箇条書き依存は技術文章作成力向上の足かせになる
公開日: 2022年12月19日 | 最終更新日: 2022年12月18日
技術者育成において最重要視すべき普遍的スキル。
技術者にとって本質ともいえる力ですが、
この普遍的スキルは5つの構成要素から成ることは、
過去にも述べたことがあります。
・参考情報
第1回 技術者の普遍的スキルとは何か 日刊工業新聞「機械設計」連載
今回はそのうち、論理的思考力と技術文章作成力に関連する悩みと、
その鍛錬につながる対策の一つをご紹介したいと思います。
複数の技術的要素が共存する内容の説明ができずに立ち尽くす若手技術者
若手技術者はほぼ全員が「知っていることこそ正義」という専門性至上主義にとらわれています。
これ自体はすべてが間違えているわけではありませんが、
技術者育成において様々な弊害を生じさせることについて、
過去のコラムや連載でも触れています。
・関連コラム/参考情報
第2回 普遍的スキルの鍛錬を阻害する技術者の癖 日刊工業新聞「機械設計」連載
専門性至上主義の課題は、複数の技術的要素が盛り込まれた内容を説明するという段階で顕在化します。
上記の主義にこだわっている若手技術者は、専門用語への執着故に
「専門用語や専門的と若手技術者が主観的に捉える単語や記述に執着し、全体が見えなくなる」
というのがその理由です。
全体が見えなくなると箇条書きを乱発する
普遍的スキルで技術文章作成力の土台にもなる重要な論理的思考力は、
全体を俯瞰的、かつ客観的に見渡す力のことを言います。
しかし専門用語や技術専門的な内容にこだわることで近視的になると、
どうしても複数の技術的要素が盛り込まれた内容を説明できません。
このような状況に困った普遍的スキルが不足する若手技術者が採用する手法が
「箇条書きで羅列する」
というものです。
箇条書きは要素分解という技術文書作成の前段階では有用
箇条書きは、便利な部分もあります。
複数含まれる様々な要素を分割するというものです。
これは何かを説明する際に、それを構成する要素が何なのかを見極めるのには必要です。
しかし、このような箇条書きでの分割は、
「論理的思考力を活用しながら、技術文章作成力によってわかりやすくまとめる」
という技術者の本質的な取り組みの
「”前段階”にのみ許される行動」
です。準備運動といったところでしょうか。
しかしながら多くの若手技術者は、
「その箇条書きの文章を、そのまま技術報告書等の技術文書に用いる」
ということをやってしまうのです。
このようなことをしてしまうと、論理的思考力も技術文章作成力も必ず頭打ちになります。
そのイメージを簡単な例を使って述べてみたいと思います。
箇条書きの思考の動きはブロックを例にしてみるとわかりやすいことも
箇条書きにする若手技術者の思考の動きを子供のおもちゃであるブロックに例えてみます。
ブロックで何かの形を作る際、複数のブロックを組み合わせて作る「形」が重要だとします。
一つの形を作るのに、様々な色や形のブロックを組み合わせると思います。
箇条書きは言ってしまえば、最終的な形を作るのに必要なブロックを細かく分解するにすぎません。
そのバラバラになったブロックをテーブルの上にどさっと置かれた状態で、
それを見せられた方はそれらの部品からどのような形ができるのかを想像するのは大変だと思います。
細かく分断した要素だけを見せられても、
それを見せられた側にとって最も重要な「形」をイメージできなければ、
分解したというのは単なる「作業」に過ぎないのです。
なぜならば、分解されたブロックからどのような形かを想像するという
「思考力の行使を相手側に強要している」
からです。
ブロックを見せられた側の人間は、ブロックから形を想像するといったことを通じて、
論理的思考力等の力量が上がるでしょう。
しかし、それを相手に丸投げしている時点で、ブロックを分解した側は頭を使っていません。
頭に汗をかかなければ、技術者の普遍的スキルは絶対に上がりません。
どうしたら最終的な形である全体像を理解してもらえるかという配慮が全くなく、もしくは足りない状態で、ブロックを分解するという作業は、箇条書きにしたことをそのまま報告書や資料などに記載するという若手技術者の行動を良く表しているといえます。
若手技術者として大切なのは箇条書きして見えてきた要素を抽出し、並列表現をうまく活用しながら文章にまとめること
複数の技術的要素の含まれる内容について若手技術者が箇条書きに分解した後、
技術報告書や資料に耐えうる技術文章にするためにはどうしたらいいのでしょうか。
重要なのが
「要素の抽出/整理」
と
「並列表現の活用」
です。
要素の抽出/整理というのは、箇条書きで分解した内容を小分類→中分類→大分類とカテゴリーの枠を広げながら、
できる限り大枠でまとめ直すということが該当します。
そのようにして大枠で分けられたら、
特に大分類として分けられた複数の箇条書きの内容を、
できるだけ一文で表現する事を目指します。
この際に必要なのが、並列表現です。
並列表現は文章の流れというものを生み出すのに用いられる
実際の技術的な内容が無いと事例を示すのは難しいですが、
例えばa、b、cという小文字のアルファベットとA、B、Cという大文字のアルファベットがある、
ということ例にしてみたいと思います。
まず箇条書きで書いてみます。
<箇条書きの例>
・アルファベットというものがある。
・アルファベットは合計6文字である。
・大文字と小文字が存在する。
・小文字はa、b、cである。
・大文字はA、B、Cである。
————-
例が簡単なものであり、かつ箇条書きでかなり細かく分割しているため違和感があると感じる方もいるかと思いますが、
程度の差はあれ箇条書きで分割された文章というのは上記のように読者には見えています。
同じ内容について、並列表現を活用しながら示すということをやると以下のようになります。
<並列表現を用いた例>
アルファベットという6つの文字があり、それらは大文字と小文字に分類される。
前者はA、B、Cであり、後者はa、b、cである。
————-
最初の文章はアルファベットと合計6つの文字であるということを導入しながら、
大文字と小文字という分類があることを並列で表記しています。
続く文章は実際の大文字と小文字に該当するアルファベットを、
前文の情報も活用しながら端的に、しかし並列にすることでコンパクトにまとめているのがわかるかと思います。
ぶつ切りの箇条書きと異なり、文章としての流れができているため、
技術文書などの”しまり”が必要な表現であるという印象を読者に与えることができると思います。
”しまり”のある文章は、読者にとって読みやすくなり、
しまりのある文章を書ければ、口頭での説明力も向上します。
このように読者にとってわかりやすい文章を作ることを、
「文章の流れ」
ともいいますが、この流れを作ることが技術報告書等の正式文書作成には不可欠な取り組みです。
箇条書きしかできない若手技術者の説明がぶつ切りでわかりにくい一方、
並列表現を用いながら流れを作れる若手技術者の説明がわかりやすいのは想像に難くないと思います。
文章の流れを作るためには、多くの文章を書き、表現方法を覚えるしかない
若手技術者が箇条書きに依存しない表現方法を習得するためにはどうすればいいのでしょうか。
結論から言うと、
「様々な文章表現を覚えるしかない」
となります。
本を読むのも大切ですが、読むだけでは不十分です。
特に技術者が記述する技術報告書などの堅い文章は小説等では触れられることは少なく、
学会誌や論文、そして専門書等が適しています。
これらの書物は海外の方の書いたものを翻訳したケースもありますが、
表現方法を学ぶのであれば、翻訳作業を経ない日本の方が書いたものが良いと思います。
もちろん、翻訳された専門書でも豊かな流れを有するものもあることは加筆しておきます。
そして、それらを参考にしながらも、最後は自らの頭を使いながら伝えたいことを書く鍛錬を多くこなし、そして続けるしかありません。
さらに言うと、それを技術文章作成力があり、技術的な経験を持つリーダーや管理職に繰り返し添削してもらう、という客観的な視点を入れることが合わせて重要です。
結局のところ文章の流れをつくる鍛錬方法は、客観性と継続性が重要な普遍的スキル向上への取り組みのそれと同じなのです。
箇条書きというのは一見わかりやすいですが、
技術者の普遍的スキルで重要な論理的思考力や技術文章作成力が醸成されません。
箇条書きを技術的な正式文書として多用している企業を中心に、
何かしらのご参考になれば幸いです。
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