材料評価で想定外のことが生じた際に必須のテクニカルデータシートの読み方

公開日: 2024年4月23日 | 最終更新日: 2024年4月23日

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材料テクニカルデータシートは材料の使用方法、保存/消費期限、記載材料データの理解が第一歩

 

 

製造業の技術者という単語を聞いた多くの方が想像されるかもしれないのが、
メディアで取り上げられる事の多い町工場で旋盤や絞り加工を行う方々や、
協業ロボットを使いながら様々な設備を動かす、もしくは保守点検をされる方々、
もしくは電気製品や自動車等の最終アプリケーションに携わった人物像かもしれません。

 

 

そして技術者を英語表記したエンジニア(engineer)というと、
SEやプログラマーをイメージすることが一般的ではないかと感じます。

 

 

当然ながらこの文章を読んでいる方々は、
何かしらの技術業界に属している企業の技術者やその教育に携われる方々なので、
”技術者”という単語について上記とは異なる考え方や印象を持つことも多いと思います。

 

 

ただ、あくまで世間一般という観点でいうと、
上述の印象をお持ちの方々が多数派であろうと推測します。

 

 

 

いずれにしても上記のイメージに何かしらの形で当てはまる技術者像の方々に共通するのが、

 

 

目に見えない化学系のことがわからない/わかりにくい印象を持っている

 

 

事ではないでしょうか。

 

 

 

 

 

今回は化学系の知見が必要な材料評価を題材に、
想定外のことが起こった際のテクニカルデータシート(技術データシート)の活用について、
リーダーや管理職が若手技術者に行うべき指示を解説します。

 

 

 

 

 

材料評価では大なり小なり化学的な考え方が必要になる

 

異種材を接着剤で接着(接合)する、撥水を目的に塗装する、
洗浄剤で汚れを落とすといった技術業務において、
適切に工程が行われているか否かについて、
予備的な検討も含め材料試験をはじめとした「材料評価」を行うことは良くあります。

 

ここでいう接着剤、塗料、洗浄剤はすべて化学製品であると同時に材料です。

 

 

技術でいうと機械系の技術者の方々を中心に、
目で見える形状物ではない材料は視覚的形状として捉えられる特徴が少ないため

 

「わからない/わかりにくい」

 

という先述の印象をもつことが多いようです。

 

 

しかし材料のうち上記事例で紹介したような硬化や架橋、溶解等の反応や現象を生じる有機系材料は、
化学的な視点無しに使用するのは化学製品本来の性能を発現できないばかりでなく、
事故などの重大な問題につながってしまうこともあります。

 

従って、材料評価を行う際には技術者の方々の専門領域が何かに関わらず、
化学的な考え方を取り入れることが求められます。

 

 

以上のような理由から、
材料を用いた評価において想像もしていない事態や問題が生じた場合、
若手技術者が専門外であっても拠り所とできる技術情報媒体を持つことは重要です。

 

 

 

 

 

専門外の技術者にとって重要な化学的知見を提供するテクニカルデータシート

 

では専門外であったとしても、
若手技術者が拠り所とできる技術情報は何なのでしょうか。

 

 

結論から言うと、

 

 

「テクニカルデータシート」

 

 

です。

 

 

 

 

実例を交えながら、テクニカルデータシートの中身と、
当該シートをどのような観点を見るべきかについて考えてみたいと思います。

 

 

 

テクニカルデータシートの例

 

接着剤を例にしてみます。

 

以下は市販されている構造部材向けアクリル系接着剤のテクニカルデータシートです。

 

 

Scotch-Weld(TM) Low Odor Acrylic Adhesives DP810

 

 

中身を見ていきます。

 

 

 

基本構成

 

テクニカルデータシートの基本構成は、発行するメーカによって変化することもありますが、
今回ご紹介する3M社の構成は一般的なものの一つと考えられます。

 

 

主とした構造は以下の通りです。

 

 

 

1. 製品概要

 

ここでは製品がどのような用途に用いるものなのか、
どのような特徴を有するのか、
製品の基本仕様は何かといったことが述べられています。

 

上記の例でいえば、以下のようなことが読み解けます。

 

 

 

・どのような用途に用いるものなのか

 

構造部材向けの接着剤であると述べられています。
わかりやすく言うと接着強度や接着剛性はかなり高めに設定してあります。

 

 

 

・どのような特徴を有するのか

 

アクリル系接着剤で、特にせん断と剥離モードの接着性に優れ、
耐衝撃性にも優れる低臭気材料とのこと。

 

2液性で2種類の材料を1:1の重量割合で混ぜることで硬化が進み、
10分程度は被接着体に塗るといった作業の時間が確保でき、
20分経過後には接着強度が発現するタイプのようです。

 

 

 

・製品の基本仕様は何か

 

主剤と促進剤から構成されており、後者は白色、前者は緑か黒、もしくはそれらを混錬した色になっています。
粘度はどちらもが18,000から100,000cps(センチポアズ)程度の範囲を示しています。

 

同じ品番でも製品仕様によって異なる粘度を示すことがわかります。

 

 

最終的な接着強度発現までにかかるのは、
23℃条件で8から24時間です。

 

 

 

2. 製品一般性能

 

接着剤ですのでどのような被接着体と接着するのか、
そしてそれぞれどの程度の性能が出るのかを示しています。

 

 

例えばエッチングをしたアルミニウムであれば、
せん断強度で4200psi(約28.9MPa)を示し、
その際の破壊形態は接着層の凝集破壊(CF:Cohesive Failure)とのことで、
安定した接着界面を示していることが述べられています。

 

金属だけでなく、繊維強化プラスチックやPVC、ポリカーボネートなど、
樹脂系材料とも接着できることが触れられています。

 

これらの接着強度は低めですが、破壊モードがSFとのことで母材が壊れているため、
接着剤としての性能は十分であることがわかります。

 

更に温度の影響も述べられており、
室温付近で最も接着強度が出やすく、
80℃を超えると接着強度が低下することなどが表で示されています。

 

それ以外にも高温高湿、アルコールやガソリンへの14日間暴露・浸漬などの数値も書かれており、
比較的高い接着強度を維持していることがわかります。

 

 

その一方でMEKやAcetone等の有機溶剤への浸漬によりその強度が大きく低下していることから、
有機溶剤に触れるような環境に接着剤を使うことは適切でないことが示唆されます。

 

テクニカルシートp.4には掲載したデータを取得するのに、
どのような手順で評価したのかについて概要記述があります。

 

 

使用した粘度測定機と測定条件、
せん断試験や剥離試験の参照規格と試験片サイズ、
並びに試験手順と条件が含まれています。

 

 

 

3. 取り扱い注意事項

 

接着前に被接着体の表面を良く洗浄すること、
そして余剰接着剤をMEK等の溶剤で除去できることが書かれています。

 

さらに製品使用においてインクの入った容器をカートリッジを取り付け、
先端に混錬機構を有するノズルをつけて使用すること、
そして最初出てきた接着剤は使用しない等の注意事項なども明記されています。

 

もし室温硬化ではなく加熱する場合は49℃で30分、
66℃で10分程度加熱することが例として述べられています。

 

 

やみくもに温度を上げて硬化させてはいけないということです。

 

 

 

4. 被接着体の表面処理方法

 

金属の場合と、樹脂やゴムの場合と2種類記載があります。

 

 

・金属の場合

 

接着前に油分を含まない溶剤であるアセトンやイソプロピルアルコールで湿らせたウェス等で拭き、
その後#180、もしくはより細かい番手のサンドブラストや研磨を行った後に再洗浄し、
プライマーを使う場合は表面処理4時間以内に行うこと等が書かれています。

 

 

 

・樹脂やゴムの場合

 

イソプロピルアルコールで金属の場合と同様に洗浄後、
研磨と再洗浄を行うと書かれています。

 

 

 

5. 保存と消費期限

 

0から4℃の環境に保存されている場合、
製造年月日から最長15カ月使用できるとのこと。

 

その一方で保管容器が密閉性の良いカートリッジではなく、
バケツの場合、その期間は12カ月になると明記されています。

 

 

 

以上が例として示したテクニカルデータシートの概要になります。

 

 

 

未知の単語を一つひとつ丁寧に調べれば予備知識が無くとも読み解ける

 

ある程度化学知識がある前提で解説をしましたが、
わからない単語を一つひとつ調べれば、
予備知識が無くともデータシートで述べられていることの概要は理解できるかと思います。

 

 

このようにわからないものを自ら調べる、
ということも若手技術者に求められることです。

 

 

 

 

 

材料評価で想定外のことが起こった場合、まず見るべきは使用方法と保存/消費期限に関する内容

 

実際に想定外のことが起こり、
その解決に向け若手技術者にテクニカルデータシートを活用させる場合、
リーダーや管理職はテクニカルデータシートのどこを見るよう指示すべきでしょうか。

 

 

まず確認させるべきは

 

・使用方法

 

・保存/消費期限

 

に関する内容です。

 

 

 

上記の例でいえば、

 

3. 取り扱い注意事項

 

4. 被接着体の表面処理方法

 

5. 保存と消費期限

 

の3点がそれに該当するでしょう。

 

 

 

使用する際に守るべき注意事項が守られているか、
推奨される工程に基づいて使用されているか、
保管方法や消費期限に問題はないか、
といった点を確認させるのです。

 

 

 

化学製品を感覚論や自己流で使うことは、
既述の通り問題発生や危険性を高めることになりかねません。

 

 

改めてテクニカルデータシートを確認させ、
材料メーカが想定する範囲内で技術評価が行われているか、
といったことを確認するのが第一歩です。

 

 

 

 

 

次に確認するのが材料データ

 

次に確認すべきは材料データです。

 

想定外のことが”本当に想定外か”は、
材料データを読み解くとわかるときがあります。

 

 

例えば今回挙げた事例であれば、
接着剤を有機溶剤に暴露されるような環境で使用した場合、
接着強度などの数値が上がらないことは

 

2. 製品一般性能

 

のところで明記されています。

 

 

 

ここに記載されているものが材料データとなります。

 

 

 

有機溶剤暴露環境の材料データが仮に低い結果が出た場合、
それは材料に問題があるのではなく、
材料を不適切に使用したのが問題発生の根幹といえるでしょう。

 

 

本点を確認する意味でも材料データを理解し、
使用環境が適切か、そもそも狙い値に対して製品の設計性能は妥当なのかについて、
改めて考えることが重要です。

 

 

 

 

 

テクニカルデータシートは英語版の方が入手しやすいことがある

 

最後に触れておきたいのが、

 

「テクニカルデータシートは日本語よりも英語の方が入手がしやすいことがある」

 

ことです。

 

 

 

全てのケースで当てはまるかどうかはわかりませんが、
テクニカルデータシートは日本語よりも英語の方が入手がしやすい傾向にあります。

 

これが正しいか断定はできませんが、
日本国外の方が製品に関する情報を積極的に要望し、
またメーカも発信する事が多く、
加えて英語で作成したテクニカルデータシートは複数の国で使用できるため、
英語で作成することが多いといったことがその背景にあるかもしれません。

 

 

 

よってもしテクニカルデータシートを入手したい場合、
代理店等に問い合わせることに加え、
英語で検索すると迅速に入手できる可能性があります。

 

 

 

 

 

まとめ

 

材料評価においてテクニカルデータシートを活用し、
使用方法や保存/消費期限を確認し、そもそも材料が適切に使われているかを知ることが第一歩で、
さらに材料データの比較から生じた現象が妥当なものかを確認することが、
化学の専門性を有しない技術者が材料評価で生じた想定外の事象理解につながることを述べました。

 

 

テクニカルデータシート全体を理解するのが理想的ではあるものの、
材料を使用する側として理解すべき重要な点を中心に、
わからないことは適宜問い合わせ、もしくは調べながら、
内容確認を行うことが肝要です。

 

 

上記の事を若手技術者に理解させ、また実践させることが、
材料に関する専門性を有さない若手技術者による、
技術評価の課題解決への一助になります。

 

 

 

ご参考になれば幸いです。

 

 

 

 

 

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