研究開発品の市場問題原因究明に最重要の事前対応
公開日: 2024年1月29日 | 最終更新日: 2024年1月26日
Tags: マネジメント, メールマガジンバックナンバー, 技術者人材育成, 生産・量産, 要素技術醸成
研究開発に従事する技術者が最終的に目指すのは、
その製品の量産化です。
量産は研究開発とは異なる世界が広がっており、
研究開発で主として行う試作レベルとは違うことが起こることは珍しくありません。
研究開発に従事する若手技術者は、
自分たちが最終的に量産を目指すことを漠然とは理解していると思います。
しかし、量産が始まればそこで自分たちの仕事が終わるとは限らないことを、
想定できている若手技術者は少数派ではないでしょうか。
今回は研究開発を担った若手技術者が、
量産後を見据えて取り組むべきことについて考えたいと思います。
研究開発を担った若手技術者が量産後に直面する可能性のある課題とは
研究開発担当の技術者が、
量産開始以降に引張り出される典型的な事象例が、
「市場問題」
です。
本観点について考えたいと思います。
市場問題の解決には研究開発部門の協力が必要になることが多い
生産や製造を担当する現場の技術者から見れば、
指示書通りに作ったのに、何故市場問題が起こったのだという話になるでしょう。
多くの製品をいかに効率よく作り続けるかが至上命題の部署であることを考えれば、
当然の姿勢と言えます。
品質保証の担当技術者も、
図面や仕様書中の要求値を満たしていない、
という報告をするところまでになる可能性が高いです。
何故そのような要求値が設定されたのかを知らないことが殆どである上、
そもそもこのような部署で重視すべきは、
不良品を出荷させないことだからです。
以上のような背景から、
「市場問題の解決に向け、市場問題を起こした製品の研究開発を担当した部署の協力を仰ぐ」
という流れができるのです。
量産の経験が無い若手技術者は準備ができていない
試作レベルのいわゆるパイロットスケールから量産に移行すると、
想定外のことが多く起こることは知られています。
私自身も研究開発から量産フェーズに移ったことで、
様々な問題が発生することを実体験として持っています。
しかし、若手技術者が上記のような”経験したことのない事”を事前に想定するのは困難です。
よって、市場問題の原因究明に協力してほしいと言われても、
何を準備し、どのように対応すべきかはわからないと思います。
若手技術者には研究開発段階で量産を意識したデータ取りをさせる
管理職業務や他のプロジェクト対応をしなければならないこともあるリーダーや管理職は、
予め量産後の市場問題発生の可能性を見据え、
研究開発段階で若手技術者に準備させることで、
問題が発生したとしても原因究明を軸とした対応を、
ある程度若手技術者ができるよう体制を整えておくことが肝要です。
この体制構築の前提条件となるのは、
「データの取得」
です。
ここでいうデータについて、
より具体的に述べます。
市場問題の原因は、大きく分けて4点
市場問題といっても様々ですが、
その原因として挙げられるものは主として、
・設計
・材料
・製造
・検査
の4点のいずれか、もしくは複数にまたがったものに集約されることが多いです。
設計は製品の形状や公差設定等の検査要件、
材料の配合設定といったものが一例です。
材料は製品を構成する材料そのものになります。
プラスチックやゴムなどの有機物、
金属や合金などの無機物が代表例です。
製品が化学品の場合、原料という捉え方で問題ありません。
製造は設計仕様に基づいた製造指示書に従い、
材料を加工する等して最終製品にする工程です。
検査とは出荷前に形状や重量、組成などを検査する工程です。
抜き打ちで検査する、初回品だけ検査する等、様々なやり方があります。
市場問題はその原因究明が最重要であり、
その原因の多くが上記4点で検証できることを理解することが第一歩です。
研究開発段階で材料、製造、検査のデータを蓄積しておくことが重要
市場問題の原因究明で重要になるのは、
「市場問題発生前後での変動値の有無」
です。
どこかで安定していた数値が変化した、
という変曲点がそれに該当します。
将来的に量産問題が生じた前後で、
材料の組成や物理特性に関する数値変動があれば、
材料が原因の可能性がある、といった形で調査を行います。
同様に製造であれば、圧力、温度、加工速度、混錬回転数といったプロセスデータ、
検査であれば、寸法等の検査結果がこれに該当します。
仮に変曲点らしきものが見つかった場合、
これが不具合につながるような変動値なのか、
それとも避けられないバラツキなのかを判断する必要があり、
その判断指標の一つとして研究開発段階のデータが重要となります。
量産化してから間もないような製品だと、
上記の議論をするに値するデータ量が不足している可能性もあり、
研究開発時に蓄積したデータがより重要となることがあるのです。
一般的には材料が原因という流れができやすい
これは製品にもよるのかもしれませんが、
多くの製造業企業において市場問題が生じた場合、
「材料が悪いのではないかという流れができることが多い」
という印象です。
製品の多くは複数の材料を合わせた化合物や合金であり、
これらの材料を目で見ても不良品か否かが区別しにくい、
というのが上記の傾向の背景にあると私は考えています。
わかりにくいものを疑うという、
人の思考の癖なのかもしれません。
しかし、実際には生産設備における複数原料の混錬工程に課題があったという実経験もあります。
それどころか設計そのものに問題があったということも珍しくなく、
こちらについても実体験があります。
形状は妥当だったとしても、公差が広すぎた故に組付けられない、
といった問題は図面を決めた設計に問題があると考えるべきです。
さらには、規定していた検査をしないで出荷していたというケースに直面したこともあります。
必ずしも材料が原因だと決めつけない、
俯瞰的な視野を持ち、客観的な姿勢での市場問題調査が必要だと考えます。
研究開発時期に蓄積したデータは量産後に発生した市場問題の原因究明に力を発揮する
研究開発の段階で蓄積したデータは、
量産後に市場問題が発生した時にその真価が発揮されます。
それは、
「相対比較ができる」
ためです。
量産のデータが豊富であることにより、
当該データのみで既述の変曲点が見えればいいですが、
必ずしもデータが十分にそろっているとは限りません。
ここで、研究開発時のデータがあれば量産時の変動が研究開発時で想定したものと比べ、
顕著な変化といえるかを、例えば検定等を行うことで理解できます。
検定については過去にコラムで取り上げたこともあります。
※関連コラム
まずはデータの継続的な取得が可能な材料、工程、検査の3視点で、
市場問題発生前後でデータに差異があるかを確認し、
差異がある可能性が見出された場合は研究開発時のデータと見比べるのです。
原因が見えてくれば何を変更すれば市場問題解決につながるかについて、
大まかな方向性が見えてきます。
量産後では避けたいですが、最悪は設計変更も考える勇気も必要です。
量産図面の改定は大変な労力と、
図面改定前後での同等性を保証することを求められることもあり、
可能な限り回避すべきです。
裏を返すと、本観点を念頭にして研究開発業務に取り組むことで、
より品質レベルの高い製品が生み出されることにもつながります。
研究開発段階からデータ取りの癖がついていれば、量産へ移行する際にデータ取得が意識できる
ここまで述べてきたことをリーダーや管理職が若手技術者に指導のうえで研究開発に取り組ませれば、
量産に移行する前の段階からデータ取得が重要である、
ということが若手技術者も理解できるようになります。
このようにデータを蓄積するという基本姿勢が、
研究開発を担う若手技術者で実践できるようになれば、
長い目で見た時に、市場問題解決に向けた取り組みが効率的になり、
結果的に品質問題を起こしにくい企業体質になると考えます。
いかがでしたでしょうか。
研究開発に従事する経験の浅い若手技術者が、
量産後を意識することは難しいかもしれません。
しかし、量産まで経験したリーダーや管理職であれば、
データ取りが重要であるということを徹底的にたたき込む必要性に異存はないはずです。
研究開発だけで終わらせずに、
企業の成長につなげる量産への意識付けが、
製造業企業における若手技術者教育に重要です。
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