インターン情報の学生選考活用への懸念

公開日: 2022年4月21日 | 最終更新日: 2022年4月21日

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理系学生にとって研究室生活は高度専門教育の宝庫

 

 

 

最近、様々なメディアで、採用にインターン情報を活用するということが述べられています。

 

インターン情報を採用に利用 24年度卒から、政府検討(日経新聞)

 

インターン情報、活用可能に 採用活動、政府に要請へ―経団連・大学(JIJI.com)

 

 

上記の動きについては、政府と経団連が前向きで、

産学協議会がそこに合意したといったというのが概況のようです。

 

 

産業界と大学が、上記の流れについて概ね着地点を見出したということだと思います。

 

 

 

しかし、この流れは様々な懸念があるのも事実です。

 

 

 

 

今回は技術者育成の観点から、対象を「理系の大学生(以下、理系学生)」に絞った上で、

今回の流れに関する見解を述べてみたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

大学の果たすべき最重要の考え方は研究者を育成すること

 

まず忘れてはいけないことがあります。

 

 

それは、

 

 

「大学は研究者を育成するのを主命題としているところである」

 

 

ということです。

 

 

 

言い換えれば、

 

 

「企業に勤めるための技術者をはじめとした従業員を育成する機関ではない」

 

 

といえます。

 

 

 

産学連携は今やトレンドワードにもなりつつある状況ですが、あまり相溶性の良い関係とはならないのが普通です。

 

 

 

 

 

大学生活で最も大切なのは研究室での生活

 

対象を理系学生とした場合、大学生活で最も重要なものは何かと問われれば、間違いなく

 

 

「研究室生活である」

 

 

と答えます。これは、技術者育成という企業の技術者を育成する立場の観点から述べています。

 

 

 

大学3年生まではある程度分かっていることが基本

 

理系学生の多くは、3年生までは単位取得に向け、参考図書をベースに授業を受ける、実験をするという、言ってしまえば

 

 

「既にわかっていること、想定できることを学ぶ、体験する」

 

 

というのがメインです。

 

 

 

これは、高校までの教育とあまり違いがありません。

 

 

 

大学4年生以降はわからないことに対して試行錯誤する

 

しかし、研究室生活は全くの別物です。

 

 

 

授業はほとんどなく、学部4年生であれば担当教官からテーマを与えてもらい、助言を仰ぎながら

 

 

「できるか、できないか、さらに言うと、(安全上の懸念を除き)何が起こるかわからない」

 

 

といったことに取り組む、いわば試行錯誤の世界になります。

 

 

これが、大学院の修士や、更にその後の博士になれば、テーマはある程度自分で決め、

どのように進めるのかについても自分で考えてやることが基本になっていきます。

 

 

その中で、試行錯誤を繰り返し、必要に応じて文献調査や他の研究者や先生に助言を仰ぎながら、

次の一手を考える、得られた結果のメカニズムを推測する、

そして最後は学会や論文で自ら行ったことを発表する、

といったことを行っていく能動性、積極性、そして柔軟性が求められます。

 

 

 

この研究室での生活は指導教官を除き、テーマ推進は自分で進めるべきことが多いため、

個人プレーになります。

 

 

 

プロジェクト型業務のような、企業で求められるチームプレーとは逆の世界ですが、

 

 

「個人プレーが中心となる理系学生の研究室生活は、本質的な技術スキルを身につけるには最良の環境」

 

 

です。

 

後にも先にも、高度な実験や試験等の作業を行いながらも、

個人プレー中心での生活が許されるのは大学(大学院含む)の研究室だけです。

 

 

 

 

企業に属する技術者は組織的な活動と技術と無関係な仕事への取り組みは不可避

 

それに対して、一度企業に属してしまうと環境は一変します。

 

企業というのは資本主義の世界の中で維持発展するため、

売上と利益を達成しながら組織で活動することが求められます。

 

 

これは個をつぶす考えだという論調も見られますが、ずば抜けた感性を有する技術者や研究者を除き、

なかなか個人で企業に貢献できるような成果を出すことは至難の業だと思います。

 

 

やはり周りとも連携しながら、技術報告書や技術評価計画書といった書類も活用し、

常に周りを巻き込みながら進めるというのが技術業務の基本になっていきます。

 

 

ただし、このようなスキルの鍛錬は企業に入れば必ず求められる、

いわば「普遍的スキル」であるため、その習得を焦る必要はありません。

 

 

 

・関連コラム

 

日刊工業新聞社 機械設計での技術者育成に関する連載開始

 

 

 

 

それよりも理系学生を経て、企業に勤める技術者になるにあたっては、

研究室生活で培った

 

 

「試行錯誤をベースとした、技術に関する実践ベースでの経験をどれだけ有しているか」

 

 

が勝負となります。

 

 

大学の研究室で経験した能動性、積極性、そして柔軟性を土台とした試行錯誤は、

企業に勤める技術者が最後に成果を出すにあたって大変重要な経験です。

 

 

 

目の前のことを自らの事として試行錯誤するというのが、

企業に勤める技術者にとっての行動の根幹となるからです。

 

 

 

 

本当に力のある従業員を求めるのであれば、理系学生には研究室生活に浸ってもらうべき

 

個人的に企業や研究機関でのインターンは賛成派です。

 

私自身も学部卒の後、大学院を休学して1年間のインターンを経験しました。

 

 

しかし、それは外から言われたのではなく、自分の意思として行ったことでした。

 

 

インターンを選考に使うとなると、大学生は本人が望むか望まないかは別として、

インターンに参加することが就職に有利であるという認識から、

「参加しなければ」という流れに巻き込まれてしまうはずです。

 

 

 

このような流れは、理系学生が大学での生活の時間を強制的に奪うことを助長しかねないのです。

 

 

そして、それが結果的に

 

 

「将来の有望な従業員が大学の研究室をはじめとした、

大学や大学院で経験すべきことを阻害し、新入社員のスキル低下の手助けをしている」

 

 

ということにもなりかねません。

 

 

 

 

企業側も優秀な理系学生を見極められる準備を

 

企業が良い人材を欲しいと思うのは当然です。

 

 

 

しかし採用を優先するあまり、学生の研究室生活時間を削減することにつながる流れを作ることで、

それがその後の技術者としての成長を抑制してしまう恐れがあることを認識するということが、

企業側にも必要な認識なのかもしれません。

 

 

 

純粋に即戦力が欲しいという考えではなく、

企業に入った後、技術者として活躍してもらうためには何が必要か、

という実体験や哲学が企業の人材担当にも不可欠な時代になっているのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

・関連コラム

 

 

大学教育と産業界の要望

 

 

吉野氏のノーベル賞受賞記念座談会 の記事から考える技術者育成

 

 

企業に勤める技術者の学術論文活用法とその読み方

 

 

 

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