海外の技術者との研究開発業務での協業
公開日: 2023年3月13日 | 最終更新日: 2023年3月12日
Tags: グローバル化, メールマガジンバックナンバー, 技術者の普遍的スキル, 技術者人材育成, 異業種スキル
製造現場を担う人手として海外人材を活用する、という取り組みは日本の製造業を支える基本的な取り組みの一つになりました。
しかし昨今の日本の少子化、技術のコモディティー化、並びに日本企業の組織文化の硬直化、分業の限界といった複合要因によって、技術的業務の中で新しいものを創出する、課題の解決や改善を担う研究開発という業務にも海外人材が活躍する場面が増えてきました。
元々数学をはじめとした理系スキルの高いインド人を中心とした海外人材を日本企業に派遣するという取り組みが、最近もマスメディアで報道されていました。
上記の番組中で紹介されていた海外技術者の派遣を行う企業の社長からも
「派遣した日本の企業から、派遣社員から正社員へ切り替えたいという要望が多い」
という発言があったことからも、研究開発を担う若くて優秀な技術者は今や日本企業であっても日本人にこだわることが難しい時代に突入したのだと感じています。
※参考情報
株式会社 サンウェル SunWell Solutions Co., Ltd.
今回は研究開発を担う海外技術者が日本人技術者と協業するにあたり、リーダーや管理職が理解し、日本人技術者に伝えるべき点について考えてみます。
海外の技術者と協業することは日本人の若手技術者にとっていい刺激となる
最初に技術者やリーダーが理解すべき背景について述べます。
海外から技術者が来ると今までの企業文化が壊されるのではないか、協業を中心とした業務の進め方が崩れるのではないかと懸念される方が多いようです。
しかしこの課題はその技術者が海外出身有無に関係なく、日本人技術者でも同じだと思います。
よって、国籍が何であろうと自社のやり方にある程度合わせることができるのか、という適性を見るのは同じです。
その上でリーダーや管理職が理解すべきは、
「海外の技術者との協業は日本人技術者にとってもいい刺激となる」
ということです。
特にその日本人技術者が若いほど、刺激の振幅が大きくなります。
以下ではどのような刺激があるのかについて考えます。
国や文化に由来する考え方の違いを感じ、自らの視野の範囲限界を知る
刺激は色々なものがありますが、一番大きいのは
「国や文化に由来する考え方の違い」
です。
当然ながら国だけで個性が決まるわけではなく、最後は個々人の性格が大きいと思いますが、大なり小なり生まれ育った国由来の違いというのは生じます。
上記のように国が違えば考え方も違うということを、日本人技術者が実践業務を通じて理解することが視野を広げる意味で大変重要です。
欧米やアフリカ、南米はもちろん、仮に同じアジアであってもこれほど違うのかと思うこともあります。
このような経験が自らの知っている世界の広さに限界があると理解し、
専門性至上主義に陥りがちな技術者の視点を広げることに大きな影響を与えると思います。
ただ1点注意すべきは、
「相手の考え方や文化に合わせるだけでなく、自らの考えも伝え落としどころを見つける」
ということでしょう。
日本人の良いところでもあり、悪いところでもあるのですが、相手に合わせようという考え方が突出して強いと感じています。
これはプライベートの付き合い等、場合によっては必要なことですが、
技術者として研究開発業務を協業によって推進するのであれば相手にその意義と意味を説明し、
納得のいかないところは議論をしながら妥協点を見つけるという能動的なやり取りが必要です。
どちらが議論の主導権を握るのかといったゼロサムバイアスにこだわるのではなく、後述する技術者としてのグローバル技術言語力を使って議論する姿勢が技術者にとっては必要です。
コミュニケーションが苦手な傾向のある技術者(海外も同様)が日々の議論を避けられないという意味でも、海外の技術者との協業は意義があるといえます。
技術的な業務に必要な知識の凹凸の違いを感じる
国により教育カリキュラムの詳細は違うことから、技術的な業務に必要な知識も国によって凹凸があります。
例えば数学が強いと国際的に認められているインドだと、数字の計算方法として「棒算」を使うことが知られています。
※参考情報
九九が当たり前の日本から見ると未知の世界です。
これ以外にも日本だと基本的なこととして教えられることを海外では習わない、もしくはその逆ということもあり得るでしょう。
専門性至上主義を徹底正義として掲げる技術者から見ると、
「専門性という同じ土俵で争うことができない」
と感じるかもしれません。つまり、何をもって技術的な専門性というのかは国によって違うのだということに衝撃を受けるかもしれないのです。
この経験が日本人技術者の多くが専門性と思い込んでいる「知識量」を争うことに意味がないと感じさせ、技術の本質を考える必要があるという考え方に変えさせるきっかけとなるかもしれません。
技術者としては大変大きな一歩となるでしょう。
英語をはじめとした外国語としてのやり取りにこだわらない
これも日本人技術者によくある考え方ですが、
「海外なので英語でコミュニケーションをとらなくてはいけない」
というものがあります。
英語は確かに学術論文を始め多くの技術的な情報伝達言語の基本となるため重要であることに疑いの余地はありませんが、日本に技術者としてきている海外の技術者と無理に英語などでのやり取りにこだわる必要はありません。
むしろ、日本語を教えながら日本語で少しでもやり取りできるよう、日本人技術者側に引張ってあげるという考えの方が重要なのです。
日本語を学びたいという技術者は日本人技術者が思うよりも多く、むしろ多少なり日本に興味があるからこそ来ているはずです。
このような取り組みが、日本語の世界的な認知度を高めるという重要な副作用をもたらすことにも一役買う可能性があるでしょう。
※関連コラム
海外の技術者とのコミュニケーションで最重要なのはグローバル言語力と伝える
ここまで述べてきた通り、研究開発業務において海外の技術者と協業することは日本人技術者にとっても良い影響を与えます。
しかし日本人技術者が海外の技術者と研究開発を進めていくにあたり、どのようなことが重要なのかをリーダーや管理職は現場の技術者に伝えなくてはいけません。
この際、何を伝えるべきでしょうか。
結論から言うと、
「グローバル技術言語力を基本としたコミュニケーションを密に取る」
となります。
グローバル技術言語力というのは技術者の普遍的スキルの一つです。
グローバル技術言語力をより具体的に表現すると「数学力」と「文章作成力」となります。
「数学力」は技術の基本である定量評価の必須要素
研究開発を担う技術者にとって数学は絶対に必要です。
高度な問題を解けるなどの学問の観点を言っているのではありません。
感覚論を徹底排除し、現象を数値という客観的事実として捉えることで技術の本質を理解するために必要なのです。
その為には、
「幅広い数学の基礎理論」
を理解の上、実業務に適用するという実践経験を蓄積していくことが肝要です。
数学は全世界共通の理論から構成されているものが多いため、
言葉が通じなくとも数式で議論することが可能です。
数字や数式を通じて海外の技術者と議論の上で分かり合えた時、国をまたいだ技術者としての共感を実感することができるかと思います。
※参照情報/関連コラム
第10回 技術者のグローバル化に必要な数学力と文章作成力の鍛え方 日刊工業新聞「機械設計」連載
文章作成力は技術的内容を理解してもらうための礼儀
日本語というのは主語や目的語が無くとも通じる言語の一つです。
これこそが日本人が日本語を操ってコミュニケーションをとる際、
表現や解釈の幅を広げるという素晴らしい文化の一部を担っているとも言えます。
しかし、研究開発のような技術的業務においてこの文化は障害となります。
議論の内容が定性的で支離滅裂となり、そもそも何のために議論しているのかもわからなくなるということがあります。
これが研究開発のような技術的業務推進場面で出てきているのであれば、それは話している技術者全員が頭の中が整理できていないということとイコールになります。
日本人技術者同士であればそれ以外のやり取りなどを通じてお互いの理解ができるかもしれません。
しかし、言語が完全に理解できない海外の技術者にとっては意味の分からない内容となり、強いストレスを感じると思います。
このようにならないためにも日本人技術者が海外技術者と議論する前に議論内容を文章等で一度まとめ、その上で整理しながら議論を進めるということが海外の技術者と協業するにあたり大変効果的となります。
文章化できるほど整理できていれば、議論が支離滅裂になることもないためです。
結局のところ、技術報告書をはじめとした技術文書をきちんと作成できる基本スキルが日本人技術者側にあるか否かによって、海外技術者が加入した際に日本企業が求める「協業」が可能となるのです。
研究開発業務を海外の技術者が担うようになりつつあるのは、多くの日本人技術者にとって脅威と映るかもしれません。
しかし、今求められるのは警戒よりも協業による共栄です。
日本という国が戦後ここまで成長した一因となっているのは加工貿易を基本とした製造業です。
これからは海外の技術者の力もかりながら、切磋琢磨し、日本製造業技術の新しい形を模索することが不可避でしょう。
上記のような新しい形を模索する企業にとってのご参考になれば幸いです。
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