年収に不満を感じている若手技術者に必要な育成の取り組み

公開日: 2024年10月7日 | 最終更新日: 2024年11月15日

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年収に不満を覚える若手技術者には技術テーマと裁量権を与え、適切なフィードバックを与えることから始める

 

 

リーダーや管理職が若手技術者本人から、
もしくは人づてで年収について不満を見聞きした場合の技術者育成の観点からの対応を考えます。

 

 

 

 

 

技術者の間でも年収を気にする割合が高まりつつある

 

一昔前までは、年収に関する話題はタブー視される傾向にありました。

 

今や営業職などのインセンティブが発生する職種や外資系企業の従業員に限らず、
日系企業の技術職、つまり若手技術者を含む従業員の間でも遠慮なく話をする時代となってきているようです。

 

 

明確な統計データがあるわけではなく、どちらかというと限られた実例に基づく話でしかありませんが、年収に関する情報はインターネットで入手することに加え、同年代での対面での話の中で話題に上ることもあるとのことです。

 

 

勤務する組織規模の相関も多少なりあるようで、
大企業というより、中小企業の従業員の方の方が年収に関する話をする傾向が多い印象です。

 

 

そして年齢にも相関があり若手技術者のように若い方の方が、
年収に関する話をすることにあまり抵抗が無いと感じています。

 

 

良いか悪いかは別として、明らかに時代は変わってきています。

 

 

机上の空論ではなく、
実際に様々な若手技術者の方と話して体感していることです。

 

 

 

 

 

高い年収を求めて転職活動を考える若手技術者

 

年収というのは、その人を描写する定量指標の中で最もわかりやすいものの一つです。

 

 

例えば若手技術者が同年代の技術者と年収の話題をした際、
自分の方が低かったとします。

 

 

このような時に現職の待遇について強い不満と不安を感じ、
最も代表的な行動パターンの一つである

 

「転職活動の本格化」

 

に軸足を移すと考えられます。

 

 

転職を決めた”主として20代”の若手技術者は、
表向きはスキルアップ、自分のやりたいことができた、
という趣旨のことを述べると思いますが、
本音としては年収が大きなウェイトを占めていることは珍しくありません。

 

 

技術者として仕事のスキルも経験も少ない若手技術者が、
スキルアップや自分のやりたいことを本当に見つけるのは容易ではないことを踏まえれば、
年収という数値を基準に転職する判断をすることは自然であるとも言えます。

 

 

これに対し、30代から40代の中堅技術者は純粋に自らの技術力を高めたいと考えて転職を考える傾向にあります。

 

 

 

当然年収も指標ではありますが、技術業務の実践経験が豊富な中堅技術者の場合、
自らのできることだけでなく、何をもって組織に貢献できるかという視点を持っており、
今、多くの企業で最も求められる即戦力の技術者層とも言えます。

 

 

今回触れる若手技術者は、
あくまで実務経験の浅い、
主として20代の若手技術者を指していることを念頭に読み進めていただければと思います。

 

 

 

 

 

年収向上を含む給与形態を変更するのは簡単ではない

 

仮に年収を上げてほしいと考えた場合、
若手技術者を含め、従業員の立場だけからいえば給与を上げてほしい、
という要望を組合に訴えるといった行動を起こすでしょう。

 

 

組合が無ければ総務部門がその受け皿になるのかもしれません。

 

 

これは憲法二十八条で団体交渉権として認められている従業員(使用人)の権利の一つですので、
要求を出すことは認められています。

 

 

この要求に企業が実行をもって応えられることは労働契約の変更であり、
労働契約法の第二章の第八条にその内容の記述があります。

 

 

※参考情報

 

労働契約法

 

 

 

ただし企業側として上記の行動を起こすのは、必ずしも簡単なことではありません。

 

 

まずは取締役会での承認と労働基準監督署への届け出が必要です。
株主総会での承認が必要な場合もあるのではないでしょうか。
簡単に変更しましょう、というわけにはいかないのです。

 

 

企業の抱える経費で人件費はその割合が高い傾向にあり、
経営責任のある取締役は簡単に経費の増加を認められないと考えます。

 

 

 

よって、企業側の視点が求められる管理職に加え、リーダークラスの従業員も、
年収に不満を示す若手技術者に年収アップ以外の選択肢でアプローチすることが求められます。

 

 

そしてできれば従業員の不満を低減するだけでなく、
技術者育成の観点を取り入れ、若手技術者の成長につなげたいところです。

 

 

では、どのような取り組みをすべきなのでしょうか。

 

 

 

 

 

若手技術者に裁量権をもって技術業務に取り組ませるのが第一

 

結論から先に言うと、

 

「若手技術者に裁量権をもって技術業務に取り組ませる」

 

ことが重要です。

 

 

 

その理由と留意点について述べます。

 

 

 

 

若手技術者は承認欲求の段階

 

年収を不満だという若手技術者の心理は、
金銭的な不満や不安だけでなく、根本的には

 

「自分に自信が無いため認めてもらいたいという”承認欲求”」

 

が支配的であることが多いです。

 

 

 

年収の高さが”認められている”という指標とつながっているのです。

 

 

 

そのため、若手技術者の心理を先回りすることが大変効果的です。

 

 

技術者として入社した以上、
自分が仕事を進めている実感を得たい。

 

 

 

そのような若手技術者の本音に向き合う意味で、
仕事を任せ、若手技術者自身に裁量権を持たせるのが重要です。

 

 

 

 

 

任せて放置ではなく”フォローする”

 

若手技術者が裁量権をもって実際に技術的な仕事を進めるにあたり、
経験やスキルが不足していることもあって、
彼ら、彼女らは様々な課題に直面します。

 

 

基本的にはそれを試行錯誤で乗り越えることをリーダーや管理職は期待し、促してほしいのですが、
難しいこともあると思います。

 

 

そのような様子が見えたときは、

 

「最近の様子はどうだ」

 

「必要な手助けはあるか」

 

といった声掛けを、リーダーや管理職が若手技術者に対して行うことが求められます。

 

 

 

定例的に口頭ベースで進捗確認を行う、というのも一案です。

 

 

 

 

任せつつもフォローするという姿勢で、
リーダーや管理職は若手技術者の技術業務推進を支援してください。

 

 

※関連コラム

研究開発業務状況を若手技術者に速報レベルで報告させたい

 

 

 

任せる業務は技術的内容が含まれる短期で小型のテーマが望ましい

 

若手技術者に任せるにあたり、
いきなり大掛かりなテーマを任せるのは若手技術者にとっても荷が重いでしょう。

 

まずは技術的要素が含まれているものの技術的難易度が低く、
またあまり長丁場ではない、数週間程度で完結するものが望ましいです。

 

以下のようなものが該当する技術業務の一例です。

 

  • 未知の材料の組成分析/観察
  • 材料の試験片加工
  • 業務の一部のVBAによる自動化

 

 

技術的な要素が入りつつも、それほど複雑な技術業務ではなく、
かつゴールが分かりやすいと感じていただけると思います。

 

 

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納期を必ず守らせる

 

技術者育成で盲点となるのが、業務推進計画の未達です。

 

予め○月○○日までに完了させる、という計画を立てたとしてもそれが守られないようでは、
技術業務の基本ができていないことになってしまいます。

 

 

リーダーや管理職は業務を期日までに完結させるよう、
フォローする必要があります。

 

 

計画段階で最終納期だけでなく、
ある程度の手順を盛り込んだステップを整理の上で、
ガントチャートを作成し、
進捗を管理するのが一案です。

 

 

 

技術業務の推進結果について客観的な評価を行う

 

いわゆるフィードバックです。

 

 

業務推進について、何ができていて、何に問題があったのか。

 

 

リーダーや管理職は、
これらを一つ一つ丁寧に若手技術者に対して説明し、
必要に応じて若手技術者からも発言させます。

 

 

フィードバックではどうしても課題に目が行きがちですが、
そもそもの狙いが承認欲求を満たすことにあることを思い出し、
できたところもきちんと伝えてください。

 

 

これにより、

 

「自分なりに進めたことが評価された」

 

と若手技術者も達成感を感じることができるのです。

 

 

 

さらに、若手技術者が成長するために必要な助言は、
惜しみなく伝えてあげてください。

 

 

 

※関連コラム

 

若手技術者への評価の伝達方法

 

 

 

 

 

リーダーや管理職も若手技術者からの信頼を得るため自己研鑽する

 

ここまで述べてきたことを行えば、
若手技術者の年収に対する不満が成長への活力に変化するかというと、
それほど単純な話ではありません。

 

 

若手技術者の多くは意識する、しないに関わらず、

 

「リーダーや管理職は自分たちが尊敬できる相手か」

 

を見極めようとしています。

 

 

尊敬できない相手からの話は”説得力が無い”と判断してしまう可能性が高いのです。

 

 

過去の話ばかりで新しい話が無い

脚色された武勇伝を何度も述べる一方で、現段階での活躍が認められない。

技術的な質疑応答ができない

技術的な質問をしても的確な助言や答えが返ってこない。

現状維持の守り姿勢

今の地位でより上を目指そうといった向上心を感じない。

成果に対する言及の少なさ

口を開くと説教ばかりで、自分たちに足りないことを羅列する一方、何ができているのかを全く触れてくれない。

 

 

上記のような印象を若手技術者がリーダーや管理職に対して持っている場合、
これまで述べてきたことをリーダーや管理職がきちんと行っても効果は見込めません。

 

 

若手技術者から見て信頼に値するかどうかはそれほど重要なことなのです。

 

 

 

よって、リーダーや管理職も技術的なことに限らず、
役職として求められていることに対して全力で取り組み、
若手技術者から目指されるような場所に到達するよう努力を継続することが肝要です。

 

 

 

 

 

本コラムに関連する一般的な人材育成と技術者育成の違い

 

恐らくですが一般的な人材育成において、今回取り上げた年収に関する若手社員の不満や不安への対策を念頭に置いた取り組みは少ないと思います。

 

 

強いて言えば採用の段階で、福利厚生の充実度合いを述べるという話はあるかと思いますが、
人材育成というよりも採用戦略です。

 

 

 

一方で技術者育成の場合、若手技術者の自尊心の低さを念頭に置いた対策が重要です。

 

 

企業で即戦力になる若手技術者の多くは向上心が高い一方、
承認欲求も高いことを踏まえ、
技術業務を自らの裁量権を行使しながら完遂させるという成功体験を重視します。

 

 

若手技術者の自主性を重視しながらもフォローを行い、
業務完了後にできたところを客観的に認めるフィードバックを行うことはもちろん、
フィードバックを行うリーダーや管理職にも自己研鑽を求めるという考え方は、
若手技術者の心理を先回りした取り組みといえます。

 

 

 

 

 

本コラムに関連する具体的な技術者育成支援の例

 

当社の技術者育成コンサルティングでの対応となります。

 

 

研究開発を行う技術チーム向けの技術者育成コンサルティングでは、
今回言及したような若手技術者の不満が出る前の段階で、
技術テーマの立案と推進、フィードバックのやり方についての指導と支援を行います。

 

 

技術テーマ立案では、技術テーマ企画の基本を研修形式で指導したうえで、
日々の業務の中からどのテーマを選定するか、
リーダーと管理職の方々からヒアリングを行います。

 

 

そのうえで若手技術者にフォローを行いながら技術テーマの立案を行い、
テーマを公的業務として組織内で認知していただきます。

 

 

細かいフォローはリーダーと管理職の方の裁量に依存しますが、
フォローのやり方の基本は事前にお伝えし、
どのようなフォローができたかの確認を継続的に行うことで、
フィードバックの質向上を目指します。

 

 

同時にリーダーや管理職の方々が技術的な成長を目指している、
という姿勢を若手技術者に示すための取り組みのご提案を行います。

 

 

より具体的には、技術チームに足りない技術的観点を提示の上、
取り組みの方向性を複数案提示し、
議論の上で、リーダーや管理職の方々自身に動いていただくことで、
若手技術者からの信頼を獲得することを目指します。

 

 

 

 

 

まとめ

 

年収に対して不満や不安を覚える若手技術者は、
今後増えていく可能性があります。

 

本来、収入は年収という短期目線ではなく、
生涯収入という長期目線で考えるべきですが、
そのような話を若手技術者に理解させることは無理でしょう。

 

 

そして、企業組織が給与増額を認めるのはそれほど容易ではありませんが、
福利厚生の充実だけで乗り切るのも難しいと思います。

 

 

ここでは視点を切り替え、
不安や不満の原点にある承認要求に目を向け、
技術者育成の観点で若手技術者を成長させる、
という戦略が重要です。

 

 

技術テーマを裁量権をもって完遂することを適宜フォローを行いながら若手技術者に体感させ、フィードバックを与えることが、若手技術者の年収に対する不満を自らの成長の原動力に変更させるにあたって大変効果的です。

 

 

加えてリーダーや管理職自身が自己研鑽をする姿勢を見せることで若手技術者の信頼を獲得する流れが、若手技術者育成において大変価値あるものになるでしょう。

 

 

 

 

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