指示待ち技術者を増やさないために
公開日: 2023年1月30日 | 最終更新日: 2023年1月30日
Tags: OJTの注意点, プロジェクト型技術業務, メールマガジンバックナンバー, 技術者の自主性と実行力を育むために, 技術者人材育成, 指示待ち, 要素技術醸成
技術者のあるべき姿の一例として「製造業の技術者を自発的に行動し、課題解決できる」というものであることに強い異論を持つ方は少ないと思います。
このような技術者の姿は研究開発のような職種はもちろん、品質保証や生産・製造という職種でも共通するものになります。
上記のあるべき姿に近づくために技術者が取り組むべき重要なものの一つが、
「組織としての本質的な技術課題解決に向けた足の長い技術テーマ」
になります。
その一方で技術者は若手技術者を中心に目の前の仕事を優先し、この手の取り組みを後回しにする傾向が大変強いのが実情です。
今回は目の前の仕事”だけ”に注力することで生じる技術者の問題と解決方法について考えてみます。
目の前の仕事をきちんと対応するのは重要だが、それだけでは組織の技術力は先細りになる
技術者は専門性至上主義を掲げる傾向が強いことからも自尊心が低い傾向にあるといえます。
技術者はこの自尊心の低さを隠すため、実践力が求められる企業に属しているにも関わらず、技術的な専門知識という知識量で自らの優位性を確認し、これを土台とした効率最重視のスキル向上を重視した意識を持つことがあります。
そのため自らの主観で「雑用」と認定した業務から回避することで業務経験や社内人脈が不足、
これに伴い基本業務推進力不足に陥り、口だけで手足が動かない評論家への道を歩みがちです。
この辺りは過去のコラムでも何度か取り上げたことがあります。
・関連コラム
第2回 普遍的スキルの鍛錬を阻害する技術者の癖 日刊工業新聞「機械設計」連載
技術者が目の前の仕事に手を抜かずに取り組むことは大変重要です。
しかし、それ”だけ”に注力することによって生じる課題を合わせて理解しなくてはいけません。
目の前の仕事は技術者の受動的な姿勢を助長し、指示待ちの技術者を増産する可能性がある
目の前の仕事というのは、技術者本人が自発的な行動を何も起こさなくても発生します。
そして、目の前の仕事として定義されるものの多くは組織としても取り組むことは正義と認識されることが多いため、技術者自身にとって
「仕事をするにあたってのおぜん立ては概ね揃っている」
といえます。
このような状況における技術者は座っているだけで仕事が目の前に流れてきて、それに取り組むというという日々になります。
流れ作業といってもいいでしょう。
このような仕事は不要、無用ということは決してありません。
基本業務推進スキル向上や人脈の拡大が期待できるためです。
しかしながらこれ”だけ”に慣れすぎてしまうと、
「技術者は受け身になる」
という冒頭述べた技術者のあるべき姿の中に含まれる「自発的」という姿勢を失うことになるのです。
自発的姿勢の欠落は技術者を抱える組織の恐れる大きな問題に発展します。
目の前の仕事”だけ”に注力する技術部隊は指示待ち部隊に変質する
自発的な言動が失われた技術者は受け身になると述べました。
この受け身になった技術者は、周りに受け身の技術者を引き付け、醸成する傾向にあります。
その結果、
「組織そのものが、指示待ち技術者から構成される指示待ち技術部隊へと変質する」
ということが起こります。
指示待ちの技術部隊への変質がいかに企業組織にとって悪影響を及ぼすのかについては、いくつかの例を通じて感じていただくのが良いかもしれません。
研究開発の技術者の場合、新しい技術テーマが生まれない
研究開発を主とする技術者が指示待ち技術者であることで生じる問題が、具合例として最もわかりやすいかもしれません。
一般的には、研究開発テーマというのは大きく二通りに分かれます。
1. 顧客発信の技術テーマ
1つは顧客の要望に応じて生じるものです。
顧客の要望のヒアリングとそれに伴う課題抽出、
テーマへの提案という技術部隊というよりも多くは営業部隊が担う役割によりテーマが生み出されることが多いかもしれません。
この流れで創出される技術テーマ最大の課題は、
「顧客ニーズが無ければ消失する」
ということです。
さらに言うと、
「潜在的な顧客ニーズを引き出せなくても消失する」
という観点もあります。
顧客が積極的に動いていればある程度受け身でも技術テーマを作ることはできます。
ただ多くの技術テーマのコモディティー化が進んだ今、顧客自身も本当の意味での技術的な課題が見えなくなっているのです。
このような状況で受け身の企業が待ちの姿勢でいても、顧客となり得る企業から見つけてもらうことさえできないでしょう。
最低ラインとして、自らの企業がどのような技術を有し、どのような課題を解決できるのかという技術情報発信が不可避です。
指示待ちの技術者がこのような技術情報発信の重要性と意義を理解し、自発的に行動することは望めないでしょう。
結果、このような技術部隊は顧客発信の技術テーマを構築できないことによりその存在意義を失っていくことになります。
2. 自社で創出する技術テーマ
これは言うまでもないでしょう。
指示待ちの技術者が自ら考えて技術テーマを創出できるわけがありません。
仮にリーダーや管理職が技術テーマを考えようと声がけしたとしても、
「どうやって技術テーマを立案すればいいのかルールを作ってください」
「どのような技術テーマが良いか考えてください」
といった趣旨の発言が現場の技術者からでるとこで動きが止まるでしょう。
何かしらの形で技術テーマを強引に始めたとしてもどこかで
「やらされている」
という意識が技術者の心理を支配するため、成果が出る出ない以前に
「長続きしない」
という収束点に向かうことは避けられません。
製造・生産や品質保証の技術者の場合、不具合が生じても報告までで行動が止まる
製造や生産は指示待ちでもいいという考えもありますが、
当社の実際の企業指導経験を踏まえると間違っていると言わざるをえません。
製造・生産の現場における最重要命題は、
「安定した品質で、納期に間に合うよう物を作り、出荷するという定常業務を滞りなく続ける」
ということにあります。
しかし何かしらの原因によってその状況が崩れることがあります。
不良品が多く出る、設備が停止するといった不具合が一例です。
このような状況で求められる技術者の姿勢は、
「不具合の原因を追究し、仮説に基づき不具合解消に向けた具体的な行動を起こす」
ということです。このような時に、
「どうしたらいいでしょうか」
という技術者ばかりでは不具合が生じるごとに製品製造が止まることになります。
品質保証や製造、生産の現場であっても自発的に考え、行動できなければその組織はただの作業者集団になり、
場合によっては人よりもロボットの方がずっと望ましいということになりかねません。
結果的には存在意義を失うということです。
以上の通り、主業務が何であれ
「指示待ちの技術者の集団は企業組織としての存在意義を問われる」
という状況に陥ります。
では、このような指示待ちの技術者を生み出さないためにはどのような取り組みが必要なのでしょうか。
技術テーマをプロジェクトとして推進するための業務フローを設計の上で立ち上げる
組織としてまず取り組むのは、
「技術者が何か新しいことを提案し、技術テーマを立ち上げる業務フロー設計の上で立ち上げる」
ということです。
技術者の意識改革も大切ですが、それ以前の課題として組織内に技術者が新しい技術テーマを立ち上げたいと考えた際に、その受け皿となるインフラ、すなわち業務フローが存在しなければ指示待ちから脱したいと考える技術者達を路頭に迷わすことになります。
技術業務をプロジェクト型で進めるために必要なことについては、
以下のようなコラムで取り上げたことがありますのでご参照ください。
技術テーマ企画立案→進捗フォロー/技術報告書作成→完了報告→成果の記録と蓄積
という流れが概要となります。
・関連コラム
目の前の業務を優先しながらも、少しずつでも技術テーマを進める
リーダーや管理職は技術者を促す形で、まずは上記の業務フローに基づきプロジェクト型で技術テーマを推進させてください。
指示待ちの文化が醸成された企業において、自発的に技術テーマが提案される可能性は大変低いためです。
その為、最初はリーダーや管理職から促すことが重要といえます。
そして一度技術テーマが立ち上がったら、
「少しずつでも推進するよう誘導する」
ということが管理職の仕事になります。
一度は知り始めた後の管理職の仕事は、
技術テーマに取り組むことが正式な業務であることを周知する、実績として評価する、
プロジェクト型業務内の進捗フォロー体制によって推進を支援する、
といったものが一例として挙げられます。
このような取り組みを継続する中で、指示待ちを脱し、自発的に動ける技術者が出てきます。
彼ら彼女らを抜擢し、異なる技術テーマに取り組ませる、日常業務の改善提案をさせるといったことを繰り返し、
提案することが正義であるという流れを醸成することが肝要です。
繰り返しと継続性が重要な長期視点での取り組みとなりますが、
このような地道な取り組みこそが指示待ちの文化を変える最良の方法といえます。
指示待ちが課題と感じている技術者の組織においては、是非実践いただければと思います。
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