コミュニケーションをメールに頼る技術者
公開日: 2023年3月27日 | 最終更新日: 2023年3月27日
Tags: テレワーク, マネジメント, メールマガジンバックナンバー, 内向き志向, 技術コミュニケーション
今も昔もそうですが、技術者は対面での打ち合わせ、電話での会話を好まない傾向があります。
個人差があるといっても、技術系以外の社員と比較して明らかに会って話す、電話で話すということを回避しようとするのです。
今回は技術者のメールに依存したコミュニケーションの背景とその対策について考えます。
Photographed by Miguel Á. Padriñán
対面での打ち合わせを回避したい技術者の主な心理
年齢、性別、社風に加え、個々人の特性がありますが、対面での打ち合わせを回避したいという技術者の心理としては大きく3つの恐れによるものと考えています。
以下、それぞれについて触れます。
対面打ち合わせに伴う現場作業の遅れへの恐れ
技術者の中で最も多いパターンと言えます。
実際に現場を持つ技術者にとって、対面での打合せというのはその時間はもちろん、準備や移動等の時間も取られます。
その分、現場での実験、試験、そして生産活動をはじめとした現場作業が遅れることになるのです。
他人と話すよりも現場作業を優先したいというのは技術者の多くに見られる考え方であるため、ある程度はリーダーや管理職が業務バランスも含めて理解すべき背景です。
技術的な知識が足らないということが露呈することへの恐れ
専門性至上主義を有する技術者に多く見られるパターンです。
実践経験が浅いために自尊心が低い技術者、または学歴や過去の成功事例に依存する技術者の多くに見られます。
対面での打ち合わせではどのような話の流れになるのか全く読めない部分もあるため、言ってしまえばわからないことが、自分で何か言語化できないほど全てわからないということもあり得ます。
このような場面になった時に、
・会社の看板に傷がつくのでは
・自分が何も知らないと自分が馬鹿にされるのではないか
といった心理が支配的になるのです。
専門性至上主義を有する技術者が示す特性の典型例と言えます。
議論の方向性が見えなくなることへの恐れ
技術者の普遍的スキルの一つである論理的思考力が欠落する技術者が示す恐怖心とも言えます。
論理的思考力というのは自らを含む場を俯瞰的にみて、物事を整理して伝え、そして進めるという力です。
話をしているうちに議論があらぬ方向に進んでいることに気がつかず、
終わった時には何のために集まったのかもわからない。
加えてこのようになった時に、職場環境の変化の激しい昨今であっても責任感のある上司がいたとすれば叱られます。
この叱られるということへのリスクもどこかで考慮しているようです。
最強のリスクヘッジは迷走するかもしれない打ち合わせを回避することだ、
という考え方を示す結論が見えてくるのではないでしょうか。
電話で話すことも回避したい技術者の心理
技術者は電話も避ける傾向にあります。
電話というのはこちらの意図をリアルタイム、かつ相応の情報量を伝えることのできる大変有意義な情報伝達媒体です。
また、メールなどと異なり電話中は話し相手もその件に注力する必要があるため、後回しになる、忘れられるリスクを低減するという効果もあります。
電話を避ける心理についても考えてみます。
話をすべき内容に抜け漏れがあることへの恐れ
対面での打合せの際の技術者の心理と似た部分があるとも言えますが、
電話で話をしようとする際は対面のそれよりも時間が圧倒的に制限されます。
あまりにも長電話というのは相手にも負担を強いますし、電話をした技術者自身の時間も取られるためです。
この対策としてどのような話をしようかと事前にカンペのようなものを作る技術者もいますが、
「カンペを作るならこれをメールで送ればいい」
となり、結果的に電話をすることはないでしょう。
電話をすることで相手に迷惑をかけるという恐れ
これはある程度相手に配慮できる性格の技術者によくみられる心理です。
当然ながら真夜中や早朝に電話をかける、毎日のように電話をかけるのは常識から外れていますが、必要な内容を議論するために電話をすることは業務上必要なことです。
仮に相手が出られなくても、あまり気にする必要はありません。
携帯であればSMSを後で送付する、固定電話であれば出た人に伝言をお願いする等、やり方は色々あります。
電話をするにあたっては、相手への配慮と技術的な業務推進に伴う必要性を考慮し、ある程度の割り切りは必要です。
遠慮することによって技術的な業務が遅れることこそ技術者が気にすべきことでしょう。
以上のような心理によって対面での打合せや電話を回避する技術者を、
リーダーや管理職はどのように導けばいいのでしょうか。
リーダーや管理職が積極的に話しかけることで対面コミュニケーションの恐怖心を和らげる
技術者が大学や大学院を出ている場合、その多くが個人プレーです。
他の人と連携するような作業は少なく、学士は指導教官の指導を仰ぎながら、
修士や博士になれば自らの考えで研究活動を進め、修士論文や博士論文に加え、
対外的な学会発表や学術論文執筆を進めるのが一般的です。
自分で考えて進めるということは技術者にとって必要なスキルですが、
技術者は技術的な業務を進めるという専門的側面以前に一社会人です。
一人で完結できるような仕事はほとんどありません。
つまり、就職して初めてチームプレーを求められる状況になり戸惑う技術者が多いのが実情なのです。
この不安を取り除くのに際重要なのが、
「リーダーや管理職が積極的に話しかける」
ということです。
結局のところ、日々近くにいる社会経験が豊富なリーダーや管理職が歩み寄るということが、コミュニケーションとは何かということを理解する第一歩なのです。
すぐに結果はでないため、リーダーや管理職は粘り強く技術者に話しかけ、
チームプレーのやり方を覚えさせる必要があります。
技術力に自負のある技術者がよく言う「聞きに来ない」という言葉
ここで問題となるのは、リーダーや管理職のスタンスです。
元技術者で、さらに技術力を自他ともに認めるような技術者としての経験を積んできた技術者は
「技術者が聞きに来ない」
ということをよく言います。
言ってしまえば、リーダーや管理職もコミュニケーション力が低く「受け身」なのです。
これではより若手の技術者は対面はおろか、電話でのコミュニケーションに取り組むスキルが育ちません。
まずはリーダーや管理職から取り組み姿勢を変えることが肝要です。
外部の研修などを通じ、社外の人間と触れ合う機会を与える
もう一つ技術者に求められるのは、社外の技術者との交流です。
これは私自身の企業指導の最前線の現場での実感に加え、参考図書(※)でも述べられているが、
「社外の人間に触れ合うことでモチベーションが高まる」
傾向を示すことがあります。
※参考図書
ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由 古屋星斗 著
これは普段所属している職場では自分の足りない部分が知れ渡っているためなかなか自信が持てない一方、外に出るとそのような先入観を持つ人物が周りにいないことから自分の強みに気がつくことがあります。
そもそも技術専門領域も異なるため、技術者が専門性として意識する知識量を比較する必要もありません。
これが自信につながり、コミュニケーションを取ろうという動機付けにつなげられる技術者が多いと感じています。
グループワーク等の交流が含まれる外部研修を複数受けさせることで、外からの指摘を与えるということがコミュニケーションを取ろうという後押しになることを知っておいていただくと良いと思います。
尚、交流する社外人材の職種として必ずしも技術者にこだわる必要は無く、
営業や総務等でも全く問題ないことを合わせて述べておきます。
オンラインでの打合せについて
最後にもう一つ忘れてはいけない選択肢であるオンラインでの打合せについて触れておきます。
COVID-19の拡大は対面で話すという代わりに、オンラインでのやり取りをより一般的なものとして浸透させたという観点があります。
もちろんオンラインでの打合せツールというのは今に始まったものではなく、
10年以上前から一般的なものとして存在していました。
このツールを使っていたのは国内外に複数の拠点を有する企業、
または海外企業とのやり取りの多い企業に限られていたのかもしれません。
オンラインでの打合せは顔が見えるという強みがある一方、
場の雰囲気をつかむという俯瞰的な視点を制限する限界もあります。
見えている範囲、感じられる範囲に限りがあるためです。
何より画面上だけでは信頼関係が芽生えにくいとういう心理的なハードルもあります。
オンラインツールを一般的な媒体として活用してきた若手技術者はこの心理傾向が変わり始めているようですが、人間本来の有する特性から言うとオンラインツールだけでは信頼関係が醸成しにくい傾向に変わりは無いと考えています。
これは昨年(2022年)に非常勤講師として大学3、4年生向けに行った授業でも実感していることです。
加えて対面とオンラインでの打合せでは得られる情報の濃度が変わることについて、
異存のある方も少ないと思います。
いずれにしてもオンラインでの打合せは、対面を中心としたやり取りの完全なる代替選択肢にはならないことを理解しておく必要があるでしょう。
技術者のコミュニケーション力が低いというのは一般的な印象とも概ね合致して良そうです。
技術者といえばマスメディアは必ずと言っていいほど町工場の工場を映すことからも、いわゆる技術者気質(かたぎ)というのは多くの人にとって何かしらの共通認識を提供していると感じます。
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しかし時代は想像をはるかに超えるスピードで変化しています。
こういう時代だからこそ、時代の波にのまれずに一つの技術を極める職人のような職種を選択する方法もあります。
ここには常人離れした忍耐力と集中力が必須で大変高度な取組みになります。
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それだけの覚悟があれば上記のような職種を目指すという生き方もあります。
しかし多くの技術者にとってこの変化の波に乗り、技術者が企業で活躍するためにはコミュニケーション力は必須であり、特に対面打ち合わせというものを必要に応じて対応できることが求められます。
これからの技術系企業にとって、異業種協業を中心とした従来とは異なる技術の枠組みが今の時代には必要だからです。
※関連連載記事
第11回 技術的な飛躍に不可欠な異業種技術への好奇心 日刊工業新聞「機械設計」連載
上記で紹介したような取り組みを日々の業務でリーダーや管理職も進めることが、
結果として技術者のチームを強くし、ひいてはその技術者の属する企業を強くすることにつながっていきます。
ご参考になれば幸いです。
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