若手技術者に出張対応を任せられない
公開日: 2024年8月26日 | 最終更新日: 2024年9月1日
Tags: OJTの注意点, メールマガジンバックナンバー, 報告書, 打ち合わせ・出張, 技術者の自主性と実行力を育むために, 技術者人材育成
製造業企業で川上、川中、川下のどの領域にいるとしても、技術者は出張する機会があると思います。
この出張対応を若手技術者に任せられない、
もしくは任せたいと思わないという課題解決に向けた技術者育成の取り組みを考えます。
出張の狙いとは
出張は客先であれば製品の売り上げの可能性や課題解決等、
自らが顧客として出向くのであれば新しい技術の情報入手といった狙いが、
それぞれあると思います。
つまり何かしら狙いがあるからこそ、出張の動機が発生するのです。
何の狙いもなく出張することはありません。
この狙いが後述する”出張目的”になります。
出張は移動や打ち合わせ/立ち合いという拘束時間が発生し、また経費もかかる
当然ですが出張対応をすることは、
ある一定時間体が拘束されます。
移動はもちろん、現地では打ち合わせや立ち合いといった拘束時間が発生します。
これらの時間、出張対応をしている技術者は他の業務ができません。
そして交通費や宿泊費などの経費もかかります。
若手技術者が出張対応できることは様々なメリットがある
出張目的を”最低限”達成できる可能性があるのであれば、
若手技術者に出張対応をさせることをリーダーや管理職に推奨します。
動機として一番大きいのは、
「技術チームの業務推進の中枢を担う、または全体を統括するリーダーや管理職の時間捻出ができる」
ことにあります。
限られた時間を若手技術者をはじめとした技術者と分担できることは、
技術チームという組織としてのパフォーマンス向上に直結します。
更には技術者育成の観点で見ても、出張対応は若手技術者にとって必要な業務経験となります。
もう少し具体的に述べます。
社外という周りに頼る人が居ない状態での試行錯誤と持ち帰りの経験
出張先では基本的に社内とは異なり、頼る人が居ないことが多いはずです。
特にグループ会社や他部署等ではなく、
全く別の企業に出張すると、頼る人以前に知り合いさえ少ないでしょう。
このような”むき出し”の状態で対応することは若手技術者に多くの知見をもたらします。
自分なりに考えての試行錯誤
一つが試行錯誤です。
-
合っているか間違っているかわからないが、自分であればこう思うのでこのように進めてみよう。
-
自分の意見を先方に伝え、その反応を見て何が妥当か考えよう。
-
設備稼働の立ち合い時に問題らしきものが生じたが、
この原因は何で、相手企業にはどのような部分を調べてもらうべきだろうか。
上記のような試行錯誤は、技術者の普遍的スキル醸成に最適です。
自分を俯瞰的に見つめ、周りの状況を理解するということが必須だからです。
合っている、間違っているは若手技術者であればそれほど問題ではありません。
自分が責任をもって出張対応を完遂する、
という当事者意識を実感することが大変重要です。
持ち帰る勇気
もう一つ若手技術者が出張対応で経験すべきものがあります。
それが、
「すべてを自分で終結させようとするのではなく、不安なもの、不明なもの、
そして自らの手に負えないと考えたものは持ち帰る」
という行動です。
企業に勤める技術者は、すべてを一人で抱え込む必要はありません。
試行錯誤は既述の通り必要ですが、
自分では解決できない、判断できないということについて、
自社に持ち帰ってリーダーや管理職、または中堅技術者と相談する、
ということの方が”より重要”なのです。
専門性至上主義にとらわれて、
何が何でも自分一人で進めようというこだわりを一度捨てる。
そのような経験をできるのも出張対応ならではといえます。
出張対応を任せることに不安を覚えるリーダーや管理職
既述の通り若手技術者に出張対応をさせることは、
技術者育成の観点からもメリットがあります。
しかしながら、リーダーや管理職の方々と実際に話をしていると感じるのが、
「若手技術者に出張対応を任せるのは”不安(まだ早いという感覚を含む)”」
という考え方です。
-
- 本来の目的からずれた対応をするのではないか
- 出張対応で期待する結果や成果が得られないのではないか
- 間違った対応をして混乱が生じるのではないか
- 自分の目が行き届かない出張先で若手技術者が動けるか心配だ
上記のような考え方が根底にあるようです。
表現は違えど、若手技術者の仕事の成果に対する信頼の低さが基本にあるように感じます。
もしくは自分の思うとおりに業務を推進したいというリーダーや管理職の欲求が、上記のような考え方のきっかけとなっている可能性もあります。
これは上司の立場から言えば理解できる部分も多いです。
その一方で、その考え方が技術者育成の観点、
特に長期目線から言うと負の影響因子にもなりえます。
任せるタイミングが遅れるほど若手技術者の成長も遅れる
若手技術者は業務経験が浅いため、
出張先において様々な判断がずれる、やるべき対応が抜ける、
勝手に進めてしまうといった課題が生じる可能性は当然あります。
しかしこのような経験不足に由来する若手技術者の課題は、
「実践経験でしか改善できない」
のです。
出張対応についてどれだけ教えても、または見本を見せたとしても、
結局のところ当事者意識をもって試行錯誤をしながら自ら対応する経験をしないと、
若手技術者自身の血肉にはなりません。
そのため、若手技術者に出張対応を任せるタイミングが遅れれば遅れるほど、
若手技術者の成長も遅れることになってしまうのです。
若手技術者の出張対応でリーダーや管理職が抑えておきたい2つの指示事項
ここまで述べてきたことを踏まえると、
出張対応をただ任せればいいと考える方がいるかもしませんが、
残念ながらそれほど話は単純ではありません。
”的を絞った指示”がポイントとなります。
ここでは出張対応に向けた最重要指示である2点をお伝えします。
出張目的
これは不可欠です。
何のために出張するのかを理解していなければ、
出張対応をさせたとしても単に”行ってきました”、
という話で終わりかねません。
ここはきちんと伝え、
当然ながら口頭だけでなく、
伝えたことをその場で書かせることで、
若手技術者の理解がリーダーや管理職のそれと同等であることを、
注意深く確認することが重要です。
出張先で決めてきてほしいこと/獲得してきてほしいこと
出張目的の説明が重要であることは、
多くのリーダーや管理職にとって想定内だったかもしれません。
その一方で抜けがちなのが、
「出張先で決めてきてほしいこと/獲得してきてほしいこと」
です。
注意点としては出張で決めてきてほしいこと/獲得してきてほしいことを、
出張目的に入れ込んで説明を終わらせないことです。
重要なのは、
「出張先で決めてきてほしいこと/獲得してきてほしいことは、箇条書きで別途明文化すること」
です。
出張先で決めてきてほしいこと/獲得してきてほしいことは、
具体的な業務要求事項になります。
”具体的な要求事項”というのがポイントです。
以下が決めてきてほしいこと/獲得してきてほしいことの例です。
• 設備の想定納期の明確化 |
• 技術的課題の有無と、有る場合の概要情報の入手 |
• 要求した技術評価が実施可能かの判断 |
• 持ち込んだ材料の弾性率と強度データの取得 |
• 新しい評価設備に関する仕様情報の入手 |
• 新規導入設備の設置開始時期と稼働開始時期の情報入手 |
このように箇条書きで出張先で決めてきてほしいこと/獲得してきてほしいことを示し、
若手技術者に活字化させてください。
若手技術者には常にその内容を見直すよう合わせて指示を出すことがポイントです。
出張対応の重要指示事項2点ができれば、出張報告書の要点はすぐに書ける
出張対応後は、当然ですが出張報告書を若手技術者に作成させます。
テンプレートに基づく出張報告書記載の文化が無い、
という場合は早急にテンプレートを設定の上、
”必ず”記載するよう業務フローを徹底することが、
リーダーや管理職に求められます。
上記のような業務インフラ構築はリーダーや管理職の責務です。
なお、出張報告書の提出目安は2営業日以内で、
翌営業日提出が基本であることも加筆しておきます。
このように情報鮮度の求められる出張報告書の表紙に該当する1ページ目を担う4大要素のうち、
2つが今回ご紹介した指示事項そのものです。
つまり重要指示事項2点を活字化し、
それを出張先でぶれずに対応できれば、
その時点で出張報告書の1ページはほぼ完成です。
このようにして事前準備段階で報告業務までを見据えることで、
若手技術者に欠けがちな記録蓄積の業務効率を改善し、
出張報告書のような時間勝負の業務に対応できる力をつけさせるのです。
本コラムに関連する一般的な人材育成と技術者育成の違い
出張は一般職でもよくある業務であり、
営業職など外回りが基本である職種では定常業務といっても過言ではありません。
当たり前すぎるためか、一般的な人材育成では出張時の指示の出し方や、
出張報告書の作成研修というものはあまり数が無いと感じます。
これに対し技術者の中には月に数回程度は出張する方もいるかと思いますが、
出張の機会そのものがあまりない方の方が多いかもしません。
つまり、技術者はあまり外に出回る職種ではないのです。
そのため、そもそも出張に関するベーススキルを求められる機会が、
技術者の方々は総合職の方に比べて少ないと考えます。
よって、技術者育成のように出張対応を育成につなげるという考え方が、
そもそも一般的な人材育成では想定されていないと考えています。
本コラムに関連する具体的な技術者育成支援の例
当社の技術者育成コンサルティング、製造現場改善コンサルティングでの対応となります。
技術者育成コンサルティングであれば共同研究開発先への出張、
製造現場改善コンサルティングであれば新規導入設備に向けたメーカへの出張が一例です。
最初に行うのはリーダーや管理職向けに若手技術者への指導方法についての研修です。
中長期契約のケースでは、OJTでの業務対応に関する指導や提案を行います。
より具体的には実際の出張対応業務の中で若手技術者に対応させられる可能性があるものを議論の上で選定し、その業務に対して目的が何でどのような成果が重要か、といったヒアリングをリーダーや管理職に対して行います。
このヒアリングの結果を踏まえ、リーダーや管理職から若手技術者に出張の指示をしていただきます。
同時に出張報告書を念頭にした活字化に関する指導をリーダーや管理職に実施することで、
活字媒体での記録蓄積の業務フロー構築を支援します。
このような技術者育成に関する研修や支援についてご興味ある方は、
当社の問い合わせページよりご連絡ください。
まとめ
出張対応は若手技術者が良くも悪くも社内の目から解放される数少ない業務です。
このような外部にさらされた環境下での試行錯誤は、
若手技術者に自分自身を外から見るという貴重な経験を提供します。
この経験が技術者の普遍的スキル向上に大変効果的です。
その前提として、出張目的と出張先で期待する成果を若手技術者に対して徹底理解させなくてはいけません。
この”的を絞った指示”がリーダーや管理職に求められる重要な観点でしょう。
そして完璧を求めず”最低限の成果”というラインを持っておくことが、
リーダーや管理職に必要な考え方であることを加筆しておきます。
この考え方が若手技術者に出張対応を任せることの後押しにもつながります。
これらの前提が満たされているのであれば、
若手技術者に出張対応を任せて技術者育成を推し進めてください。
同時にリーダーや管理職はこの育成活動を通じたご自身の時間捻出を実現し、
技術チーム全体の業務効率を上げていく姿勢が肝要です。
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