研究開発業務状況を若手技術者に速報レベルで報告させたい

公開日: 2024年7月29日 | 最終更新日: 2024年7月28日

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研究開発業務状況はグラフ、図、画像、動画を用いて速報レベルで高頻度で報告させる

 

 

研究開発業務の状況把握を目的に、若手技術者に速報レベルでの報告をさせることについて考えます。

 

 

 

 

 

研究開発業務では状況把握が重要

 

各技術テーマの完遂を目指して技術業務を推進するのが研究開発では一般的です。

 

 

作業業務のように短期間で終わるものは少なく、
数週間、数か月単位、場合によっては年単位で継続します。

 

このような中長期にわたって続く業務を管理するリーダーや管理職に求められるのは、
定期的、または不定期の状況把握です。

 

 

 

把握すべきは進捗と技術的課題の有無

 

リーダーや管理職が把握すべきは、
技術テーマの進捗と技術的課題の有無です。

 

それぞれについて概要を述べます。

 

 

 

技術テーマの進捗

 

今、テーマが終了までに対してどの程度のところまで進んでいるのか、
そして当初の計画に対する遅れがあるか無いかといった、
一般業務と同様に進捗を把握します。

 

 

技術テーマ企画の段階で時間軸を明確化し、
それを複数ステップに分けてガントチャートを作成することもあります。

 

このようなガントチャートを用いながら、
現在の進捗を%表記で確認するのが一例です。

 

 

技術評価計画については、過去にも何度か取り上げたことがあります。

 

 

※関連コラム/情報

 

若手技術者の暴走や立ち止まり回避に効果的な 技術評価計画

 

若手技術者が本来の目的からずれた技術評価を進めてしまう

 

 

 

技術的課題の有無

 

これは技術者ならではの観点です。

 

量をこなすという”作業的業務”であれば、
求められるのは効率と精度なので一般的なビジネススキルの話となります。

 

 

問題は技術的な課題が生じている場合です。

 

技術的な課題というのは例えば以下のようなものです。

 

 

  • 技術的な判断をするための分析技術、解析技術がわからない/自社にない
  • 技術評価で得られた結果が想定外/理解不能で、次の一手を何にすべきかわからない
  • 使用する設備、機器が故障した

 

 

上記のような課題発生について、
リーダーや管理職は早急に把握することが必要です。

 

そのうえで、直接解決方法を指示できるのであればそのような指示を、
それが難しいのであれば解決に向けた協力が可能な人や企業を紹介する、
といった行動をリーダーや管理職は実行することが求められます。

 

 

前者の進捗管理は一般論で多く見られるため、
ここでは後半の技術的課題を確認するという観点から、
研究開発業務に関する報告のさせ方について述べたいと思います。

 

 

 

 

 

研究開発業務の状況把握に向けた対応

 

次に、リーダーや管理職が研究開発業務の状況把握に向け、
具体的に取るべき対応について考えてみます。

 

 

 

重要なのは密度よりも頻度

 

進捗把握はもちろん、技術的課題有無の理解は、
できるだけタイムリーに把握することがポイントとなります。

 

よって月に一回という間隔ではなく、
定期的であれば最低でも週に一回、
それ以外にも必要に応じて不定期に状況を若手技術者に報告させてください。

 

 

 

状況把握頻度を高めるには資料作成要求はNG

 

若手技術者も不慣れな部分がありながら、
日々の技術業務を推進している状況にあります。

 

言ってしまえば「余裕のない状況」です。

 

 

このような状況にある若手技術者に、
進捗報告ごとに”資料を作成する”という”作業”を強いるのは効率的とは言えません。

 

よって、進捗報告向けに資料作成を若手技術者に求めることは避けてください。

 

なおここでいう資料作成は、
多くの企業でパワーポイント等のスライド作成のことを指すようです。

 

 

では、リーダーや管理職はどのようにして研究開発業務の状況把握を達成すればいいのでしょうか。

 

 

 

 

 

研究開発業務の状況把握にグラフ、画像、動画を活用する

 

リーダーや管理職が研究開発業務の状況把握を若手技術者に行わせたい場合、
グラフ、画像、動画を活用させるのが一案です。

 

若手技術者への指示の出し方、
グラフ、画像、動画を活用した速報のポイントについて述べます。

 

 

 

 

業務管理者として”何を知りたいか”を明確化し、速報として報告させたい情報の概要イメージを伝える

 

「グラフ、画像、動画を活用した速報をしてくれ」

 

 

という”一言指示”で適切なアウトプットを出せる技術者を部下に抱えている方々は、
その指示で問題ありません。

 

 

その一方で技術者は物事をまとめるのが不得手な場合が多く、
上記のような一言指示で適切なアウトプットを出せるとは限りません。

 

 

この対策としてリーダーや管理職が意識すべきは、

 

 

・何を知りたいかの明確化

 

 

・報告させたい情報の概要イメージ

 

 

の2点です。

 

 

 

それぞれについてポイントを述べます。

 

 

 

知りたいことはできる限り具体的にし、優先順位の高いものに絞る

 

既に述べた通り、
研究開発業務の状況把握を目的とした速報で重要なのは密度より頻度です。

 

 

リーダーや管理職としてはより多くの情報を入手して状況を把握したいと考えるかもしれませんが、できる限り優先順位の高いものに絞ってください。

 

 

加えて、求める情報については具体的に示すことも重要です。

 

 

 

例えば以下のような例があります。

 

 

  • A. 合成した化合物のFT-IRチャートとその帰属の結果を用意し、狙い通りのものができたか、自分自身の判断を聞かせてほしい。
  • B. ○○を加工した際の送り速度の条件と、加工中のトルクとスラストに関する変位データを用意し、他材料を加工した場合と違いがあるか考えを教えてほしい。
  • C. 供試体に飛翔体を当てた際のハイスピードカメラの動画、衝突前後の画像、飛翔体の速度データ、衝突時の供試体のひずみデータを見せてほしい。
  • D. LotAの製品の製造工程における温度、圧力、振動データをデータロガーで入手したものを、
    横軸に時間、縦軸に各データが示されるグラフとして示してほしい。
    特異点があればそれも併せて教えてほしい。

 

 

研究開発を担う技術者が相手ですので、
技術的内容を明確に示した指示がリーダーや管理職にも求められます。

 

 

 

速報として示してほしいものは、図示できるものは概要図を描く

 

前述の指示を伝えられたとして、
実際に報告をさせるとリーダーや管理職とイメージがずれている、
ということもあると思います。

 

これでは指示を出したリーダーや管理職はもちろん、
指示を出されて対応した若手技術者にとっても残念な結果となります。

 

 

 

これを避けるために必要なのが

 

「図示化」

 

です。

 

 

これはリーダーや管理職が行う対応です。

 

細かい図を描くという意味ではなく、
例えばホワイボードや白紙の上に、
手書きでイメージを伝えます。

 

同様に前述の事例に該当する描写すべき案を示します。

 

 

  • A. FT-IRチャートの吸光(もしくは透過)ピークトップの波長数値と、各ピークで同定された化学構造式、並びに想定した化合物構造式の該当箇所の明記
  • B. 横軸に時間、縦軸にトルク、スラストをそれぞれプロットしたグラフ
  • C. 動画は衝突前後を中心にビューアで見られる状態に、画像は電子データで全体画像に加え、
    衝突箇所と供試体の保持箇所の拡大画像を準備、ひずみデータはオシロスコープから直接印字した印刷紙
  • D. 温度、圧力、振動データはCSVデータに変換の上、横軸を時間、縦軸をそれぞれの数値に設定の上、エクセルの散布図でそれぞれグラフ化し、PC画面で表示

 

 

上記の内容が伝わるよう、手書きで説明するイメージとなります。

 

 

加えて、念押しの意味も兼ねて指示内容を若手技術者に”書かせることで確認する”ことも実行してください。

 

 

本点は過去の連載でも取り上げたことがあります。

 

 

※関連情報

 

第4回 若手技術者が指示事項を理解したのかわからない 日刊工業新聞「機械設計」連載

 

 

 

 

 

本コラムに関連する一般的な人材育成と技術者育成の違い

 

研究開発業務状況の速報を若手技術者に行わせるにあたり、
数値データのグラフ化はもちろん、
画像一つを見てもスケールを入れる、
データ取得前の計測機器校正や場合によっては散布図の表示手順など、
研究開発業務の基本常識の部分を伝える必要性が出ることもあります。

 

 

また技術業界ごとに異なる慣習がある一方、
その染みついた常識故に技術業界共通の常識とはずれてしまっていることもあります。

 

このようなことを適宜修正のうえで、若手技術者に業務指示を行うことの支援や指導をリーダーや管理職の方々に行うこともあります。

 

 

このような業務支援では支援する側が研究開発の実務経験と技術テーマの完遂、
並びにそのようなプロジェクトをリーダーの立場で推進した経験が不可欠です。

 

当社の技術者育成コンサルティングでは、
支援する側が上記のような経験を有したうえで、
複数社への支援業務を通じた経験を日々蓄積することで、更新し続けています。

 

 

一般的な人材育成ではこれらの経験をベースにした支援はほぼなく、
技術者育成の特徴の一つといえます。

 

 

 

 

 

本コラムに関連する具体的な技術者育成支援の例

 

当社の技術者育成コンサルティングでの対応となります。

 

 

研究開発を担う技術チームのリーダーや管理職との打ち合わせにおいて、
代表的な実務を複数挙げていただきます。

 

上記の実務のうち、近日中に若手技術者に指示を出すと想定される内容についてご説明いただいた上で、技術の基本的なポイントを当社側が理解します。

 

その後、実際にリーダーや管理職から若手技術者に業務指示をしていただいた後、
若手技術者側の理解確認のため、別途個別面談を行います。

 

 

個別面談の結果から、若手技術者の理解度合いをヒアリングし、
リーダーや管理職の指示方法の改善点を具体的にお伝えします。

 

 

このようなやり取りの繰り返しにより、
各社に合った研究開発業務指示方法の構築支援を行います。

 

 

 

※参照情報

 

顧問契約先企業様での1日のスケジュール例:技術者育成コンサルティング

 

 

 

 

 

まとめ

 

グラフ、図、画像、動画を中心とした速報によって研究開発業務状況を把握することは、
リーダーや管理職が技術テーマを管理する際に必要不可欠なやり取りです。

 

報告する側が若手技術者の場合、
速報といってもどこまで、何を報告するのかわからないと感じることも多く、
そこにスライドなどの資料作成を求められては、
”速報が遅報”になってしまいます。

 

この状態を避けるためにもリーダーや管理職は資料を求めず、”何を知りたいか”を明確化の上で、求める速報情報のイメージを手書き描写も含めて若手技術者に理解させ、互いに効率的なコミュニケーションをとることが肝要です。

 

 

 

 

 

最後に

 

当社では上述した内容を含む、
主として研究開発を行う技術者向けの技術者育成コンサルティングを提供しています。

 

 

研究開発業務の効率的な推進に向けた業務指示体系の強化などについてご相談がありましたら、
お気軽にお問い合わせください。

 

 

 

 

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