将来研究開発を担う若手技術者の育成には中長期の研究は適さない

公開日: 2024年6月3日 | 最終更新日: 2024年6月10日

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研究開発を担う若手技術者は主担当、短期、明確な到達点の3点が揃った仕事をまず経験すべき

 

 

今回は研究開発を担う若手技術者の育成について考えます。

 

 

 

 

本コラムに関連する当社事業:技術者育成コンサルティング

 

 

 

 

 

研究開発費配分比率は企業の営業利益率と明確な相関がある

 

売上高における研究開発予算の割合が高いほど、
営業利益率が高いことはデータ上で明らかとなっています。

 

 

例えば以下のような情報が一例です。

 

 

※関連情報

 

研究開発活動への取組と課題/中小企業庁

 

 

製造業企業における生命線が技術力であることを考えれば、
必然の結果といえます。

 

 

 

 

 

研究開発を担うのはあくまで”技術者”という人

 

ではお金をかければうまくいくのか、
というとそういうわけではありません。

 

 

研究開発を実際に推進するのは技術者です。

 

 

 

よって、研究開発を担える技術者を育成することは、
製造業企業にとって重要な取り組みとなります。

 

 

 

 

 

将来研究開発を担う若手技術者をいきなり研究を中心とした部署には入れてはいけない

 

研究開発向けの技術者育成という狙いを前提とした場合、
戦略としてできれば避けたいポイントがいくつかあります。

 

 

その代表的なものが、

 

「研究開発を担う人材を、まずは中長期プロジェクトを主とした研究業務を担う部署に配属させる」

 

というものです。

 

 

一見正しいと考えがちなこの方向性に、
どのような課題があるのかについて考えます。

 

 

 

OJTやOFF-JTで専門的な知識習得から始めることが多い

 

一般認識として、研究開発を担う技術者を育成するにあたり専門知識習得を重視するため、
OJTやOFF-JT等を通じて”学ばせること”から始めることが多いようです。

 

 

中長期的なプロジェクトを担う研究部門は、
程度の差はあれ開発に比べれば時間的余裕がある場合も多く、
上記の知識習得に時間を割くという選択肢を持てるのが一般的です。

 

 

専門知識が必須なのは言うまでもありませんが、
知識習得を主としたOJTやOFF-JTでは、
研究開発に必須の「知恵」は身につかないと思います。

 

 

ここが研究開発向け技術者育成の盲点といえます。

 

 

 

研究開発の推進に必須の知恵とは何か

 

当社の技術者育成において、
知っていることを応用し、実践的な行動まで結びつけられる知見の事を、
知識と区別して“知恵”と定義しています。

 

 

具体的な行動を起こして課題解決や技術評価推進などができなければ、
研究開発はできません。

 

 

あくまで実行力が伴って、初めて技術者は研究開発という仕事を担える立場になります。

しかし社内外の研修や座学など、
大学や高校の勉強の延長のようなやり方では、
得られた情報は知識どまりとなってしまい、
知恵にまで昇華することは不可能です。

 

ではこの知恵を身につけ、
研究開発を担える技術者を育成するためには、
若手技術者をどのような流れに乗せればいいのかを考えます。

 

 

 

 

 

若手技術者の本質的な研究開発力を高める体験

 

研究開発を担える技術者が若手技術者の間に必要なのは”体験”です。

 

 

この体験で明確でなければならない要素は、

 

「主担当、到達点、時間軸」

 

の3点です。

 

 

それぞれについて述べます。

 

 

 

当事者意識醸成の大前提である主担当としての任命

 

企業によっては

 

「各種技術業務の主担当は誰か」

 

が明確にならないまま技術業務を進めているようです。

 

 

 

主担当の技術者には

 

「その仕事を自分事として精一杯取り組む役割」

 

が求められます。

 

 

 

この”自分事”として取り組むことは簡単なようで難しい時代となりつつあります。

 

 

 

若手技術者の減少と働き方改革は当事者意識醸成の障害となる

 

若手技術者の絶対数減少に伴い、
企業はこれらの人材を大切に育てようという潮流の中にいます。

 

さらに加えて”働き方改革”を、
労働時間の短縮化という考えに結び付けたがる雰囲気により、
仕事で経験を積める絶対的な時間が若手になるほど短くなる傾向にあります。

 

 

よって仕事を自分事と捉える当事者意識醸成には長い時間がかけられないため、
短期決戦を基本とし、
その醸成効率を高めるためプレッシャーを感じながらやりきるという経験が必須です。

 

緩い仕事はこの経験にはなりえません。

 

 

上述した昨今の雰囲気では、若手技術者は当事者意識を醸成する機会を得にくいまま、
年齢だけ重ねていく可能性が高くなっているのです。

 

当事者意識は若いうちに刷り込まれなければなりません。

 

経験と年齢を重ねるほど柔軟性と適用力が低下し、
もっともらしい言い訳を重ねて逃げることを覚えてしまうからです。

 

結果として、若手技術者は将来自らの選択肢が狭まるという苦境に陥る可能性が高まります。

 

 

 

到達点無き仕事は担当者のモチベーションと業務効率の低下を招く

 

実践本番の研究開発は、
必ずしも短期で結果が出るわけではなく、
ある程度の時間をかけて最終的なゴールに到達するという”粘り強さ”が求められます。

 

しかし若手技術者に、いきなり中長期目線の研究開発の仕事を与えても、
モチベーションを高く維持し、効率よく業務を推進することは難しいでしょう。

 

 

迷う時間が長くなることで不安が増大してしまうからです。

ある程度短期間で到達できるゴールを明確に設定し、
若手技術者をそこに向かわせることが重要です。

ゴールのイメージは口頭で伝えるだけでなく、
活字やイメージ図を用いながら、
リーダー/管理職と若手技術者の間のすり合わせを行うことは不可欠でしょう。

このように到達点を明確にすることも、
若手技術者に知恵を身につけさせる実務経験では重要です。

 

 

 

短期の時間軸を死守させる

 

前述の通り、中長期の仕事はモチベーションや業務効率が低下しやすいです。

 

実践経験の浅い若手技術者に必要なのは、

 

「小さな成功体験の積み重ね」

 

による技術業務推進に伴う心理的報酬の獲得です。

 

 

よって、ある程度短期の時間軸が設定された技術業務を経験させることがポイントとなります。

 

 

 

そして重要なのは、

 

「時間軸を死守させる」

 

ことです。

 

 

結果的に守れないということは若手技術者であることを考えれば許容する配慮も必要ですが、時間軸を守るため若手技術者が限界を感じる状態にあるかが重要です。

 

 

 

若手技術者に愚痴や文句を言う余裕があってはいけません。

 

その技術業務を推進する短期間は”必死である”ことが求められます。

 

 

多少のストレスがかかったとしても、
まずは目の前のことをやりきるという経験が重要なのです。

 

 

 

このように自分の限界を決めずに多少の無理をしてでも仕事をやりきることこそが、
知恵を身につけ、将来研究開発を担う基本スキル習得に重要な糧となります。

 

 

 

 

 

リーダーや管理職はフォローしながらも若手技術者に裁量権を与えて任せる

 

ここで忘れてはいけないのが、
若手技術者の業務推進の自由度に関する考えです。

 

 

自らが主担当となり、
明確な到達点に向かって厳しい時間軸の中で技術業務を推進することは、
若手技術者の研究開発業務の推進スキルを高めるために大変有効な一方、
強いストレスがかかるはずです。

 

 

ここであまりリーダーや管理職が横から逐一口を出してしまうと、
若手技術者が余計に混乱する恐れがあります。

 

 

よって、リーダーや管理職は若手技術者が業務推進に課題を感じていないかを確認しながらも、
業務推進をある程度任せるという姿勢が必要です。

 

 

若手技術者が業務推進において裁量権を得ることは、
試行錯誤の鍛錬となります。

 

 

 

試行錯誤が研究開発業務の基本であることを考えれば、
この経験が重要であるのは自明だと思います。

 

 

 

 

 

まとめ

 

製造業の企業における研究開発は技術力向上の源泉であり、
これが結果として企業の財務体質強化にもつながることが明らかとなっています。

 

 

ただ忘れてはいけないのは研究開発の予算を組めばうまくいくのではなく、
実務推進を担う技術者を育成することが不可欠である点です。

 

本点を課題として認識した企業の多くは、
研究開発を担う技術者を育成するのを目的に、
若手技術者に中長期目線の研究を主としたOJTと、
専門知識習得を狙ったOFF-JTを組み合わせて育成する戦略を選択するようです。

 

 

ただ研究開発の実務力を高めるにはそのような環境よりも、
短期目線で到達点が明確であり、かつ時間的なプレッシャーのかかる環境が、
若手技術者育成の観点から望ましいです。

 

そして若手技術者は強い当事者意識を持って自らの裁量で業務をやりきることを、
上記環境下で体験することが、
研究開発に必須の実践力を伴う知恵の獲得と試行錯誤の鍛錬に大変重要です。

 

 

 

リーダーや管理職は若手技術者に上記のような環境を用意することに加え、若手技術者が迷ったり立ち止まったりした際に適宜フォローする配慮が求められます。

 

 

 

 

研究開発を担える若手技術者を大切に育成しなければならない今だからこそ、
短期集中で厳しい環境を体感させるべきだと思います。

 

 

 

 

 

 

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