デジタル化に対応できる技術者育成の第一歩
公開日: 2022年6月6日 | 最終更新日: 2022年6月8日
Tags: OJTの注意点, イノベーションと企画力, デジタル化, メールマガジンバックナンバー, 技術コミュニケーション, 技術者人材育成, 生産性向上
デジタル化は、一例としてデジタルトランスフォーメーション(DX)という表現もされながら、
今様々なところでトレンドワードとして用いられている印象です。
今回はデジタル化という取り組みに対し、
どのように技術者育成に取り組むべきかについて考えてみたいと思います。
デジタル化というのは意味の幅が広い
デジタル化と一言で言っても、
その内容には様々なものがあります。
例えば、当社でいえば自社のHP運営やメールマガジン発行により、
様々な方々に当社の取り組みを知っていただくというマーケティング活動は、
デジタルを活用した業務の一つです。
営業担当の方々が見込み顧客を訪問して周知する、
というアプローチとは異なるものになります。
小売業であれば、全国の店舗の売り上げや在庫をネットワークで一括管理し、
必要な発注を行う、人員配置を決めるといったことをAI等を活用しながら自動で行う、
というのもデジタル化といえるでしょう。
身近なものであれば、
スマートフォンやパソコンを用いて、
予約を行う、支払いを行うといったものも、
通信技術を用いているという意味ではデジタル化といって問題無いかと思います。
このように、デジタル化というのはかなり抽象的な表現であることを、
まず注意する必要があります。
以下はまず、企業における業務に関するデジタル化、
ということに限定して話を進めてみます。
デジタル化は万能ではなく定常業務効率化に力を発揮する
企業においてデジタル化はどのように活用すべきでしょうか。
最も相性のいい業務の一つが、
「管理業務」
です。
人事系の手続き、労務管理、在庫管理等がその一例です。
どちらかというと、変化の激しい業務を行う、新しいことを行うというより、
「決まったことを間違いなく遂行する」
という
「定常業務」
と相性が良いと考えられます。
その一方で、技術者の主な業務の一つといえる研究開発を中心とした、
「新しいものを生み出す」
という仕事には、デジタル化というのを直接活かすことは容易ではありません。
それは何故でしょうか。
研究開発を一例とした技術者の業務のデジタル化の難しさ
例えば研究開発を行う技術者がデジタル化に取り組むとします。
しかし、早い段階で以下の疑問に直面するはずです。
「どの仕事をデジタル化すればいいのか」
技術者が最も輝く業務の一つである研究開発は、
「試行錯誤の連続」
です。
正しいと思って行ったことがうまくいかない、
思いがけないことがうまくいくということは日常茶飯事です。
そしてこのような試行錯誤においては、
やみくもに行うことはほぼなく、
技術者なりの経験、技術的理論を中心とした知識等を活用しながら、
「こういうことを行えばうまくいくであろう」
という仮説を立てて進めることが普通です。
仮説が合っていれば問題ありませんが、
仮に間違っていた場合、それによって得られた結果に応じた変更修正を行う必要があります。
当然ここでも、合っている、間違っている、という判断や試行錯誤が不可欠です。
技術評価や実験を組み立てることも不可欠で、
その中でもどの評価が必要か、パラメータ設定はどうするのか、
得られた結果をどのように解析するのか、
といった選択や試行錯誤が不可欠です。
このような試行錯誤をどのようにデジタルで対応するのかは、
大変難しいのです。
技術者の推進する研究開発をデジタル化するには目的と必要機能を網羅した設計書が必須
本題ですが、デジタル化に対応できる技術者を育成するには、
”まず”何をすればいいのか、ということについて考えます。
結論から先に言うと、
「デジタル化の目的と必要な機能を明文化した設計書を作成させる」
となります。
一例を述べます。
例えばデジタル化として、AIを用いた業務の支援を行うとします。
AIというのは、端的にいうと
「入力するパラメータと出力するデータを決め、出力データを最適化する入力パラメータを決める」
ということを得意とします。
つまり、もしAIを導入したいのであれば、
「入力するパラメータと出力するデータはそれぞれ何で、出力データがどうなる条件を見出したいのか」
ということを最初に決めることが不可欠です。
これを順序立てて明文化したものが、
「設計書(仕様書)」
なのです。
デジタル化に必須の設計書の概要
この設計書は、
・デジタル化の目的は何か
・デジタル化によって得たい機能は何か
ということを中心とした内容で、
・デジタルで対応したい業務フロー図
・各フローにおける要件
・ハードウェア、ソフトウェアの要件
・使いやすさ等、ユーザ視点からの要望
といったものを盛り込む必要があります。
つまり、
「何をしたいのか、ということを明確にして、全体像を伝える」
ということになります。
かなりの俯瞰的視野が必要で、
各要件についてできる限り明文化する、
という文章作成力、いわゆる技術者の普遍的スキルが不可欠です。
デジタル化に応じたプログラムのスキル習得は技術者にとって必要ないのか
デジタル化というと、プログラム言語を操る知識を中心としたスキルが必要と考える企業が多いようです。
当然ながら、自社独自のシステムを作る、
ということであればそのような社員も必要です。
しかし、仮にこの手のスキルを有した技術者を雇用できたとします。
何をしてもらうか明確な指示が出せるでしょうか。
どれだけ優秀な技術者を集めたとしても、
「何をやってもらいたいのかという目的が明確化されていないと人材を活用できない」
ということに異論のある方は少ないでしょう。
企業という受け入れる側が何をしてもらいたいかを考えられないと、
そもそもデジタル化に向けたスキルを有する技術者を活用できないのです。
そのため、上記で述べた通り、
「第一歩としてはデジタル化に向けた設計書の作成が重要」
となるのです。これが準備できないと、何も始まらないのです。
そして、この設計書を作成できないと、
デジタル化に限らず、すべての業務において主導権が握れないことになります。
企業規模や川上、川下といったものづくりの位置づけに関わらず、
「自社は何をやりたいのか」
という意思表示が必須の現代では、主導権を握る、
つまり自分たちで考えて進む取り組み姿勢が不可欠です。
専門外は自分たちで考えず相手が考えるべきという悪しき風潮
デジタル化に向け、自社の技術者が設計書を作成するということは、
具体的なシステム設計はスキルを有する他社が行うことになります。
つまり、請負業務を基本とした外部委託が必要になります。
ここで良く生じる誤解があります。
それは、
「自社はデジタル化に関する知見が少ないので、自分たちが何を求めているのか考えてほしい」
という、
「他力本願の姿勢」
です。
自領域とそれ以外という枠組みで線を引き、
その線の外にあるものは買うか、考えてもらうか、
という思考回路に支配されている技術者が増えているのがその理由と推測されます。
いわゆる分業体制の強化がこの文化醸成の背景にあり、
この体制が製造業で効率化というメリットを提供したのも事実です。
しかし、技術のコモディティー化が進み、差別化による付加価値が求められる現代では、
足かせになっています。
技術系企業に必須の差別化による付加価値創出
自社技術の差別化による付加価値を創出するには、
「異業種技術協業が不可欠」
の場合が多い。
オープンイノベーション等の言葉はその裏付けの一つとも言えます。
上記で紹介した設計書も、細かいソフトの要件を記載する、
ということを言っているのではありません。
デジタル化の骨子となるソフトウェアに何を求めるのか、
ということを明確化する必要があるといっているだけなのです。
この明確化に技術的専門性は必要ありません。
それよりも、自社として何が必要なのかを俯瞰的視点からきちんと伝えるという、
基本的なコミュニケーションに該当するものである、
ということに気が付くことが肝要です。
異業種技術協業には、技術的な領域の垣根を超えた意見交換が必須です。
専門性至上主義にこだわり、業界用語を連発していることに満足していては、
他の業界からの協力は得られないのです。
そいう言う意味では、デジタル化に向けた動きの第一歩として、
設計書を作成するということは、
技術者育成の観点からも大変有効であると考えます。
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設計書をかける技術者がデジタルに関連するスキルを習得したいと意思表示した場合
このようにデジタル化に向けた技術者育成では、
俯瞰的視野を持ちながら設計書を作成させることが第一歩ということをお話しました。
基本的にはこのような技術者を棟梁とし、
プログラム言語等を扱える技術者や外部企業の船頭を担わせることが、
企業にとっては妥当な流れです。
しかし、設計書を作成した技術者の中には、
「自らもデジタル化に向けたスキルを習得したい」
という発言をする方が出てくるかもしれません。
基本的には、そのような熱意に応える意味で、
マネジメントとしては許可する方向で考えて良いと思います。
しかし、技術者としてよくあるのが、
「スキル習得が目的となってしまい、そのスキルを”どう活用するのか”という視点を見失う」
ということです。
あくまで、デジタル化における技術者としての本質的スキルは、
「デジタル化に対応できる人材や企業をしかるべき方向に導く」
という視点にあり、これが”第一歩”です。
ここをぶれない様、技術者本人が意識するのはもちろん、
マネジメントもぶれない様にすることが肝要です。
ご参考になれば幸いです。
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