若手技術者を育成する技術者に求められること
公開日: 2023年2月13日 | 最終更新日: 2023年2月12日
Tags: マネジメント, メールマガジンバックナンバー, 技術コミュニケーション, 技術報告書, 技術者の上司とは, 技術者人材育成
企業組織で最近増えている要望が「若手技術者の育成に対応できる技術者を増やしたい」ということです。
若手技術者を育てるのには、従来のOJTが基本となるのが一般的です。
そして、これだけだと問題を感じるという企業においては、外部の講習やセミナー等を若手技術者に受講させる、または外部企業の支援や指導を受け入れ、外の風を入れるということに取り組む企業も増加していると感じます。
しかしこれらの取り組みにも課題があるため、やはりOJTを基本にする若手技術者育成が主となる状況に変わりはありません。
そうなると企業組織として欲しいのは、
「若手技術者を育成できる社内の技術者」
になります。
ただ、どのようにしてこのような人材を育てればいいのかがわからない場合も多いのではないでしょうか。
今回は若手技術者を育成できる技術者を育てるために必要なことについて考えます。
外部講習やセミナーの限界
外部講習やセミナーは基礎知識の習得などに効果がある一方で、単発的であるという限界があります。
これはどれだけ優れた企画のセミナーであっても不可避の事です。
技術者育成は足の長い取り組みになることが通常で、数日の研修で何かが変わることはありません。
もちろん、研修によってそれをすぐに取り入れて成長する技術者もいますが、多数派とは言えないでしょう。
本当に技術者育成を企業組織として取り組みたいのであれば、
会社の中の仕組みから変える必要があります。
日々の積み重ねでしか本質的な意味での技術者育成はできないことを考えれば、
単発的な外部講習やセミナーには限界があるという点は無視できません。
外部企業による支援や指導にも盲点がある
ある程度長期視点で技術者育成に取り組もうと考える企業の中には、外部企業に外から入ってもらうことで技術者育成を後押ししようという行動を起こすケースも最近増えています。
このような中長期視点での技術者育成の取り組みは単発的な講習やセミナーと比較し、
圧倒的に効果が出やすいと考えられます。
その一方でいくつか盲点もあります。
各社各様で課題が異なるため都度の教育システム設計が不可欠
最初に理解すべきは、
「どこの企業にも万能的に通用する技術者育成方法は存在しない」
ということです。
人材育成を専門とする企業の中には、パッケージ物で支援や指導を進める企業もあります。
しかしながら、技術者という職種の方々を相手にする場合に重要なのは、
ある程度業務内容が類似する一般職では成立しやすいカテゴリー分けしたプッシュ型の人材育成の考え方ではなく、
「技術者の専門性至上主義という思考の癖を考慮した歩み寄り」
です。
技術者は自らの技術に対して、興味や理解をするという対応があるか否かという関門を自ら設置しており、この関門が技術者育成に関する話を聴くか否かの最初のハードルとなっています。
ここでいきなり人材育成としての一般論を押し込んでも、受ける側の技術者たちがそれを吸収することは無いでしょう。
よって最初は相手技術に歩み寄る姿勢を示して関門を突破し、
その上で各社各様、場合によってはある程度個人に合わせて育成方法を考えることが不可欠です。
このためには実際に技術者育成を行う企業が的確な提案をするのはもちろんですが、
「技術系の議論について歩み寄りができること」
が前提であり、さらに言うと、
「自社における技術者育成での課題は何か」
ということを当事者である技術者育成を行う企業がきちんと理解し、
技術者育成に対応する企業に伝えられるかの方がはるかに重要なのです。
外部企業の支援や指導を受けるにしても、前提となるのは強い当事者意識
自社の技術者育成システムを改善、強化し、企業の成長を後押ししたい。
そのように考える企業は数多あるでしょう。
しかし、それらの企業の中で、
「自分たちで技術者育成システムを構築し、自社を変えていくのだ」
という
「当事者意識を有する企業」
となると、その割合は大きく低下するはずです。
お金を払って外部企業の知見を活用すれば社内は変わるのだというのは明らかな誤解であり、他力本願と言えます。
自社の技術者育成という課題を考えるのであれば、その主役はあくまでその企業に属する管理職や技術者達、そしてそれを支援する教育担当部門です。
外部企業はそれらの方々が成果を出すことを支援し、指導するまでしかできないのです。
この線引きができるからこそ、客観的な視点で指導や支援ができるというのが外部企業の強みでもあります。
結局のところ外部組織を使うといっても、まずは当事者意識が第一歩である。
この前提を考えれば、冒頭で示した通りOJTというものが基本となるという文言の背景は理解しやすいかもしれません。
若手技術者を育成できる技術者に求められるのは粘り強さと信頼関係
Photographed by SHVETS production
ここから若手技術者を指導する技術者に関する議論に入っていきます。
OJTを行うにあたり必要なのは自社の技術者の中で、若手技術者を指導する技術者を抜擢することから始まります。
この際どのような観点で選ぶべきかにはいくつかありますが、最も重要なのは
「粘り強さと若手技術者との信頼関係」
です。
若手技術者というのは、即戦力とみられる人材であっても想定と比較すればなかなか育たないと感じるのが普通です。
時に何度も同じような間違えをすれば感情的な言動を抑えられなくなる指導側の技術者も出てくるでしょう。
このような感情表現を悪とみる時代ですが、技術者が当事者意識をもって育成しようとした結果としてそのようなことになっているケースもあります。
そのためすべてを否定的に捉えることはできませんが、
感情的な指導では若手技術者の育成効率が低下するのは間違いありません。
感情でぶつかられた若手技術者はその感情に対する処理に労力が割かれ、
肝心かなめの指導内容が頭に入らないことが多いためです。
よって、指導する側の技術者はある程度感情を抑えながら、
粘り強く指導するという姿勢が求められます。
加えて信頼関係が無ければ指導内容を聴こうという若手技術者の姿勢を整えることができないため、
日頃の何気ない会話も含め、適度な距離に縮めることがポイントとなります。
若手技術者向けの指導で最も効果的なのは技術文書の添削
ここからは具体的な話になります。
実際に指導を行う技術者が若手技術者向けにどのような指導から始めるべきでしょうか。
当社としても様々な観点の指導を試してきましたが、最も効果が上がるものとして、
「技術報告書や議事録の添削」
があります。
議事録は打ち合わせに同席させた際に、どこまで内容を把握しているのかの確認を行うことができます。
足りない部分、誤解していた部分は補足をすればいいでしょう。
そして若手技術者育成で最も効果が認められるのは技術報告書の添削です。
まず実際にやっていただくとわかりますが、添削というのは大変な負荷がかかります。
他人、しかも経験が不足する若手技術者の技術報告書は得てして読みにくく、要点も抑えていないことが多いといえます。
これを一つひとつ確認しながら、修正を加えていくというのは、
作成する若手技術者が考えるよりもはるかに高い負担を指導する技術者に強いていることになります。
実はこのような高い負荷のやり取りこそが、技術者育成の本質なのです。
理由を以下に述べます。
若手技術者からの視点
技術者は技術的な文章を書けなければ口頭による技術的な説明ができません。
技術者として最重要の、
「技術コミュニケーションができない」
ということになるのです。
人に伝わるように話せるためには、人に伝わるように「書ける」ことが基本となります。
理路整然とした文章が書けない技術者が、相手にわかるように技術的な内容を伝えることは不可能でしょう。
従って技術報告書の添削ということを通じ、経験と知見のある技術者から指導を受けるというのは、技術者としての仕事の基本中の基本を指導されていることとほぼ同じなのです。
そのくらい貴重な指導であり、そして若手技術者たちの技術報告書は大変読みにくい中でそれを解読し、フィードバックをもらえる価値を認識することが肝要です。
指導する技術者側からの視点
若手技術者の技術報告書を見ると、若手技術者が技術的な記述ができないだけでなく、自分たちの行っている業務の背景や目的を理解できていないことに気がつくでしょう。
技術報告書の添削で最重要なのは、若手技術者達が業務指示内容を理解しているかを確認することにあります。
間違っていれば早急に修正することが求められます。
また、技術コミュニケーションの基本となる技術文章の作成力は、結局のところ若手技術者を戦力とするための必要条件の一つになります。
早い段階で、指示事項を理解した上で技術的な業務を一人で推進し、必要に応じた報告や相談ができるようにならなくてはいけないからです。
指示内容の理解は、技術報告書で背景や目的を適切に記述する力と同じです。
報告や相談が適切にできるためには、技術的な内容をわかりやすく記述する力があるか否かで判断できます。
わかりにくい技術報告書の添削は大変な労力ですが、
それを一つひとつ修正をすることが若手技術者の成長につながることで業務分担が可能となり、
結果的には指導する技術者自身を楽にすると感じる観点も必要です。
いかがでしたでしょうか。
技術報告書の添削においてはいくつか留意点もあります。
こちらは過去のコラムや連載でも述べたことがありますので、そちらもご参照ください。
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