地方公務員の技術職に応用したい若手技術者育成

公開日: 2024年10月21日 | 最終更新日: 2024年10月19日

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地方公務員の技術職に若手技術者育成を応用したければ、技術文章作成力鍛錬とプロジェクト型業務設計から始める

 

当社で取り上げる技術者育成の対象者は、
製造業の企業に勤める技術者です。

 

 

しかし、非製造業の企業様や行政からの技術者育成に関する問い合わせをいただくこともあるため、
今回は製造業ではない地方公務員の技術職向けに若手技術者をどのように応用するか、
について考えてみたいと思います。

 

 

 

 

 

技術職の地方公務員には様々な役割が期待されている

 

地方公務員の技術職の方々に期待される役割は本当に広い。

 

そう感じたのは以下の情報を拝見したためです。

 

※参考情報

一般技術職のあり方について(武蔵野市)

 

 

自治体としての誇りと技術職の方々に対する期待がにじみ出る内容と感じました。

 

 

人材育成戦略はどの企業でも立案しているものと思いますが、
上記の内容はより具体的でわかりやすかったです。

 

 

技術職としての専門的なスキルはもちろんのこと、
法的知識を要求するところが自治体ならではといえるかもしれません。

 

 

もちろん、企業の技術者にとっても必要な観点ではありますが、
実際にお話ししていると医療などの一部特殊な業界を除き、
法的知識はあまり厚くない技術者が多い印象です。

 

 

※関連コラム

 

製造業の技術者がおさえておきたい製造物責任法の要点

 

 

 

上記の参考情報を読んで、民間の、しかも製造業向けの若手技術者育成の考え方も応用できるのではないか、と感じたのが今回の内容を書こうとしたきっかけになりました。

 

 

以下、冒頭で参照した内容について要点を抜粋し、
若手技術者育成をどのように応用するかについて考えたいと思います。

 

 

 

 

 

一般技術職として”今後求められる役割”について

 

「事業手法・費用対効果の検証及び関係機関の調整や地域住民との合意形成などの
総合的なマネジメント 」

 

※参照元:一般技術職のあり方について(武蔵野市)

 

というのが全体像のようです。

 

 

ごもっともという内容です。

 

 

ただ若手技術者育成という観点でいうと、
以下のような点を取り入れるとよりいいかもしれません。

 

 

 

技術者育成効率は年齢と強い負の相関があるため”若手技術職”という文言を使う

 

どのようなきれいごとを言ってもなのかもしれませんが、
個人差はあるものの技術者育成効率は、
その対象者である技術職の方(技術者)の年齢と強い負の相関を示します。

 

 

そのため、基礎的なスキルを身につける育成を示すのであれば、

 

 

「若手技術職」

 

 

という単語を用いたほうがいいでしょう。

 

 

 

若手技術者育成とあえて”若手”という単語をつけているのも、
技術者育成はできる限り早いほうがいいという実体験に基づいています。

 

 

一方で、総合マネジメントは基礎ができた後の中堅以上の技術職の話になります。

 

 

総合マネジメント、つまりプロジェクト型業務を管理できるようになるためには、
技術職としての実践経験とそれを踏まえた知恵の獲得は必須で、
一足飛びにそこまで行くのは大変難しいでしょう。

 

 

したがって、

 

「若手技術職のうちに、複数のプロジェクト型業務を経験して技術的な知恵を獲得する」

 

という文言を入れた後に、原文が続くといいかもしれません。

 

 

 

※関連コラム

 

技術者の育成や教育は何歳くらいまでにきちんと始めるべきかわからない

 

将来研究開発を担う若手技術者の育成には中長期の研究は適さない(知恵に関する記述があります)

 

 

 

 

 

”一般技術職のコア業務”について

 

コア業務として、以下の4点が記述されています。

 

  • 1. 技術的側面からの政策立案
  • 2. 法に基づく公平・公正な対応
  • 3. 公共施設の維持・管理の着実な実施と品質の確保
  • 4. 公共施設等の再整備における総合的なマネジメント

 

※参照元:一般技術職のあり方について(武蔵野市)

 

こちらもごもっともです。

 

ただ一般職と比べての差別化が少し弱い印象があります。
一つ目の技術的側面、三つ目の品質確保は技術的な観点も入っているものの、
若手技術者育成の観点から言うともう少し付け加えたいところです。

 

 

 

技術的な成長を促すという項目を追加する

 

例えば五つ目として以下のような文言を加えるといいかもしれません。

 

5. 市民生活の安全性や快適性を向上させる最新技術に関する調査と実務への応用

 

 

ここでの狙いは

 

「技術者は技術的な知見の更新を行える地位にいないとモチベーションが向上しない」

 

ことへの対策にあります。

 

つまり仕事を通じて成長できる、という印象を持てないと業務効率が低下するのが技術者の特性なのです。

 

 

恐らく技術職の方々も基本は同じ思考回路を持っているのではないかと思います。

 

 

 

実際、五つ目として提案した文言は地方公務員として求められる要素であり、
このような要素をもって一般職との差別化を行うことが、
技術職として採用した人材を活かす大切な戦略となります。

 

 

 

 

 

”一般技術職が保持・蓄積すべき技術”について

 

こちらも大きく分けて4点挙げられています。

  • 測量や施工監理などの「現場技術」
  • 積算システムや CAD などの「情報管理技術」
  • 構造計算や図面読解力、土木建築材料の知識などの「実務に関する技術」
  • 土木建築関係法令などの「法的知識」

※参照元:一般技術職のあり方について(武蔵野市)

 

 

このようにみると大変幅広い技術が求められていることが分かります。
本当に期待された職種なのでしょう。

 

 

”民間専門業者への指導や議論ができるための技術的視点、
過去を踏まえながらしっかり評価し優劣を見極める力”との記述もあり、
民間企業を先導する役割が望まれていることが分かります。

 

 

職種によって必要な技術は異なるとの記述があるため、
すべてに共通しているのかわかりませんが、
少し気になっているのは実務によりすぎた解釈ができるという点です。

 

 

 

測量、CAD、構造計算などは技術的実務であり重要なのはより上位の技術的知恵

 

仕事を依頼する側にいる技術者は、
技術業務全体を俯瞰してみたうえで、
必要な指示や依頼を出せることが大変重要です。

 

 

当然、自らも技術的実務の経験を蓄積することで技術的な知恵を獲得することも重要ですが、ある程度基軸となる技術が見えたら、その後は技術の幅を広げる必要があります。

 

 

本項冒頭で述べた技術といわれるものがどこまで実務を指しているかは不明ですが、
測量、CAD、構造計算は言ってしまえば”技術的実務の一部”に過ぎません。

 

 

図面/回路図の読解力は技術系人材の要のスキル

 

全体を見渡すのであれば最も必要なのは、
今回参照したところにも一部記述もありますが、

 

 

「図面/回路図の読解力」

 

 

です。

 

 

 

様々な技術実務の結果、まとめられるのは図面や回路図です。

 

 

これを見て理解できるかが大変重要です。

 

 

 

技術的事実が担保されているかの徹底確認

 

同時に重要なのは、

 

「得られた計測結果、測量結果は本当に正しいかを目の前で再現させる」

 

という、性悪説に基づいた取り組み姿勢でしょう。

 

 

 

上記の話は製造業の技術者向けの話ではありますが、
地方公務員の技術職にも求められるものです。

 

 

よって以下のような文言を、
一般技術職が保持・蓄積すべき技術に該当する内容として記述するのが一案です。

 

 

  • 最終形態を描写した図面/回路図の内容を理解し、確認すべき点や修正すべき点を提案できる力
  • 計測や測量、そして検査結果などが正確かを現場・現物で確認する技術に真摯な姿勢

 

最後に地方公務員の技術職向けに、
若手技術者育成をどのように落とし込むのかについて述べたいと思います。

 

 

 

 

 

わかりやすく伝える翻訳力は技術文章作成力で鍛え上げる

”市民に対して専門用語をわかりやすく伝える翻訳力が必要です”という文言がありました。これは製造業の技術者全般に共通する課題でもあります。

 

この課題の解決に重要なのは、

 

「技術者の普遍的スキルの一つである技術文章作成力を鍛え上げる」

 

ことです。

 

 

 

日々の技術業務の内容、評価結果、出張や外出について、
テンプレートに基づいて丁寧に報告書を作成し、
それを上司が確認するという地道な取り組みがこれに該当します。

 

 

外にわかりやすく伝えるためには自らを客観的に見つめられる論理的思考力が必須で、
その鍛錬には技術報告書を中心とした技術文章作成力を鍛えることが最も近道です。

 

頭の中を活字という形でアウトプットし、
それを読者が分かる表現になるよう第三者目線からのチェックを入れることで、
第三者にどのような表現を使えば理解してもらえるかを体感できるようになります。

 

 

このような取り組みは若手から始めることが大変重要です。

 

 

※関連コラム/連載

 

技術報告書を書くために集中できるまとまった時間がとれない

 

第5回 普遍的スキルの鍛錬に最適な技術報告書とは何か 日刊工業新聞「機械設計」連載

 

技術報告書で考察は重要ではない

 

技術報告書を提出する際に気を付けること

 

 

 

 

 

幅広いことを対応できるようにするためにはプロジェクト型業務設計が不可避

 

ここまで触れてきたように、地方公務員の技術職には大変幅広い役割が求められています。

 

ある程度役割分担をした方がいいのが実情ではありますが、
必ずしもそのような対応が可能とも限りません。

 

このように一人が多くの役割を担わなくてはいけない場合、
地方公務員の上司が対応しなければいけないのが

 

「プロジェクト型業務の設計」

 

です。

 

 

何が目的の仕事なのか、目指すべきゴールは何か、
そこまでにどのような時間軸で進めるのか、
それぞれの工程での具体的な業務は何か。

 

 

これらを明文化するために必要な仕組み、
いわゆるプロジェクト型業務設計のテンプレートが必要です。

 

 

一人で多くのことを行わなくてはいけない場合に最も怖いのは、

 

「自分が何の仕事をしているのかわからなくなる」

 

ことです。迷子といってもいいでしょう。

 

 

 

 

そのため仕事を始める前にプロジェクト型業務で進めるための準備を、
技術職に丸投げするのではなく組織として取り組み、
走り始めたら実務を担う技術職の方々が迷わないよう地ならしをしてあげることが、
地方公務員の上司に求められることです。

 

 

この業務設計ができた状態で通し業務、
すなわち最初から最後までやりきる経験の蓄積が大変重要です。

 

 

※関連コラム

 

プロジェクト型技術業務を自社の技術的知見として蓄積するには

 

緩慢な働き方で若手技術者の成長が実感できない

 

 

 

 

 

技術の基本中の基本である数学と技術理論鍛錬の記述が欲しい

 

技術職は技術者同様、技術者の普遍的スキルが求められると思います。

 

 

この普遍的スキル構成要素の一つである”グローバル技術言語力”に関する記述を、
技術職の育成計画に取り入れたいところです。

 

 

技術職や技術者の基本はやはり数学です。

 

数字や数式を好きである必要はありませんが、
様々な事象や結果を数式で表現できないかという思考、
そして数式で表現された結果を理解できるといった姿勢は大変重要です。

 

 

 

加えて実務的な知識にとどめず、
やはり技術職の育成では”技術理論”まで踏み込むべきです。

 

 

 

技術理論の鍛錬には学会発表を活用するのも一案

 

地方公務員はその職種上、どうしても内向きにならざるを得ない部分もあると感じますが、
技術理論を高めるには外部専門家との議論が不可欠です。

 

これを踏まえると、差し支えない範囲で技術職の方も、
技術的な観点からの助言や提言が欲しいという際、
学会で発表してそこにいる専門家たちとの議論を行うのも一案です。

 

 

このような議論をするにあたっては、
技術的理論が土台となることも多く、
結果として技術理論を学ぶきっかけを得ることにもつながります。

 

 

 

技術的に成長している実感は能動的学習を後押しする

 

”経験やスキルを積み重ねながら技術の研鑽と習得に主体的に取り組むことが大切”との記述がありました。

 

※参照元:一般技術職のあり方について(武蔵野市)

 

 

この観点は大変重要ですが、
これを可能にするのは持続した向上心です。

 

 

そして持続した向上心はモチベーションの維持によってのみ実現します。

 

 

前述の学会での発表と議論をはじめとした技術理論に関する知見の向上は、
技術職のモチベーションに直結します。

 

 

能動的成長を後押ししたいのであれば、
グローバル技術言語力を意識した数学と技術理論の強化、
そして外部専門家との交流を念頭に置くべきだと考えます。

 

 

 

 

 

本コラムに関連する一般的な人材育成と技術者育成の違い

 

一般的な人材育成において、
例えば今回でいう翻訳力をターゲットにすると、
プレゼンテーション研修を行うといったやり方が一案だと思います。

 

 

 

このような研修で行うのは技術的な内容が含まれることは少なく、
一般職が直面するような内容に終始すると想像します。

 

 

 

しかし技術者育成においてはプレゼンテーションよりも、
自らの頭を整理し、活字で技術情報を発信させる技術文章作成力を重視します。

 

 

 

この力は、結果としてプレゼンテーションの基本骨格を作る企画につながります。

 

 

あくまで技術的なポイントからずれないようにするのが、
技術者育成の特徴といえます。

 

 

 

 

 

本コラムに関連する具体的な技術者育成支援の例

 

当社の技術者育成コンサルティングでの対応となります。

 

技術報告書のテンプレートを設定し、
必要に応じて出張報告書も同様のものを作成します。

 

 

これに基づいて技術職の方々に実務の内容を記述いただきますが、
その際にポイントとなるのが添削の方法です。

 

 

書き方だけでなく、添削方法を指導し、
技術文章作成力の基本を理解いただくことを、
OJTで進めていきます。

 

 

また技術報告書の中身については、
できる限り技術的な内容を盛り込むよう、
最新技術情報も踏まえながら提案を行います。

 

 

 

 

 

まとめ

 

今回は地方公務員の技術職向けに、
若手技術者育成をどう活用するかについて述べました。

 

 

地方公務員は民間企業と異なり、
街づくりなどスケールの大きな仕事である一方、
制約のつく部分もあります。

 

 

 

この制約が、民間企業向けの若手技術者育成の応用を難しくしている側面もあるかもしれません。

 

 

その一方で今回考察したように、
若手技術者育成の考え方を応用できる部分があるのも事実です。

 

翻訳力を技術文章作成力で補うという考え方は意外だったかもしれません。

 

加えて技術職に向上心を持たせるため、
常に新しい技術情報に触れるよう後押しすることも、
技術職ならではの考え方ではないでしょうか。

 

 

 

今回の内容が地方公務員の方々だけでなく、
非製造業系の技術者の方々の育成のご参考になれば幸いです。

 

 

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