配属に対して強い意志やこだわりを持つ新人技術者とどう接するか

公開日: 2024年7月1日 | 最終更新日: 2024年7月2日

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新人技術者の配属へのこだわりは否定せずスキルアップフローを示す

 

 

研究開発をやりたいと主張、もしくはその考えを強く示す、
入社間もない新人技術者に対し、
リーダーや管理職はどのように業務を割り当てるべきかについて考えたいと思います。

 

 

※本コラムに関連する当社事業: 技術者育成コンサルティング

 

 

 

 

 

入社間もない新人技術者からの配属希望は無視できない時代

 

配属は新入社員の方々にとって重要な節目だと思います。

 

 

一例として技術職として入社した新人技術者が、

 

「研究職として研究をやりたい」

 

「分析部門で分析だけやってみたい」

 

「実際にサンプルを作って試験をする部署に行きたい」

 

「社内だけでなく、社外の人と関わる技術営業のような仕事もしてみたい」

 

等の主張した場合、それを何かしらの形で考慮することが企業に求められます。

 

 

 

新人技術者の主張は考慮することがあってもすべてかなえる必要はない

 

これは実際に研究開発の現場で活躍する、
若手技術者、中堅技術者の方々を指導して感じていることですが、
実は入社当初の希望がかなってその仕事をしてきたという方は、
どちらかというと少数派です。

 

 

私自身も技術職として入社した時は、
あの部署に行ってほしいと一本釣りのような形で決まっていました。
配属希望の話をしたか否かの記憶はありません。

 

 

時代が違うのかもしれません。

 

 

 

その後、私は転職をしましたが、
中途採用の試験に応募した際に自分がやりたいことを主張しましたが、
結果的には異なる部署から声がかかったという実体験を持っています。

 

 

しかし私自身の経験に加え、指導した技術者の方々の発言を踏まえると、
一つの傾向が見えてきます。

 

 

 

自分の希望と異なる領域の仕事に取り組んだことで視野が広がったという感想の多さ

 

多くの若手技術者、中堅技術者が述べるのが、

 

 

「想定・希望した部署と異なる配属になったことで、自分の思わぬスキルや適性を発見した」

 

 

という趣旨の発言です。

 

 

 

私自身も元々は有機化学の専攻でしたが、
最終的にキャリアを最も長く過ごした企業での専門は機械工学が中心でした。

 

少なくとも有機化学を使った仕事はかなり少なかったと記憶しています。

 

 

希望以前に、専門性さえも合致していなかったことになります。

 

 

しかしこの経験が、化学と物理の両方を理解や、
技術者にとって数学が基本スキルとして重要であることへの気づきにつながり、
これらが企業の技術者に対する指導や支援にとても役立っていると思います。

 

 

技術者の普遍的スキルの考え方を構築できたのも、
異業種技術での奮闘にあったと考えます。

 

 

 

※関連情報

 

技術者の普遍的スキルとは

 

 

 

いずれにしても間違いなく言えるのは、

 

「自分が想像しなかった配属経験を通じて、技術者としての視野が広がった」

 

ということです。

 

 

 

経験がない、知らないというのは新人技術者の持つ”最大の武器”

 

経験がない、知らないということにコンプレックスを持つ新人技術者、
または入社数年程度の若手技術者は多いようです。

 

専門性至上主義にとらわれてしまえば、
致し方ない部分もあります。

 

しかしあまりいろいろ考えずに頭から突っ込むような無謀なことができるのは、
新人技術者、若手技術者の方々の特権でもあります。

 

 

経験がない、知らないというのは実は大変貴重な武器なのです。

 

 

 

以上のことからも、リーダーや管理職は仮に新人技術者が配属先にこだわったとして、
それをすべて受け入れる必要はないといえます。

 

 

 

むしろ社会人としての経験の浅い評論家の要素が強く残る新人技術者の、
主観的視点による選択肢に偏らせてしまうのは、
彼ら、彼女らのスキルアップを阻害することを手助けすることにもなりかねません。

 

 

新人技術者の希望に沿った道だけを示すのは、
育成をする立場にある方々として無責任な行動である、
といっても過言ではありません。

 

 

 

 

 

頭の中を整理させるという意味で配属希望に関する意見を話させることは重要

 

ただし注意点もあります。

 

 

それが、

 

「頭ごなしにリーダーや管理職、場合によっては人事担当が”一方的”に配属先を示さない」

 

ことです。

 

 

 

先述の通り、新人技術者の配属希望に偏ることは、
場合によっては本人の選択肢を狭める可能性があることを考慮すれば、
長期間にわたる技術者育育成の観点からは望ましいといえません。

 

 

だからと言って新人技術者の希望に一切耳をかさないというのも違います。

 

 

 

新人技術者の”頭の中の整理をさせる”意味でも、
配属先に希望はあるかという投げかけを行い、
本人に話をさせる機会を定期的に持つことも重要です。

 

 

 

新人技術者の希望を踏まえ、配属先での取り組みを説明する

 

新人技術者が希望する配属先が、
実際のものと異なった場合を例にします。

 

その場合、

 

「希望は○○で、○○のようなスキルを身につけたいことは理解した。
配属は○○になるが、そこで○○を心がけて日々の業務に取り組んでもらうことで、
その希望に近づくと思う。」

 

といった言葉をかけるのが重要です。

 

 

 

 

 

研究をやりたいと主張する、またはその気持ちを示す新人技術者の例

 

一例として、冒頭でもご紹介した

 

「研究職として研究をやりたい」

 

という新人技術者のケースを考えます。

 

 

 

学部、または大学院まで出たような新人技術者の多くは、
企業においても大学の延長線にあるような生活のイメージしかないため、
同じような流れで企業生活を過ごすと考えることも多いようです。

 

 

現状維持バイアスの一種として考えれば理解できることかもしれません。

 

 

 

現状維持バイアスというのは誰しも持っている心理的癖でもあり、
一例として多重債務者の消費行動に焦点を当て、
行動経済学の現状維持バイアスの考察を行っている研究例もあります。

 

 

自己制御機能の不全という単語により、
行動を検証しているのが興味深いです。

 

 

 

 

※関連情報

 

嶋田 美奈,現状維持バイアスと心理的特徴の関係:多重債務者の消費行動から,パーソナルファイナンス学会年報, 2010, p.49

 

 

 

研究開発業務が完了し、生産・製造フェーズまで達する景色が見えないといい研究はできないことを伝える

 

技術者育成の観点からいうと、

 

「企業で研究を行う技術者は、必ず納期の厳しい開発業務を経験し、それを量産までもっていく経験が必須である」

 

ことの理解がポイントとなります。

 

 

 

理由をいくつか説明します。

 

 

 

仕事の流れの理解

 

企業における研究で重要な観点は何かという質問をもし投げかけられた場合、私であれば

 

 

「目指すべき方向がはっきりしており、そこに向かう手段や選択肢が変化してもぶれないこと」

 

 

と答えます。

 

研究というものは産業界でも学術界でも同じだと思いますが、
目指すべき方向性は変わらなくとも目標が変化するなど、
技術業務の中で”研究”というのは大変広い視野が必要なものの一つになります。

 

 

よって企業での研究では、

 

「自らのやっている研究テーマが、開発、試作、量産という流れにどう乗っていくかという出口」

 

を常に意識できること視点が”必須”です。

 

 

 

このような視点を得られる経験では、

 

「社内の他部署である多くの社員との協業や議論が必要である」

 

ことを痛感するはずです。

 

 

 

企業での研究はあくまで最終的には製造業企業の要ともいえる、
新製品のリリースまで到達できなくてはいけません。

 

 

ここまでの景色を見るためには、
中長期目線の業務ではなく、
短期集中でプレッシャーのかかる”開発”を担うことが求められます。

 

 

「仕事の流れを理解するため、研究をやる前に一度開発業務を経験しなさい」

 

 

と伝えれば、多くの新人技術者も理解できるでしょう。

 

 

 

時間軸を守ることの重要性

 

研究は徹底した自己管理が求められます。

 

しかもそれは学生時代のものとは別の側面もあり、個人プレーではなく、上司や周りのチームメンバーとの連携や情報共有と相談をしながら、自らの仕事を適切に推進する必要があります。

 

 

研究は個人プレーであると考える技術者も多いようですが、
企業においては間違いなくチームプレーです。

 

 

ここで重要となるのが時間軸という意識。

 

 

業務時間という限られた枠内で、
どのように仕事を進めていくかは、
ほぼ自由に自分だけの時間を使えていた学生時代とは大きく異なります。

 

 

技術チームが想定する時間軸に、
自分たちが推進する業務進捗は合致しているか、
という観点が中堅・若手技術者だけでなく、新人技術者にも必要不可欠なのです。

 

 

よって開発という明確な納期のある仕事を遅延なく進めることを通じ、
時間軸の重要性を新人技術者に理解させる必要があります。

 

 

「研究といっても企業では決められた時間軸で自己管理しながら、
かつ周りと協業、連絡、相談しながら進める必要がある。
この時間軸の重要さとチームプレーを開発という仕事で学んできてほしい。」

 

とリーダーや管理職から説明するのが一案です。

 

 

 

仕事に対する当事者意識の醸成による周りからの信頼構築

 

技術者の指導を通じて一番重要だと考えるのは”当事者意識”です。

仕事である以上、これを持つのは”当然”ではありますが、
多くの技術者に欠けていることを、
企業における技術者育成の現場で強く感じます。

 

 

どこかに”やらされている感”があり、そして”他人事”なのです。

 

 

自分が望んだ技術テーマではないから、
といった発言をする技術者が目に浮かびますが、
その考えは明らかに間違っています。

 

 

間違えの根幹は、

 

「仕事がすべて自分で始まり、自分で完結できるという勘違い」

 

にあります。

 

 

 

そもそも研究テーマという仕事を割り当てられるのは、

 

 

「周りから信頼を得た技術者に限られる」

 

 

はずです。適当に仕事をする技術者がそのようなチャンスをもらえるわけがありません。

 

 

 

どのような仕事だろうと、無心に精一杯やってみる。

 

 

新人技術者や若手技術者しかできない姿勢です。

 

 

 

そのような一生懸命さ、つまり当事者意識を持っている技術者は、
周りから徐々に信頼をされるようになります。

 

 

このような信頼を構築して初めて、

研究のような自分でやりたいような仕事のチャンスが回ってくるのです。

 

 

中村博士の青色発光ダイオード開発は有名な話ではありますが、そのようなチャンスを誰でももらえたわけではなく、恐らく目の前のことを一生懸命やった方だからこそ得られた研究という自由フィールドだったと、私は考えます。

 

 

 

※関連コラム

 

技術者のイノベーションと 企画力2: 企画力 発揮のための3大要素

 

「自らやってみたい研究テーマを提案するには、周りからの信頼を獲得しなくてはいけない。
まずはプレッシャーもかかり、かつ時間軸も厳しい開発の仕事において、
自分が目前の仕事を一生懸命取り組む技術者であることを示すことで、それを達成してほしい。」

 

 

そう言われて否定的な感情を持つ新人技術者は少数派なのと、
そもそもこの手順を踏めない新人技術者が将来成果を出すかは疑問です。

 

 

 

 

 

本コラムに関連する一般的な人材育成と技術者育成の違い

 

研究職として研究業務に取り組みたい新人技術者への対応を一例に、
配属先に希望やこだわりを持つ技術者への対応についてご紹介しました。

 

 

一般的な人材育成では、日々の実験、試験、そして指導教官や上級生との議論、
学術論文の読み方理解を通じた論文の読み合わせ、学会での発表や論文投稿といった、
大学の理系学部や学科での一般的な研究室生活は”ほぼ考慮されない”と思います。

 

 

 

それに対して技術者育成ではこれら学術界での教育課程を重視し、
産業界に属する企業との違いをきちんと説明します。

 

特に新人や若手技術者のスキルアップに対する考え方を、
企業活動のそれに合うよう、短期的な研修だけでなく、
中長期にわたって今回のようなOJTを通じたスキルアッププランの提示方法を、
新人・若手技術者本人に助言することはもちろん、

必要に応じてリーダーや管理職の方々への指導や支援を行うことも可能です。

 

 

 

技術者育成という観点から、新人技術者や若手技術者が安心して社内でスキルアップする方向性を示す支援を行うことで、技術業務のモチベーション維持・向上に加え、離職率低下にも貢献します。

 

 

 

 

 

まとめ

 

配属というのは新人技術者にとって大きな変化のきっかけとなります。

 

最終的には人間関係というのは大きな因子となるのはどの職種でも同じですが、
少なくともそれ以外の要因は企業側で最善の指針を示せるよう、
準備をすることが求められます。

 

 

優秀な新入社員を採用しにくくなっている今だからこそ、
配属については新人技術者に意見を言わせ、
そのうえでリーダーや管理職から配属に関する説明を、

スキルアッププラン含めて適切に行い、
将来に対する不安を抱かせないことが肝要です。

 

 

 

 

 

最後に

 

当社では上述した内容を含む、
主として研究開発を行う技術者向けの技術者育成コンサルティングを提供しています。

 

技術者育成コンサルティングのページ

 

 

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お気軽にお問い合わせください。

 

 

 

 

 

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