研究開発系の若手技術者のリアリティー・ショックを緩和するには

公開日: 2024年5月6日 | 最終更新日: 2024年5月7日

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研究開発系の新人_若手技術者のリアリティーショックは研究室生活再現で回避

 

 

最近は退職代行というサービスを用い、自ら企業側に関与せずに退職をするという会社員も増えているようです。
中にはリアリティー・ショックを感じ、入社数日から1カ月程度で退職するケースもあります。

 

顧問先でも退職代行を使って退職した社員が居たという話が出始めており、
ここは今までになかった変化と言えます。

 

 

 

リアリティーショックとは

 

なお、リアリティー・ショックというのは、
言ってしまえば理想と現実の違いに直面することを指すようで、
その違いを痛感してモチベーションが低下し、最悪の場合離職につながる心理の事をいうとのこと。
新人、若手に限らず、急激な環境変化により誰でも陥る心理状況との言及もあります。

 

 

※参照情報

 

リアリティー・ショック(日本の人事部)

 

 

 

新人、若手の離職率に大きな変動はない

 

最近の新人・若手の3年以内の離職率は上がっているという話もあるようですが、
恐らく言うほど変化はないと感覚的には感じています。

 

実際に統計データを見ても、
離職率は大卒で30%強、高卒はむしろ低下傾向にあり35%強です。

 

 

※参照情報

 

新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します(厚生労働省)

 

 

 

当然ながら新人や若手の離職について、
雇用する企業側としては採用活動に対する人的、時間的、費用的投資が無駄になるため、
大変な痛手です。

 

 

その一方でリアリティー・ショックが生じた原因が社員側だけにあるとは限らず、
企業側にその一因がある場合もあるでしょう。

 

 

後者の場合、必要な対策を講じることでリアリティー・ショックを少しでも低減することが、
企業に求められます。

 

 

 

今回は研究開発系の新人、若手技術者が直面するかもしれないリアリティー・ショックについて、
原因の可能性に言及した後、企業側の対策として技術チームのリーダーや管理職が取り組むべき施策について解説します。

 

 

 

 

 

新人、若手技術者が感じるリアリティー・ショックの原因と対策

 

まずは新人、若手技術者が感じるリアリティー・ショックについて考えます。

 

 

 

技術系社員でも最大の原因は「人間関係」

 

リアリティー・ショックの最大の原因は、
先述の参照情報にもあるように、

 

「職場での人間関係」

 

のようです。

 

 

 

本点については、私自身も同感です。

 

 

ただ自らの会社員経験に加え、これまでの様々な企業での指導経験を踏まえると、
本点については万能解は不在との理解です。

 

人が感情の生き物である以上、
ここを乗り越えるのは容易な事ではありません。

 

 

 

技術者の個々人の特性に合わせて、
良いところ、特に技術的強みを伸ばし、
それを周りが理解するという手助けが効果ありますが、
各社各様どころか、個々人によってやり方が違うため一義的に表現できません。

 

さらに言うと、必ずしも効果が出るとは限らないのが難しいところです。

 

 

効果が出にくい企業のパターンとして、
絶対的なカリスマが存在して指示待ち集団となっている、
組織的マネジメントが機能していないといったものが挙げられます。

 

当然、これもすべてに当てはまるわけではなく本当に難しい問題だと思います。

 

 

この辺りの対策については、
それを専門にされる企業や機関、
そして専門家の方々に譲ることとします。

 

 

 

リアリティー・ショックの回避に職場を至れり尽くせりにするのは必ずしも正解ではない

 

前述の通り、人間関係によるリアリティー・ショックは技術者育成の枠を超える場合が多いため、
残念ながら特効薬は存在しません。

 

では技術者以外も含めた、新人や若手社員のリアリティー・ショックを回避するにはどうしたらいいのでしょうか。

 

 

賃金上昇、労働時間削減を念頭にした働き方改革や、
研修や福利厚生の充実というものが新人や若手社員の離職回避に重要だ、
という風潮が昨今見られます。

 

これが正解である側面も当然あります。

 

 

しかし、対象が新人、若手技術者、特に新しい技術の創出や既存技術の改善、
並びに課題解決を求められる「研究開発」を生業とする場合、
異なる視点が必要です。

 

 

研究開発を担う(またや、これから担う)新人、若手技術者に対し、
企業として絶対に避けなければならないリアリティー・ショックがあります。

 

 

それが、

 

「ここでは”技術的に成長できない”と思わせること」

 

です。

 

 

 

このような判断を有望な新人や若手技術者にされることは、企業として致命的でしょう。

 

 

 

そして意外にも、上記のようなことを考える向上心を有する新人、若手技術者は、
必ずしも研修や福利厚生を重要視しているわけではありません

 

 

技術者育成の観点で見た場合、
上記のような新人、若手技術者これについては効果的な対策が複数ありますが、
今回はその一つを紹介したいと思います。

 

 

 

 

 

向上心のある研究開発系の新人、若手技術者が求めるのは技術専門知識との出会い

 

対象が技術者である場合、取り組みはシンプルです。

 

 

「向上心のある新人、若手技術者は専門知識を得ることを求めている」

 

 

事を理解して考えればいいのです。

 

 

 

対策の背景含め、具体的に述べます。

 

 

 

部分的に大学の研究室生活を再現する

 

理系の大学や大学院を出ている新人、若手技術者は、
必ず研究室に属しているはずです。

 

この研究室で必ずと言っていいほど行うのが、

 

「学術論文の読み合わせ」

 

です。

 

 

持ち回りで担当を決め、担当者は要点をまとめたA4で1ページ程度の書類を事前に用意し、
指導教官を囲んで同席する他の研究室所属の学生に対して説明を行います。

 

 

これに対し、学生は様々な意見を言い、
また質疑応答をします。

 

それらを総括する意味で指導教官より質問や指導がはいる。

 

私の経験だと、上記のような流れでした。

 

 

 

これは技術業界の外の世界に触れることで視野を広げると同時に、
質疑応答を通じて得た知識を増加・定着化させるという意味もあります。

 

私自身も論文読み合わせで覚えたことは、
今でも知識として持っています。

 

 

 

このような環境を職場で一部分再現するというのが、
向上心のある研究開発に取り組む新人、若手技術者のリアリティー・ショックを和らげることにつながります。

 

 

 

根底にあるのは専門性至上主義

 

何故研究室の一部を再現することがリアリティー・ショックを和らげることにつながるのか。

 

その理由は、

 

 

「技術者の多くは”知っていることこそ正義”という専門性至上主義を有しているから」

 

 

です。

 

 

 

研究生活の中で最も知識定着に効果があるのは、
実験ができる研究室であれ間違いなく「実験」です。

 

 

しかし、企業では必ずしも実験ができる環境が整っているとは限りません。

 

 

その中でも専門性至上主義を刺激できる知識習得を後押しできるものは何かと考えると、
研究室生活での論文読み合わせを再現する、という考えになります。

 

 

 

論文の読み合わせを再現することが新しい技術的専門知識を得られているという安心感につながる

 

企業に入った後であっても、
論文の読み合わせができるという実感は、

 

 

「自分はここで成長できている」

 

 

という考えの醸成につながります。

 

 

 

仮に他の多くの時間が技術的業務という実務に忙殺されていたとしても、
成長の実感があればいわゆるリアリティー・ショックを緩和できるでしょう。

 

 

大学の研究室生活を通じて何かしら成長したという実感を有しているからこそ、
企業に入っても向上心を持っているはずだからです。

 

 

 

チームミーティングなど複数の技術者が集まる時間の一部を使って論文の読み合わせをする

 

論文の読み合わせを行いたいとリーダーや管理職が仮に考えた場合、
その為だけに時間を設定するのは避けてください。

 

 

読み合わせは年齢もバラバラの複数の技術者で行うことが望ましいため、
もしその為だけに集まろうとすると時間調整等が難しく、
長続きしないからです。

 

 

推奨するのは

 

「チームミーティングの時間を活用する」

 

ことです。

 

 

 

チームミーティングはそもそも全員集まるのが前提で計画されているはずです。

 

ここの時間の20から30分程度を論文の読み合わせに当てるのです。

 

 

難しい場合は10分、15分でも構いません。

 

 

 

重要なのは、

 

「継続して習慣化すること」

 

です。

 

 

 

読み合わせは学術論文以外でも学会誌、業界紙でも可

 

学術論文は、技術者によっては読むのに慣れておらず、
時間ばかりがかかる可能性もあります。

 

その場合、もう少しボリュームが少なく、日本語で書かれているものが多い学会誌、
場合によっては業界紙(新聞、雑誌)でも構いません。

 

 

 

重要なのは実務に関連する技術的内容を選択することです。

 

 

 

読み合わせ前に発表者は重要4要素を網羅したA4紙を用意する

 

基本的に読み合わせにおいて、発表者は持ち回りです。

 

新人、若手の技術者はもちろん、
中堅、ベテランの技術者、
元技術者のリーダーや管理職も行ってください。

 

 

リーダーや管理職も行うのが長続きするポイントです。

 

 

新人、若手技術者は自らの状況を棚に上げる一方で、
上をよく見ています。

 

 

この心理を利用するのです。
上司に当たる人物が取り組んでいることを間近で見れば、
自分だけ回避するのは心理的ハードルが高くなるでしょう。

 

 

当然、リーダーや管理職も忙しい管理業務の合間を縫って対応するため、
新人、若手技術者であろうと良い意味で平等の目線で議論したくなるはずです。

 

 

そして、持ち回りで発表者となった技術者は、
重要4要素を網羅したA4の紙を用意します。

 

ボリュームは1ページ、多くても両面で2ページです。

 

 

網羅すべきは以下の重要4要素です。

 

 

論文読み合わせで用意すべき書類で網羅すべき重要4要素

 

 

1. 記事や論文を選択した背景

 

2. 記事や論文の目的

 

3. 記事や論文の結論

 

4. 記事や論文の概要

 

 

技術報告書と類似の構成となります。

 

 

 

この辺りの詳細は以下の連載で述べていますので、
是非ご一読ください。

 

 

※関連連載

 

第9回 若手技術者を最新技術情報に継続的に触れさせたい 日刊工業新聞「機械設計」連載

 

 

 

 

 

まとめ

 

向上心のある新人、若手技術者のリアリティー・ショックによる離職ほど残念なものはありません。

 

企業側はもちろん、技術者側もつらい部分があるはずです。
私自身も最初に入った企業は1年で離職したので、
その気持ちはわかります。

 

 

 

しかし自らの離職経験、その後10年以上の企業の技術者として働き、
また様々な技術業界の技術者やそのチームで指導してきたことを踏まえ、
やはり今回ご紹介したような論文読み合わせという研究室生活の再現が効果的である、
という結論に達しました。

 

 

1週間に30分、1カ月に30分でもいいので、
今回ご紹介したような論文の読み合わせを業務に取り込んでいただき、
新人、若手技術者の定着化を進めていただければと思います。

 

 

 

 

 

※関連コラム

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