若手技術者が本来の目的からずれた技術評価を進めてしまう Vol.128
公開日: 2020年12月21日 | 最終更新日: 2020年12月21日
Tags: OJTの注意点, メールマガジンバックナンバー, 仕事の遅れる若手技術者, 技術者人材育成
自社製品の性能試験や、顧客から委託された開発の技術的妥当性を検証する評価試験。
技術者は常に、技術的な妥当性を客観的に判断するため、
「性能試験、評価試験」
といった、
「技術評価」
を行う必要があります。
しかし、実際に評価を行わせたところ、
「必要なデータが取得されていなかった」
ということは無いでしょうか。
今回のメールマガジンでは、上記のような状況がどのようにして起こるのか、
そしてその対策はどうすればいいのかについて考えてみます。
Photograghed by Engin Akyurt
評価のやり直しによるお金と時間への影響
このような事態になると、
「評価のやり直し」
という最悪の事態につながります。
多くの企業は予算や経費の削減という目につきやすいところを気にしているようですが、
上記のような評価のやり直しは、評価に使った試料や設備運転などのコストに加え、
「技術者の業務時間に関する労務費」
という莫大な費用を支払うことになります。
既に行った評価業務がすべて無駄になるからです。
どのくらいの費用になるのかについて考えてみます。
日本人の平均年収は436万円です。
※参照元:https://clabel.me/incomes/24345
これを、一般的な勤務日数である245日で割ると、
約17800円になります。
仮に、ある評価を行うのに、2人がかりで20日かかったとします。
すると、そこに必要な人件費を上記の条件で計算すると、
17800 * 20 * 2 = 712,000 円
になります。
このようなコストについてはあまり目が向けられないのが現状ではないでしょうか。
そして何より
「使った時間は戻ってこない」
という事実を忘れてはいけません。
このように、技術者が行った技術評価が無意味であるということによる損失は計り知れません。
評価の方向性がずれるのは目的の誤解
上記の事象は、
「本来の目的からずれた評価を進めてしまう」
ということを示しています。
そして、そもそもの基本である技術評価の方向性がずれる主な原因は、
「技術評価を行う目的の誤解」
にあることが殆どです。
目的とは、
「その技術的な評価によってどのようなデータを取得し、それによりどのようなことを判断したいのか」
ということにあります。
本来、マネジメントはこのことをきちんと理解させ、
その上で、若手技術者にその評価を推進させる必要があります。
しかしながら、
・このような目的は言わなくともわかるだろう
・目的を説明する労力が無駄だ
といった意識、もしくは無意識の言動により、
技術評価の実務を担当する若手技術者は目的を理解せずに前進することもあります。
しかし、結局のところ上述の問題が起こるのです。
もちろん目的を確認しなかった若手技術者にも非がありますが、
技術評価の目的を理解させるという基本中の基本をないがしろにしている、
というマネジメントも反省すべきことが多いはずです。
ではこのような事態にならないためにはどのような対応をすればいいのでしょうか。
事前に技術評価計画を作成させ、手順に加え、その目的を確認する
マネジメントが取るべき最も的確な対応は、
「若手技術者に技術評価計画を立案させる」
ということです。
実際の評価を始める前に、何をやるのかという計画を立てさせるのです。
技術評価計画は、最重要の目的も含め、具体的な評価手順まで含め、
以下のような項目を網羅するのが一般的です。
具体的には以下の内容が網羅されているのが重要です。
1. 技術評価の目的
2. 技術評価で得たいアウトプット
3. 技術評価のマトリックス表
4. それぞれの技術評価概要
5. 評価計画概要
これらを活字として確認すれば、
若手技術者の理解がマネジメントと合致しているということがわかるかと思います。
そして、技術評価に対する目的はもちろん、
その目的達成に向けてどのような技術評価を行うのか、
ということまで若手技術者に加え、
「マネジメントも理解していないと技術評価計画は完成しない」
ということがポイントです。
最終的にこの技術評価計画を承認するのはマネジメントですが、
全体を俯瞰して見えていないと、承認可否の判断ができないのです。
さらに必要に応じ、技術評価計画について、
目的は何なのか、そして具体的な評価方法はどのようにするのか、
といったことをマネジメントは助言しなくてはいけないからです。
そしてこのような評価計画がきちんとできていれば、
その後に控える技術報告書という技術者最強のアウトプットも半分はできていることと同じになります。
「技術評価計画のようなものを作成していると時間だけがかかって前に進めない」
という考えを有するマネジメントは、その先にある部分が見えていないことを認識する必要があります。
このような徹底した準備こそが、
結局のところ後戻りということを最小化し、
目的からのずれという問題を回避するのに大変重要な役割を果たすことになります。
技術評価計画については、過去に以下のコラムで述べたことがあります。
詳細についてはこちらをご覧ください。
※ 若手技術者の暴走や立ち止まり回避に効果的な 技術評価計画
https://engineer-development.jp/column-2/evaluation-plan-for-effective-work
他人の頭の中は見えません。
マネジメントがいくら技術評価計画の目的をわかっていても、
それはきちんと伝えなくては若手技術者にはわかりません。
さらにいうとその理解度をきちんと把握するには、
やはり活字で確認するしか手が無いのです。
技術評価計画という初期段階の負荷を避けることで、
後から「やり直し」という多大な代償を支払うことにならないようにするためにも、
一つひとつ確実に進めていくことが重要かと思います。
※関連コラム
技術者育成に関するご相談や詳細情報をご希望の方は こちら
技術者育成の主な事業については、以下のリンクをご覧ください: