社員教育に対する法人減税の取り組みの盲点

公開日: 2017年8月25日 | 最終更新日: 2017年8月28日

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つい先日の日経新聞を初めとした全国紙、地方紙で経産省と財務省が2018年度税制改正で、社員教育を拡充した企業の法人税を減税するしくみの検討を開始するという記事がかかれていました。


日経新聞の一例を以下に示します。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDC22H2G_S7A820C1MM8000/

 

控除の対象と想定されるのは、留学の費用や社員研修の受講費、
公認会計士などの専門的な資格の取得費用など、
とのことですので技術者の人材育成も対象になる可能性があります。

 

今日はこの記事を参考に技術者人材育成についてもう一度考えてみたいと思います。

 

 

国の後押しは極めて重要


技術者人材育成に限らず、人材育成全体に対し国の後押しというものは非常に重要です。


今回のように法人税の減税といった経済面はもちろん、
人材育成の重要性について社内で方向性を統一するにあたってもその一助となるためです。


まずは社員教育という単語で国が前向きに動き始めたことは製造業にとっても非常に良い流れといえる、ということは間違いないといえます。

 

 

国の考える人材と現場で必要とされる人材の乖離


国が人材育成、つまり社員教育に力を入れていこうという方向性を示した背景は、

 

「社員の質を上げ、生産性向上を促す」

 

というのが根底にあり、これがアベノミクス税制の目玉政策の一つと書かれています。

 

当然ながら生産性向上は重要です。


しかしながら現場で必要とされているのは生産性向上だけではありません。


決められたことを効率よく早くやるというだけでは業界によっては万能の正義なのかもしれませんが、製造業にとっては間違いなくこれだけでは生き残れません。

 

最初は決められたことを効率良くやることを求められても、いくつく先は、

 

決められたことを安くやる

 

という流れが必ず主流となり、人件費の安い海外との戦いに陥ってしまうからです。

 

昨今のIoTを初めとした情報技術の製造業への応用一辺倒も見ていて危うさを感じます。

 

大量生産をすれば生き残れるのは製造業の中で巨大企業のほんの一部。

その巨大企業であっても生き残れる保証はありません。
そこまで似たようなものを大量に必要とされる製品は限られているからです。


欧州、北米発祥のものを改善して高効率を基本に大量に売るという戦略で生き残れる業界は極めて少なくなりつつあります。

特により規模の小さい中小企業が生産性だけ求めては生き残れないのは火を見るより明らかといえます。

 

いずれにしても今回の新聞記事でも生産性以外の要素に対する動機の言及が少ない(または無い)ことに、現場で求められている人材像とのかい離を感じているのが現場の最前線の指導者としての実感です。

 

 

製造業で必要とされる人材とは何か


では実際に企業の最前線で人材教育と高い専門性を持っての企業指導を行っている実感としてどのような人材が求められているのか、ということについて述べてみたいと思います。


一言でいうと、


「読む、聴く、話すの基礎力となる論理的思考力」


です。


生産性、リーダー、イノベーションなども結局のところこの根本ができていないところに上乗せするために機能しないケースが本当に多い。


きちんと人の話を聴き、それをまとめ、その上で人に伝達する力が無ければ生産性が上がるわけがありません。


同じように人をけん引するリーダーにもなれません。


もちろん、斬新なアイデア、または既存技術の組み合わせによる新しい技術領域を切り拓くためにも上記の論理的思考力が極めて重要です。研究開発の計画、調査、実行、まとめ、指示といったことができなければテーマを動かすことさえままなりません。

 

ここで私が実際に企業指導を行っている対象として多い技術者を例として述べてみたいと思います。


程度の差はあれこの辺りの力、つまり論理的思考力を持っている技術者は極めて稀であり、
仮に居たとしても多くの技術者は組織の中では一定の評価はあるものの力を発揮できず、
力を持て余している状況に陥っているのが常です。


理由は簡単です。


上位にいる方々にその方々の力を引き出すだけの論理的思考力が足りないケースが多いからです。


組織がある程度の規模以上になるとこの状況は顕著となります。

 

つまり私の企業における技術者指導で実感しているものとして、根本的な課題は以下の2点だと思っています。

 


– 若手だけでなく中堅、ベテランまで論理的思考力が不足している

 

– 稀に論理的思考力の高い社員(技術者)もいるが、上が理解できないため優秀な社員の力が発揮できていない

 

 

冒頭述べたように国が社員教育に前向きに取り組もうとしていることは非常に良いと思います。

 

その一方で現場では上記の問題が根付いてしまっているということも認識しなくてはいけません。

 


論理的思考力とは具体的に何なのかについては様々な企業や大学で話をしており、
10月には栃木県の依頼により県庁にてその辺りの話をする予定です。


この現場での現実を踏まえた社員教育がきちんと施されれば、製造業に限らず、
幅広い日本の産業の前進と発展につながると期待されます。

 

ご参考になれば幸いです。

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