技術者育成においてまず取り組むべきことは何か Vol.139
公開日: 2021年5月24日 | 最終更新日: 2022年3月1日
Tags: イノベーションと企画力, メールマガジンバックナンバー, 技術報告書, 技術者の上司とは, 技術者人材育成
技術者育成は大切であり取り組まなければいけないが、
まず何に取り組めばいいのかわからない。
これは多くの企業において悩まれていることかもしれません。
それもそのはずで、まず何に取り組むべきかがわかっている企業であれば、
このような悩みを抱えることは無いからです。
結論から言うと
「技術者育成に関する企画を作る」
なのですが、この結論を述べるに至る背景を先に述べたいと思います。
技術者育成は一般的な総合職の人材育成とは違う
これは当社のスローガンとして何度も述べていることですが、
技術職である技術者育成の流れは総合職の人材育成とは似て非なるものです。
ある程度進んでくれば技術者以前の社会人としての本質に行く着くため共通項も出てきますが、
初期の段階では総合職のそれとは分けるべきといえます。
企業によっては、
「技術者育成は人材採用等を担当する総務部が対応すべきだ」
と考えることもあるようですが、
半分正解で半分間違えです。
正解の部分としては、人材育成は技術者であってもそうでなくても、
「企業の基本方針として取り組まなくてはいけない」
という観点から、総務部などの担当部署が入ることは重要であり、
この動きは経営陣も理解しなくてはいけないということが挙げられます。
その一方で間違えという部分は、
「技術者育成は技術者の心理を先回りできない」
ということが挙げられます。
総務部などの担当部署の方々が理系学部出身、または元技術系の職種であればここもクリアですが、
多くの場合、総務部門の方々は文系出身で営業や企画、その他間接部門の道を歩まれているケースが多いと思います。
理系と文系を分けるのは日本くらいだという、
論点をずらすお話も散見されますが、
私個人的にはそこは人材育成という所ではあまり関係ないと考えています。
技術者育成を前進させるという観点で考えるべきは、
「技術者は固有の思考回路を持っている傾向にある」
ということを認識し、
「その考えを先回りし、効率よく技術者育成を推進する」
ということにあります。
技術者固有の思考回路の一つが
「専門性至上主義」
です。技術的なことを知っていることこそすべてという考え方です。
総合職の方々から見るとなぜそのようなことにこだわるのかわからないかもしれませんが、
多くの技術者はそこにこだわる傾向にあります。
よって、総合職の方々であっても技術者育成に関わるのであれば
「技術者育成においてどのような部分を先回りすればいいのか」
ということをある程度理解し、必要に応じて技術者出身のマネジメントを巻き込むといった工夫が必要になります。
技術者育成に不可欠な企画とは
既に述べてきただけでも、
・技術者は固有の考え方を持っている
という観点が必要ということをご紹介しました。
このように一つひとつを確認しながら技術者育成を進めていくのは、
かなり難しいはずです。
留意すべき観点が多いことに加え、
技術者育成は年単位での継続的な取り組みが不可欠だからです。
では技術者育成についてどのような取り組みがまず最初に必要かというと、
「技術者育成に関する企画」
となります。
いわば、技術者育成計画ですね。
企画については、過去にも技術者向けにコラムで述べたことがあります。
※ 技術者の イノベーション と 企画力 1:企画力とその盲点
このように述べるとそれは当たり前という印象があるかもしれません。
しかし大切なのは、
「どこまで具体的かつ段階的に長期視点で述べられているか」
です。
例えば技術者の文章作成力を高めると書くのは誰でもできますが、
「どのような手順と取り組みで技術者の文章作成力を高めるのか」
について述べられていることは極めて少ないです。
様々な企画がありますが、どれも抽象的なものや、
単に研修を受けさせるといった単発的な取り組みに終始しているのが通常です。
人を育てるというのは長い視点で、
具体的な取り組みを継続し、
その内容を企業文化まで昇華させるという徹底した姿勢が重要なのです。
例えばもし当社が技術者育成において文章作成力を高めるという話になった場合、
以下のような項目を各種推進するという企画を立案するでしょう。
期間は1年で設定しています。
1. 技術報告書作成の意義と効果の解説
→技術者としての成長に不可欠な技術報告書作成の効果を中心に説明。
専門性至上主義だけでは生き残れないことを合わせて説明。
2. 技術報告書の基本構成と最重要留意点の説明
→技術報告書の基本構成が理解の第一歩であることを周知。
→専門性を重視する故、考察ばかりに目が行く一方で、
肝心な目的と結論のずれが生じる傾向があることなどを説明。
3. 技術報告書の作成演習
→技術報告書の作成のポイントを、
技術報告書の基本構成の理解が深まるものを選定の上で実習。
4. 実業務への落とし込み方法の説明
→日々の実験、試験をはじめとした研究開発業務をどのように技術報告書にするのかを事例を使って説明。
5. 技術報告書の承認、確認ルートの構築
→各部門がどのような確認、承認ルートとするのかを周知。
※ここまでを初日に説明。
6. 提出された技術報告書の修正とフィードバック方法
→確認や承認をする際のポイントを説明。
細かいところの指摘に終始し、重要なポイントを逃さないことの重要性を解説。
7. 初期6カ月で技術報告書作成を行うテーマ(予定)と担当者の一覧
※6、7は社内議論を経て決定。
8. 進捗報告と次の6カ月の計画立案
9. 最終報告
上記はあくまで技術者育成の中における
「技術報告書作成スキル向上による論理的思考力の醸成」
というテーマに限定した内容となっています。
実際はこのようなテーマをいくつも企画立案し、
上記のようにできるだけ細かく項目を分けて記載することが求められます。
上記には書いていませんが、
各項目についての時間軸の記載も必要です。
いずれにしても、できる限り具体的に記載することがポイントです。
このような企画を例えば総務部だけで立案するのは大変難しいでしょう。
それ故、技術系のマネジメントを巻き込む、
または場合によっては当社を含む外部企業の支援を求める、
ということが必要になってくると思います。
確かに技術者育成の企画を立案するのは大変な重労働ですが、
一度決めてしまえばそれに基づいて粛々と進めるだけになります。
粛々と進めるだけになれば、軸ブレをする、立ち消えになるということはまずありません。
結果的にはこのような準備こそが技術者育成という困難なテーマ成功の秘訣といえるでしょう。
ご参考になれば幸いです。
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