を有する企業が悩み続けている大きな課題の一つです。
なぜでしょうか?
答えは単純です。
技術者(技術職に従事する方々)は一般的な人材育成対象である、総合職や一般職とは「異なった育成アプローチ」が必要だからです。
そのため今現在も「技術者に特化した人材育成理論」というのが確立されておらず、関連する商品もほとんど存在しません。
では、技術者はどのような特徴があり、育成にはどのような問題があるのか。
以下に具体的な例を挙げてみます。
徹底した専門性至上主義に由来する人材育成教育の拒絶
技術職は一般的に理科系出身の方が多いです。
この方々は「知識の量が絶対的な正義である」という、受験生時代の性質を色濃く持ち続けているパターンが非常に多い。
「知っています、知識があります、わかっています」
といった動詞が大好きな人種なのです。
そのため、総合職や一般職では自然に受け入れられる人材育成理論も、
「私は技術者、研究者だから、そんな一般論に興味が無い」
という潜在意識により無意識に頭の中から除外してしまいます。
その結果、技術者をいくつもの優良な人材育成研修を受けさせてもみにならないのです。
実際、そのようなクライアントをいくつも見てきました。
技術者人材育成では、
「技術者は専門性至上主義という潜在意識を持つことで、育成に対する教育を拒絶している」
ということを本人たちに気がつかせることが第一歩となります。
この気づきがないままいくら教育をほどこしても育成効果は望めません。
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町工場の職人気質に由来する上司、先輩の威圧
技術者は他の職種よりも職人気質が強いのが一般的です。
「この仕事をするなんて、〇年早い」
「学生の付け焼刃の知識が役に立たないことを教えてやる」
「この技術は俺のものだ。知りたかったら俺の背中をみて盗め」
この様な考えの上司や先輩があふれている環境に入れられるのが普通です。
実は、上司先輩のこのような職人気質が若手技術者の育成スピードを大きく低下させ、さらに大きな問題として上司や先輩を上回る技術者が育ちにくい、ということがあります。
若手技術者の育成には、先輩技術者の存在は欠かせません。長年の経験に基づく考え方などは、若手にとってかけがいのない財産となります。
しかし、職人気質のため教え方がわからず、「話したそばから消えていく言葉」と「やっている姿を見せる」、そして「根性を鍛えるための叱責」、という古風な育成方法しかできないのです。
この様に技術者育成においては、その技術者の指導役である技術者が昔ながらの育成方法から脱却する、という意識改革も重要になってきます。
決定的に欠けている文章作成能力と実践的論理的思考力
一部の技術者を除き、一般的に技術者は文章作成能力が低い場合が多いです。
知識を詰め込むことが正義という信念を持ち、仕事は上司・先輩を見て覚えろという育成環境にいては、
「自分の文字を介して情報を伝達する」
というスキルは身につきません。
論理的思考力は一般理論理解では向上しない
技術者、研究者は論理的思考力というものの重要性は理解していますが、専門性至上主義を持っている彼ら、彼女らはその能力を鍛えようとする場合、十中八九「論理的思考力」、「ロジカルシンキング」という名のついた書籍を読みあさるか、セミナーや研修に参加するのが普通です。
しかし、論理的思考、ロジカルシンキングで述べられていることはどれも一般的な理論です。
これらを理解したとしても本当の意味での「実践的」論理的思考力は身につきません。
技術者に実践してもらいたい論理的思考力鍛錬法
では、どのようにして論理的思考が改善するのかというと、
「自らの最良品質で大量の文章を作成し、それを添削してもらう実践経験」
によって養われるというのが技術者育成研究所の考える方法です。
そして、文章作成能力に裏付けられた論理的思考力は育成に多大な労力がかかります。
これは文章を作成する側も添削する側にとっても負荷となります。
しかしながら、これ以外の近道はありません。
文章作成能力を鍛えることで、「書く力」だけでなく、情報収集力につながる「聴く力」、交渉力につながる「話す力」も鍛えられるのです。
こうすることで育成される若手技術者は先輩技術者に言われたことを論理的に理解し、それを文章作成能力を活かしながらまとめることで指導内容の吸収が進み、若手技術者を育成する先輩技術者も、論理的思考を駆使しながらの丁寧な説明と、作成した文章で後輩を指導できるようになるという技術者育成の好循環が生まれます。
技術文章作成とその添削という対話を基本とした若手技術者、先輩技術者の論理的思考能力。
これも技術者育成においては極めて重要なキーワードです。
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一般的な人材育成と異なる技術者育成の観点からの論理的思考力と技術文章作成力のスキル向上に向けた対応
ここで述べてきた通り、一般的な人材育成の観点だけでは技術者の育成は困難です。
技術者育成を行うためには、その指導をする側が技術者としての経験だけでなく、
より具体的には、責任を負う立場で当事者意識を持った実践経験をベースに、
研究開発や製品製造等の技術テーマを完遂した成功体験、
試行錯誤したものの問題が生じた、解決できなかった失敗体験等が必須です。
間接部門の立ち位置で、研究開発や製品製造の前線を傍観した経験だけでは、
話を聞く側の技術者から見て評論家であることが見えてしまうため、
本当の意味で技術者からの信頼を得ることは難しいのではないでしょうか。
当社で一般的な人材育成で重視される基本スキルを念頭に置きながらも、
本ページで述べたような「活字で技術的な情報を伝えるスキル」の習得に向け、
技術者育成コンサルティングや製造現場コンサルティングを通じ、
指導や支援を行っています。
論理的思考力と技術文章作成力が活字情報伝達の基本
当社が重要理論と掲げる技術業界不問の「技術者の普遍的スキル」があります。
これは5つのスキル要素から構成されますが、
ご紹介したような活字媒体での技術コミュニケーションにおいて、
論理的思考力と技術文章作成力が不可欠となります。
それぞれのポイントは以下の通りです。
論理的思考力
自己制御をしながら客観的目線で自らを見られる力
技術文章作成力
読者目線を持ちながら、難解な技術的”事実”をわかりやすく伝える力
技術者育成においてはこれらを念頭に、研修やOJTでの支援を行います。
短期の研修だけでなく、中長期にわたり技術チームの一員として技術的実務を基軸としたOJTでの技術者育成もサポート
短期の研修では、技術報告書の基本構成、技術報告書作成の意義、
作成時の留意点、技術報告書と一般的な報告文書との違いなどを説明した後、
技術報告書作成の演習を行います。
演習内容については個別にフィードバックを行い、
実務での活用を後押しします。
また、NDAを締結の上で中長期にわたってサポートすることも可能です。
研究開発や製造部門の技術チームの打ち合わせに参加し、
技術テーマや日々の課題・問題議論に関するそれらの推進、
並びに解決や改善に向け、技術報告書を含む活字媒体を実務で活用していただきます。
このようなOJTを通じ、論理的思考力と技術文章作成力の鍛錬を行います。
そして、現場の技術者向けの技術報告書などの文書作成だけでなく、
リーダーや管理職向けの添削の指導や支援も実施しています。
詳細については業務報告に関する一般的な人材育成と技術者育成の違いのページをご覧ください。
最後に
いかがでしたでしょうか。
技術者育成に関し、重要な点を3つほど挙げてみました。
この様に、技術者育成については技術者の特性を加味して慎重に進めていく必要があるため、いきなり複雑な人材育成理論を掲げられても、育成対象の技術者にたいしてはなかなかみにつかないのです。
よりシンプルに考え、上記のようなことを意識しながら育成プログラムを組立て、継続的に実施していくことが技術者育成には重要と考えます。