技術者にマネジメント力をつけさせたい Vol.136
公開日: 2021年4月12日 | 最終更新日: 2021年4月10日
Tags: イノベーションと企画力, メールマガジンバックナンバー, 技術コミュニケーション, 技術マネジメント, 技術者人材育成, 技術評価報告
技術者と言えども一般的な企業の一員である以上、
技術者間で連携しながらチームをまとめていくという力が求められます。
一般的には管理職研修や マネジメント 研修などを通じ、
総合職向けの マネジメント に関する知見を習得させるのが一般的かと思いますが、
恐らくあまりうまくいかないのではないかと思います。
何故ならば、技術を武器としての活躍が求められる技術者に対し、
総合職の方々が無意識にできるバランス感覚でマネジメントを行っていくことを求めるのは、
職種としての特性をほとんど考慮していない取り組みだからです。
今回は技術者の特性を考慮したマネジメント力醸成という取り組みの一つについて考えてみたいと思います。
技術者が得意とするのは技術的知見を武器とした個人プレー
海外では理系と文系の区別が無く、
また技術職と総合職の区別も必ずしも明確でないため、
海外の技術者はマネジメントもできるという旨の意見を見聞きすることがあります。
私自身も北米と欧州で様々な企業や研究機関と仕事をしたことがありますが、
必ずしもそのような考えが当てはまらないのと、
正直なところ マネジメント という観点では海外企業の方が問題のあるケースが多かったのが事実です。
海外企業や研究機関において技術者・研究者からマネジメントになった方々は技術もマネジメントもどちらも中途半端であるため、技術者が独断と偏見で勝手に前に進めてしまう上にバランス感覚が無いためチームプレーが難しく、その結果としてチーム連携という点で多くの問題が発生するケースに何度か直面しました。
私の経験上、唯一うまくいっているように見えたのは欧州が得意とする「コンソーシアム」です。
これは複数の企業や大学、そして研究機関が連携して進むという団体です。
異なる得意技術分野や技術専門性を融合させ、新しい技術やサービス、もの等を生み出すことが目的にあります。
コンソーシアムの運営団体では、
ある程度広範の技術もわかる上にマネジメントに特化したコーディネーターを選定するケースが多く、
この場合は確かにマネジメントも含めうまくいっているように見えることがあります。
国籍も技術も多彩なコンソーシアムではこのようなコーディネーターの存在は不可欠であることを考えれば、
当然とみるべきでしょう。
ただし一般企業でこれほどの人材をマネジメントにあてがうのは稀といえると考えます。
マネジメントと技術者の関係を考える際、
技術者の特性としてまず理解しておかなくてはいけないのは、
「技術者は自らの技術的知見を強みとした個人プレーを好む」
ということです。
これはもちろん問題も多い一方で、
様々な課題に立ち向かいながら自ら解決法を考え、
それを実行していくという技術者の資質として否定すべきものでもありません。
技術的な業務で成果を出すには、技術的な業務をけん引できる技術的な実践経験が不可欠であり、
そのような経験を踏まえるにはある程度個人として前線に立つということが必要なのです。
しかしながらこのままマネジメントになろうとすると、多くの企業で問題となっている、
「技術者はマネジメント力が低い」
ということに直面することになります。
以下は技術者や元技術者が技術的な業務についてマネジメントをする、
という前提で話を進めてみたいと思います。
技術者のマネジメント力を鍛えるためには、その力を支援する業務フローを構築する
ではどのようにして技術者のマネジメント力を鍛えればいいのでしょうか。
結論から先に言うと、
「技術者のマネジメント力を鍛える」
という考え方から、
「マネジメントしやすい業務フローを構築する」
というマネジメント側の考え方の転換がポイントになります。
既に述べた通り、総合職を前提としたマネジメント的な知見は、
そのままでは技術者には響きません。
技術者には技術的な知見を用いて孤軍奮闘する姿にあこがれる傭兵的な性質があるためです。
よって、もし技術者にマネジメント力をつけてもらいたいのであれば、
自然とそのような流れになる業務の流れという「環境を作る」ということがポイントになります。
技術者のマネジメント力発揮を支援する技術評価計画
環境を作ると一言で言っても、なかなかそのイメージがわかないケースが多いかと思います。
もちろんいくつかポイントはあるのですが、
まず最初に構築すべき業務フローということを述べたいと思います。
それは、
「技術評価計画」
です。
各種技術業務を開始する前の段階で、
・どのような背景でその業務を行うのか
・その目的は何か
・取得を目指すアウトプットは何か
・そのアウトプットを取得するためにどのような技術評価を行うか
・技術評価推進の計画
ということをまとめさせるのです。
恐らく、技術的なマネジメントが機能していない企業だと、
このような技術評価計画を立案させるという業務フローを立ち上げる段階で、
「労力がかかるので辞めよう」
となると思います。
ここが分かれ道といえるかもしれません。
技術評価計画という業務フローは労力以前に、
・技術的評価を系統だててまとめるという企画力
に加え、
「提案された技術評価計画の内容が妥当か否かを、技術的に判断するという技術力がマネジメント側に求められる」
からです。
企画力ももちろん技術者にとっては大変な事でしょう。
しかし、企画力は業種を問わない普遍的なスキルであるため、まだ習得の術があるかと思います。
そこに加え、
「技術者の本領域である技術力も試される」
ということが、上記で述べられる労力に直結しているのです。
社内政治や不必要な打ち合わせで時間を浪費し、
技術者が技術力を鍛錬する文化が社内に無いと上述した業務フローは構築できません。
技術評価計画を立案させる以上、業務フローを構築する側、そして評価する側、
つまりマネジメント側にも技術力が求められるというのが重要なポイントといえます。
技術評価計画については以下のコラムでも述べたことがあるので、
そちらも合わせてご覧ください。
※ 若手技術者の暴走や立ち止まり回避に効果的な 技術評価計画
https://engineer-development.jp/column-2/evaluation-plan-for-effective-work
技術評価計画の運用におけるマネジメントへの効果
実際に技術評価計画が業務として定着されるとどうなるのでしょうか。
評価計画段階で誰が何をやるのかがはっきりしているため、
・現場の技術者はマネジメントに状況の報告がやりやすい→マネジメントは状況を把握しやすい
・当初の計画に対しどのような進捗かを確認できれば、業務推進に大きな問題は無い→一度走り始めれば追加のマネジメントフォローは多くない
という状態になります。
つまり
「とりあえず走らせて後からフォローする」
のか、それとも
「走り始める前の段階でマネジメントと現場の技術者の間でのコミュニケーションを成立させ、その後のやり取りを楽にする」
のかという違いなのです。
マネジメントが不得意な技術者であっても、
常に業務内容を技術評価計画に立ち返ることができれば、
現場へのフォローやその頻度も最小限で済むため、
かりにマネジメントを行う側であったとしても負荷も小さくなります。
何よりマネジメントする技術者が「承認」という発言をしなければ話が進まない、
すなわち「マネジメントが内容を理解しないと進まない」ことから、
上記のような状況が成立するのです。
マネジメントが現場技術者の動きを予習するという表現になるかもしれません。
この予習こそが技術者のマネジメント力醸成の基礎力鍛錬に直結します。
いかがでしたでしょうか。
意外かもしれませんが、技術者や元技術者が技術的業務のマネジメントをするにあたっては、
結局マネジメント側の技術力もある程度必要になるのです。
これが総合職を前提とした一般的マネジメントの考えが、
技術系業務には適用しにくいということと関係があるといえます。
マネジメントする側もされる側も技術者である場合は、
「技術という共通言語を用いた技術評価計画というシステムの構築」
というアプローチが技術者の行う業務に対するマネジメントに対しての大変大きなサポート材料となり、
結果として技術者のマネジメント力を高める最短の道となるのです。
環境が技術者を育てるのです。
ご参考になれば幸いです。
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