現場を担ってきた派遣社員から戦力となる正社員を選びたい
公開日: 2023年12月18日 | 最終更新日: 2023年12月18日
Tags: マネジメント, メールマガジンバックナンバー, 技術者の普遍的スキル, 技術者人材育成, 採用, 派遣社員
当社顧問先含め、どこの企業でも聞くことが増えたのが「人手不足」という言葉です。
より正確には、
「若手不足」
です。
一昔前は人材不足ということで人はいるが戦力になる人が少ないという表現でしたが、
今や若い人に限ると人そのものが少なくなってきています。
少子高齢化の影響が本格的に産業界にも波及し始めたと感じます。
そのため新卒を採用しようとしても応募が少なく、
また新卒採用できてもすぐにやめてしまうという悪循環が続き、
中小企業はもちろんですが社員平均年齢の急激な上昇に直面する大手企業も、
好ましくない状況にあります。
このような苦境の中、企業が取ろうとしている一つの戦略として、
「派遣社員の正社員化」
があります。
派遣社員といっても遂行している仕事が正社員のそれと変わりなく、
しかも社内で実務経験を有することから、
パフォーマンスを企業側が把握できているというのが強みとなっています。
この派遣社員の正社員化について、技術者を含む技術職にも広がってきました。
生産・製造や品質管理といった現場作業に近い仕事に加え、
中には研究開発のような業務もその対象になりつつあります。
今やこの動きは日本人に限ったものではなく、
日本に派遣された優秀な海外の技術者でも始まっている流れになります。
この辺りは過去に以下のコラムでも触れたことがあります。
※関連コラム
では実際に技術的な業務を推進する派遣社員を正社員にしようとなった場合、
技術職であることを踏まえてどのような観点で選ぶべきかについて考えたいと思います。
周りを見られるのは大前提
これはもはや技術職に限った話ではありませんが、
業務を俯瞰的にみられるか否かは社員として生命線のスキルです。
正社員とした以上、将来的にはリーダーや管理職になり、
企業側の人間として組織をまとめていくことを期待するのであれば当然といえます。
こういうと高度なことを考えるかもしれませんが、比較的シンプルです。
例えば、以下のようなことができるか否かが見極めるポイントです。
・他のチームメンバーが困っているとき、それに気がついて手伝うなどの配慮ができるか
・今行っている仕事に関連する他部署との連携のため、すり合わせや調整ができるか
どちらも社会人としては当たり前の事です。
しかし、当たり前を当たり前にできるのは言うほど簡単でもないのも事実です。
まずはこのような社会人としての基本資質があるかを見極めるのが重要です。
技術者としては技術文書が読めるのは必須
得手不得手、成長直線勾配に個人差はあれど、
やはり具体的な仕事の内容によらず技術者の普遍的スキルに関する観点は、
人材の選定で不可欠です。
特に重要な論理的思考力は、本来技術文書を”書く”ことで成長しますが、
当社のこれまでの技術者育成や関連する支援業務を踏まえた見解として、
いきなり技術文書をかける技術者は少数派です。
であれば、その前段階として
「技術文書を”読める”」
という観点で見極めることが一案です。
具体的なやり方を考えます。
技術文書を時間を決めて読んでもらい、内容の要点について口頭で説明してもらう
一番わかりやすいのが、
「派遣社員の方に取り組んでもらいたい業務に関連する技術文書を読んでもらい、要点を口頭で説明してもらう」
ということです。
研究開発であれば技術報告書、
生産・製造や品質保証であれば不具合発生/対応実施報告書が一案です。
ここで重要なのは時間を決めるということ。
ボリュームにもよりますが、5分程度が妥当です。
技術文書を正社員になっていただくことを検討している派遣社員の方に渡し、
5分経過したら、そこで読むのをやめてもらい内容の要点について口頭で説明してもらいます。
それぞれの理由について解説します。
時間を決めるのは集中力と限られた時間で対応できる力量を見るため
時間を決める理由は、限られた時間でどのようなアウトプットを出せるかを見極めるためです。
実際の業務で求められるのは、限られた時間内での状況理解と、
その限られた時間内での出せる最良の質のアウトプットに向け、
技術文書から要点を抽出する、いわゆる要点抽出力です。
要点抽出力は、技術者の普遍的スキルの根幹である論理的思考力の主要素の一つになります。
時間をかければできるのも大事ですが、
限られた時間でどこまで理解できるかはもっと大切です。
口頭でアウトプットさせるのは、どこまで理解したかを確認するため
技術文書の要点を書いてください、というと
「技術文書中でそれらしい箇所を抜き出して写す」
方がいます。これでは本当の力量はわかりません。
そこで、5分経過したら技術文書を見ない状態にし、
口頭で内容の要点を説明してもらうのです。
ここでは、
「技術文書について限られた時間内で理解した内容を、原文を見ずに相手にわかりやすく整理した上で伝える」
という高度な情報処理能力が必要となります。
このようなやり方は技術者の普遍的スキルのうちで”論理的思考力”を簡易的に見極める手法として、
当社の技術者育成支援でもよく用いていますが、
技術者の方の当該力の差が大変顕著に出るという実感があります。
上手く話すことを求めるのではありません。
つっかえつっかえであっても、途中に沈黙が入っても問題ありません。
それよりも話している内容が、技術文書で伝えたい内容の要点に合致しているのかが重要です。
ここまでで述べたような2点を、技術系の派遣社員から正社員の技術者になっていただく方の選定に活用いただければと思います。
ただし、選定する側のリーダーや管理職の方々も留意すべきことがあります。
自社にきちんとした技術文書が存在するかが大前提
まずはここです。
題材である技術文書が支離滅裂な内容であってはならないのはもちろんですが、
そもそも題材となる技術文書が存在しない企業も一定数あると思います。
技術文書を書くことをしてこなかった企業は、
技術職の人材選定という所でも課題を抱えることになるのです。
リーダーや管理職が技術文書の内容をきちんと理解している
これも前提となります。
評価する側のリーダーや管理職が選定に用いる技術文書の要点を押さえていない、
というのは問題外といっても過言ではありません。
選定する以上、選定する側も準備が必要です。
リーダーや管理職が事前に技術文書という題材を選定することで、
自社の技術文書に課題を見出すこともあるでしょう。
技術文書が無い、または質が低い、これらの技術文書を作成する業務フローがないといったものが、
上記の課題に該当するものの一例です。
このような自社状況の振り返りが、
今回の取り組みの”隠れた狙い”にあることをリーダーや管理職は理解しなくてはいけません。
人材不足はこの後、改善することは期待しにくいと思います。
特に若手技術者の不足は深刻ですが、その課題を嘆いていても始まりません。
このような状況で、年齢、性別、国籍にこだわらず、
今社内にいる派遣社員の中から積極的に正社員になってもらう、
という戦略も企業の生き残りには重要なのだと思います。
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