若手技術者は本当にチャレンジ精神がないのか
クライアントであるお客様からよくいわれるのが、
最近の若手技術者は
– チャレンジ精神が無く覇気がない
– 指示待ち姿勢が多い
といったことです。
技術者育成研究所のこれまでの育成経験ベースでは、チャレンジ精神が無い、指示待ち姿勢が多い、という若手技術者は必ずしも多いとは考えていません。
企業の人事担当者や経営者の方、もしくは中堅以上の技術者の方々がそう感じてしまうのは、いくつかの根本原因が考えられます。
以下に主な可能性を列挙します。
1.何かをやりたいと手を上げたことに対し、やらせてみようという風土がない
2.チャレンジ精神を持つ若手技術者の見本となる技術者が中堅以上でいない
3.書類選考による、学歴や学位を重視しすぎている
4.組織体制やスローガンが頻繁に変わっている
5.若手が上層部に物言える体制がない
次に、それらがなぜ若手技術者のチャレンジ精神を押さえつけ、指示待ち姿勢に向かわせるのか説明します。
1.何かをやりたいと手を上げたことに対し、やらせてみようという風土がない
若手の提案したことがたとえ企業にとって意味のない事、無駄なことであったとしても、とりあえず話を聴いてみる。
そして、場合によっては期間とお金を区切ってやりたいようにやらせてみる、という土壌があれば若手でもやってみようと思うのが一般的です。
理想的には、以下の2でも述べる見本となる中堅以上の技術者がいれば尚好ましいです。
チャレンジ精神を望むのであれば、まずそれを受け入れる受け皿を用意することが重要です。
そしてこの受け皿にもう一つ重要なのが、会社の経営者はもちろん、上司もあまり口出しをしないことです。
やって出てきたアウトプットにはこういうことを要求する、というのは良いと思いますが、途中途中に色々な評価会を設けたりしてはいけません。
また、当然ながらチャレンジ精神という自主性を重んじる場面ですので、強制参加はご法度です。
どうしても、この手の業務は管理職以上の人間の実績として、経営陣のご機嫌うかがいに利用されてしまう傾向があるため注意が必要です。
管理職の実績のためではなく、若手技術者が自主性を育むことが主目的であることを忘れないようにしなくてはいけません。
自主参加という形態では若手が参加しない、ということであれば参加しやすいようにするためにはどうしたらいいのか、と思案するなり、中堅以上の技術者が自主的に見本を見せるなりといった「チャレンジ精神」を見せることです。
このような継続した努力が、若手にチャレンジ精神を植え付けさせるのに重要なことです。
2.チャレンジ精神を持つ若手技術者の見本となる技術者が中堅以上でいるか
若手技術者というのは、自分のことはひとまず棚に置き、上司、先輩のことを厳しい目で見ています。
陰で、○○さんはどうこう、××さんはそうこう、といったうわさ話をしているのは日常茶飯事。
人によっては、中堅以上の技術者に対してダメ出しをしているような若手は多いのが普通です。
これは、若手技術者たちが見える範囲が極めて狭く、上司や先輩の行ってきた経歴や実績を知らないだけでなく、今やっている仕事の背景もみようとしないまま、目の前の言動だけですべてを判断しようとする、若手特有の狭い視野によっておこることです。
これは、若手技術者の一般特性ですので目くじらを立てて叱責してはいけません。
恐らく中堅以上の技術者も若手の時は同じようなことを考えていたはずです。
ここで、この中堅以上の技術者を厳しい目で見ている、という事実を利用するというように発想を転換することは盲点なのかもしれません。
見られる側の中堅以上の技術者が若手技術者にチャレンジする姿や積極的に提案する姿を見せる。
これこそが最良の教育となります。
この様な上層部の緊張感というのは若手技術者にも伝播し、若手も「こうなりたい」と奮起するはずです。
是非、若手技術者が人ばかりを気にするという特性を利用してください。
3.書類選考による、学歴や学位を重視しすぎていないか
学歴や学位というのはその人が物事に対して真面目に取り組むことができるのか、という一指標としては有効ですが、これを重視しすぎてはいけません。
最もよくない例が、学歴や学位によって職位の上がり方に差異が出てしまう事。
これは、学生の時の貯金で今後が決まるのだ、という印象が若手技術者に備わってしまい、いくら頑張っても学歴や学位には逆らえないんだ、と考えるようになりモチベーションが低下してしまいます。
きちんと成果を出すなり、企業の利益に貢献している人材であれば学歴があろうとなかろうときちんと評価を行う、という風通しのいい風土を感じた若手は生き生きするはずです。
なぜならば、自分も頑張れば何らかの報酬が得られるのだ、と考えられるようになるからです。
「頑張って成果を出せば報われる」
という評価システムを社内に構築することは極めて重要です。
専門性至上主義にとらわれる故、学歴を無意識に重要視してしまう技術者だからこそ、その常識を破壊するという試みが重要です。
4.組織体制やスローガンが頻繁に変わっていないか
軸ブレする組織に属した若手技術者は、言葉にできない不安にさいなまれ続けることとなります。
この不安により、前に一歩出て何かやってみよう、というチャレンジ精神を発揮することができないケースも多々あります。
1年前まで、
「当事業部はAという製品の販売に向けてあと、3年でその開発をやりきる!」
といっていたのに、1年後である現在、
「Aという製品ではなく、Bという製品に方針転換する」
と言っているようでは、若手技術者たちからも初めの戦略は何も考えずに立ち上げたのか?という疑いをもって見られてしまいます。
場合によっては正義と思ってやっていたことが、実は無意味になってしまい、今までやってきたことを全否定されることにもつながりかねません。
そのような状況にあっては、若手技術者は自らのチャレンジ精神を発揮して自主的に仕事を創出しよう、という気持ちにはなれないと考えます。
ただし、場合によっては変更を余儀なくされる場合もあるでしょう。
その場合は、その変更理由を論理的かつ客観的にきちんと説明する、ということが重要です。
組織の方向性は可能な限りぶらさない。万が一変更になる場合は、その理由を論理的かつ客観的に説明する。
これによって、若手技術者の不安感を低減させることが可能となります。
5.若手が上層部に物言える体制にあるか
これは最も多いケースです。
程度の差はあれ、パワーハラスメントで若手技術者の発言を徹底的に押さえつける文化をもつ企業というのはまだ多々あります。
もちろん、理不尽なことを言ったり、非常識なふるまいをしたことについては若手技術者を叱る必要はありますが、若手には発言を認めないという趣旨の圧力というのは、若手技術者が委縮をする一方で、新しい提案は出てこないでしょう。
そうすると、中堅以上の技術者や経営者は、
「最近の若手はおとなしい」とか「覇気がない」という事になるのです。
「俺が若いころは…..」
と言いたくなる中堅技術者の気持ちもわかりますが、その時と今の組織の状況は当然異なっているでしょうし、時代背景も全く別物。
そして何より、中堅以上の技術者は自分の過去を拡大解釈しがちである、という事実もあります。
やはり、「今」という時代と組織の現状に基づいた議論をしなくては、冒頭に述べたチャレンジ精神にあふれた若手技術者を育むことができません。
どんなことであれ、とりあえず話だけは聴いてあげる、という姿勢を見せることが大切です。
もしかすると若手技術者の提案や意見を聞き入れる専用のデータベースや聞き役の人を設定するというのもいいかもしれません。
どのような形にせよ、上に物を言える体制を少しずつでも形成していくことが重要です。
いかがでしたでしょうか。
一般的な例を用いて説明いたしました。
技術者育成研究所では、若手技術者の教育において、自主性と実行力を重視しています。
その中で自主性については、「自分の好きなこと、興味のあること」を軸に実業務に落とし込んでいくという理論が主となります。
若手技術者のチャレンジ精神を育み、組織を基礎から強くするという事について、技術者育成研究所は若手技術者育成プログラムと若手技術者育成コンサルティングの二本立てでサポートしていきます。