技術者が技術的な業務を抱え込んで、なかなか前に進まない
公開日: 2022年2月14日 | 最終更新日: 2022年2月14日
Tags: OJTの注意点, マネジメント, メールマガジンバックナンバー, 技術者の自主性と実行力を育むために, 技術者人材育成
技術者は自分の手元の業務を自分のやりたいようにやりたがる傾向にあります。マネジメントから見ると、それは時に不可解に映るかもしれません。
– 自分の考えるように仕事を進めてみて、それがあっているのかを自ら見てみたい。
– 自分で仕事を回しているという実感を得ていたい。
– 自分で手足と頭を動かした仕事の成果を得て、社内での立ち位置を確立したい。
– 自分で技術的なことをきちんと理解するため、自分のペースで調べながら進めたい。
自分で抱え込むタイプの技術者に多い深層心理は上記のようなものです。
自分のやりたいように取り組みたい、成果を得たいといった、
積極姿勢があるという部分は企業人として評価に値するといえます。
目の前の仕事を他人事のように見る技術者と比べれば、
上記の姿勢は望ましい方向性といえるのは間違いありません。
しかし、技術者が陥りがちな上記のような考え方には、課題があるのも事実です。
仕事を抱え込む技術者はほぼ100%近視的になっている
Phogographed by cottonbro
最も問題なのは、冒頭紹介した仕事を抱え込む技術者の深層心理の、
「自分という一個人が主人公で、周りを俯瞰的にみていない」
という共通して存在する部分です。
成果を得たい、自分で勉強しながら進めていきたい、自分のやり方が正しいか試してみたい。
これらの文言の主語はすべて「私は」になっていることに気が付いていただくと、
考え方が自分という一個人が主人公のスポットライトの当たった舞台にいる感覚に陥っているのがわかります。
この仕事の進捗が周りの人にどのような影響を与えるのか、
もう少し視点を上げるとチームやグループといった組織から見るとどうなのか、
更に視点を高めれば企業としてはどういうことなのか。
視点を上げれば上げる程、
主語が「私は」から「私たちは」に変わっていきます。
この視点に早い段階で気が付かないと、技術リーダー、そして管理職というステップを経て、
企業運営側の人物として成長していくのは難しくなっていくでしょう。
尚、管理職と混同されがちな技術的なリーダーについては、
以下のコラムでも述べたことがありますのでそちらも合わせてご覧ください。
技術者の視点を俯瞰的なものにさせるためには、外から技術的な知見を注入する
技術者は技術的な専門性に固執する専門性至上主義を有しています。
この特性をうまく活用するのが、すべての思考が「私は」に陥りがちな技術者の視点を高めることの第一歩です。
最も効果的な対応の一つが、
「取り組んでいる技術的業務内容について、技術的な知見を有する企業に業務推進を一部委託する」
ということです。
自分たちよりも技術的専門性を有する企業に、例えば技術的な評価の一部を委託する、
ということは委託した側にとって多くの技術的な知見を得る大変有意義なアプローチの一つです。
委託する側の技術者も、経験の浅い技術者にありがちな
「自尊心を守るために、自分の考え方ややり方にこだわる」
という初期のハードルだけ超え、
「委託業務を通じ、自らは効率的に技術的知見を習得できる」
という考えに変われば、委託するということへの抵抗も減ると思います。
また、このような委託業務の効果として、技術的な知見を習得するという事に加え、
「異なる技術者の考え方や意見、仕事の進め方を感じる」
ということが大変重要です。
異なる企業であれば異なる社風となります。
技術的なバックグラウンドも異なり、もちろん個々人の違いもあります。
さらに、委託する側は受託側から見るとお客様なので、受託側との感情的な要素はあまりなく、
理路整然とした議論も可能になると思います。
上記のように技術的な業務の外部委託は、委託側の視点を広げ、そして高めるのにも効果的であり、
技術者としての成長を促す一要因にもなります。
委託側は丸投げせず、何をやってもらいたいかを予め伝えることが最重要
ここまでだけの話であれば、予算を確保する、依頼元からの見積りを上乗せする、
といったお金の話を解決できれば委託すればいい、となるかもしれませんがそれほど単純ではありません。
上記で述べたような委託による技術者の成長を実現するには、
前提となる条件があります。
それは、
「委託する側が、受託する側に何をしたいのか明確に活字で伝えられるか」
ということです。
実はここができるかが最も大きな分かれ道となります。
丸投げは問題外です。その時点で委託側の思考は停止しており、頭を使わない仕事で技術者が成長することは絶対にありません。
委託側が受託側にやりたいことを伝える際、最も有効な文書のうちの一つが、
「技術評価計画書」
です。
これは評価の目的が何で、何を最終的なアウトプットとしており、
それをどのような手段で取得するか、ということを詳細に書き示した書類です。
このような書類をかける技術者”だけ”が成長することができます。
仮に、委託側の企業の技術者が「どのような評価を考えているか、提案して」といった時点で、
ここで成長するのは委託側ではなく、受託側になります。
合っている間違っているではなく、何をやりたいのかという初案を提案できないと、
技術者は絶対に成長しません。
よって、委託する側の技術者は技術評価計画書をまず作成し、
それを見せながら合っているところ間違っているところ、
必要な修正や代替案などについて、技術的な知見を有する受託側の技術者と議論することが肝要です。
技術評価計画書の書き方については、過去に以下のコラムで取り上げたことがありますので、
そちらをご覧ください。
いかがでしたでしょうか。
技術者が自分で抱え込みたいという心理は私も元技術者なので痛いほどよくわかります。
実際それによって得るものもあるので、すべてがダメとは言いません。
しかし、技術者が本当に成長するのはそのような抱え込みによる仕事ではなく、
自らの責任で様々な企業と関わりながら、かつプレッシャーを受けながら進めてやり切るという仕事です。
このような仕事は広く、そして高い視点が不可欠であるため、
技術者としての幅を広げる大変重要な業務経験です。
この業務経験の一つの形が委託なのです。
今回の留意点も十分に理解の上、委託業務を日々の技術業務の中に取り入れていただき、
自社の技術者の成長につなげていただければと思います。
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