技術報告書の考察項に何を書くべきか
公開日: 2025年2月10日 | 最終更新日: 2025年2月11日
タグ: OJTの注意点, メールマガジンバックナンバー, 技術の伝承, 技術報告書, 技術者人材育成
今回は技術報告書の考察項に書くべき内容の指導について解説します。
技術報告書の作成は研究開発を中心に技術者が貢献すべき必須インフラ
技術報告書作成の意義については、
以下の以下の技術報告書作成支援として展開する事業紹介動画でも紹介しています。
※本動画では音楽が流れます。
当該動画でも触れている通り、
技術報告書は常に新しいことを創出することを使命とする研究開発での技術伝承だけでなく、
製造現場で生じる市場問題解決の重要なインフラになります。
このように技術報告書作成は技術者の推進する技術業務のうち、
定常的に行うものの一つであるべき、
という意識を持つことが重要です。
技術報告書作成についての基本理解は不足している
様々な企業で技術報告書業務の導入を支援してきましたが、
そもそもの基本的な部分の考え方が欠落しているケースが多いのが実情です。
そしてこの基本部分の課題は主に技術報告書を作成する若手技術者だけでなく、
それを添削するリーダーや管理職にも存在することが大変多いのです。
基本ができていないリーダーや管理職から指導を受けるのは、
若手技術者にとってその成長を鈍化させる要因の一つになります。
このあたりは一つひとつ解説するよりも、
過去のコラムをご参照いただくのが良いと思います。
以下のタイトルに心当たりのある方もいるのではないでしょうか。
※関連コラム
技術報告書の構成
技術報告書という単語について様々な情報がありますが、
最も重要なのは
”技術報告書の基本構成の理解”
に尽きます。細かい話はこの理解の後です。
4本柱である背景、目的、結論、概要、
そしてそれ以外の内容に該当する実験/試験、結果、考察、参照文献です。
”てにをは”や”専門用語”といった話よりも、
この基本構成を徹底理解するのがすべての原点です。
ここを若手技術者はもちろんですが、
指導するリーダーや管理職が徹底理解できていなければ、
その部下の技術者たちは右往左往するか、
そもそも時間のかかる技術報告書作成業務を回避するかのどちらかです。
技術報告書の基本構成については連載で詳細を解説しています。
※関連連載
第6回 技術報告書作成がうまくなるためにまず理解すべきこと 日刊工業新聞「機械設計」連載
第7回 技術報告書を構成する最重要4項目 日刊工業新聞「機械設計」連載
第8回 技術報告書の2ページ目以降を構成する「内容」 日刊工業新聞「機械設計」連載
今回述べるのは、技術報告書の構成主項目中の”考察”に関するものになります。
大前提として”考察”の優先順位は高くない
製造業企業に勤める技術者の方に話をして、”意外である”という感想を多くもらうものの一つとして、
「技術報告書で考察の優先順位は高くない」
というものがあります。
これは多くの技術者が考察を議論する以前の問題として、
「行った事実を理解の上で、適切に記述するスキルが不足している」
ことが理由です。
考えてみれば当然ですが、
行った実験、試験などの技術評価の結果を抜
けもれなく捉えられなければ、
妥当な考察はできません。
考察というのは事実の上に構築されるものだからです。
さらに考察を書くために
「考える時間が必要だ」
といった趣旨の主張を繰り広げ、
技術報告書作成業務が遅延するのは、
伸び悩む技術者の典型的な言動です。
この辺りは過去にもコラムで取り上げています。
※関連コラム
このように技術報告書の構成項目の中で、
決して優先順位は高くない考察ですが、
当該文書作成スキルの基本ができている技術者向けに、
どのような内容を盛り込むべきかについて述べたいと思います。
考察の基本は”結果の技術的な深堀”と”未来への予告”
考察の大前提は”自由記述”ですが、
そこには2つの基本があります。
一つは技術報告書で記述した結果に関する深掘り、
もう一つが未来への予告となります。
結果の技術的な深堀は技術理論を常に意識した議論展開を
- 得られた結果を見て、予想と異なる結果が得られた。この理由は、○○という事象の発生が疑われる。
- 相対比較した結果が同等か否かを、検定によって検証する。
このように、事実に基づいた結果を目前に、
何か言えることは無いか、何かを示唆していないか、
はたまた本当に予想した結論が妥当と判断していいか、
といった到達点に至るまでの試行錯誤を記述するのが考察です。
未来への予告は”できるできない”ではなく、どのようにすれば推測の技術的妥当性を証明できるかを述べる
未来への予告として記載すべきは、
「結果の技術的な深堀などで示した推測の技術的妥当性を証明するアプローチ案」
が望ましいです。
ここで、アプローチ案についてできる、できないにこだわる技術者もい
るようですが、
そのこだわりにあまり意味は有りません。
思考実験は技術者に許された特権の一つなのです。
既に述べた通り考察は自由記述です。
技術的事実の深堀を通じ、
場合によっては様々な推測が出ると思います。
それを推測で終わらせては、
すべての記述に「…と考えられる」、「…だろう」という文言が付くことになります。
考察の記述が許されている技術者は相応の技術文章作成力があるはずです。</p></p>
もしそうであればもう一歩踏み込ませて、
どうすれば推測が妥当であると証明できるかの意見を述べさせる、
というのが技術者育成の基本的な考え方です。
例えば既述の例として、得られた結果から何かしらの事象の発生が疑われたとします。
それが本当にその事象か否かを判断可能性のある分析評価があるのであれば、
そのことについて記述をするのです。
こうすることで、その時は実際に検証することが難しくとも、
将来的にその技術報告書を読んだ若手技術者が実証に成功するかもしれません。
このような未来への予告は、
考察項にぜひ記載してほしい内容の一つです。
本コラムに関連する一般的な人材育成と技術者育成の違い
一般的な人材育成では文書作成であれば提案書など、
対外的なビジネス文書への指導が多いと考えます。
これは基本的なビジネススキルとして確かに重要です。
しかし技術者はビジネス文書のように、
相手が望むように記述するより、
「技術的事実の詳細を正確に記述して記録とする」
ことが最重要です。
読者への忖度、特に相手が望むであろう内容を意識することは重要ではなく、
むしろそうしてはいけません。
そして考察をするのであれば、
詳細を記述された結果に関する技術的な深堀に加え、
推察に関する妥当性の技術的な検証を含む、
未来への予告を記載することが求められます。
客観的事実の詳細理解と技術的な探求心が重要な技術報告書に関する作成指導は、
一般的なビジネス文書に対するそれとは異なるものとなります。
本コラムに関連する具体的な技術者育成支援の例
技術者育成コンサルティングとして対応します。
今回紹介したような考察の指導を行うフェーズに居る企業の技術者(技術報告書作成者)は、
技術報告書の構成と技術的事実の詳細描写の基本理解ができているため、
主たる指導は技術報告書の”添削者”となります。
実際に行っている技術報告書の指導結果を確認し、
技術の深堀や未来への予告が不足している場合、
どのような加筆の指示を行うべきかについて具体的な指導を行います。
このようなOJTを基本とした繰り返しの指導を通じて添削者のスキルを高め、
日常業務を通じた現場の技術者の方々の考察記述スキルの向上を目指します。
まとめ
技術報告書における考察項は自由記述であり、
また当該報告書において記載の優先順は高くありません。
しかし、技術報告書作成に関する基本スキルを有しているのであれば、
考察についてより質の高い記述をさせることが、
技術者育成の観点から重要です。
そして考察の質を高めるには、
技術理論に対する知見と真摯な姿勢、
加えて将来の自分と他の技術者に向けたメッセージを伝える、
という考えが重要です。
今回の内容が考察項の記述指導の一助となれば幸いです。
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