先が見えない/見えすぎるという不安を示す技術者に投げかけたい言葉
公開日: 2023年7月17日 | 最終更新日: 2023年7月17日
Tags: OJTの注意点, マネジメント, メールマガジンバックナンバー, 技術者のモチベーション, 技術者の上司とは, 技術者の自主性と実行力を育むために, 技術者人材育成
異常気象、世界中で続く紛争、経済情勢不安、感染症の拡大、人工知能の進化等。
情報や通信技術の発達により世界で起こる様々な問題や課題が時間差なく、容易に入手できるようになりました。
弊害があるというのは日々メディアで伝えられる通りですが、
個人的には情報に多く触れられること自体は悪いことだとは思っていません。
技術者が一昔前であれば入手が難しかった学術論文もWeb上で手に入れられ、海外の学会や展示会にもオンラインで参加できるようになりました。
私自身も2年程前に海外の展示会での技術講演に登壇しましたが、登壇したのは自宅からでした。パスポート不要で海外で講演できるというのは大変すばらしいことです。
しかしこのような急激な変化が、多くの若手技術者に対して
「不安増大」
という影響を与えているのも事実と感じています。
若手技術者の感じる不安の原因の考察を踏まえ、当該不安低減に向けてリーダーや管理職が若手技術者に対して取り組むべきことについて述べてみたいと思います。
なんとなく、しかし大きな不安に苦しむ若手技術者
顧問先企業に限らず、研修、講演等で多くの若手技術者(概ね20代)の方々とお話をしていて感じるのが、明確に本人の口から発言するか否かは別として
「言いようのない不安を感じている」
ということです。
その理由を本人の状況を見ながら差し支えない範囲でという前提で聴いてみると、当事者である若手技術者が述べる不安の原因は多種多様であり、一言で表現することが難しいのがわかっています。
ただし、上記のような若手の示す不安に共通点がないわけではありません。
以下、私の実体験として若手技術者が感じているであろう不安の共通部分として、現段階で考えられることについて述べてみたいと思います。
外部情報と自己の比較の影響を受けている可能性
若手技術者が示す不安のきっかけとして挙げられる共通点の一つ目は
「若手技術者本人の心の言葉というよりも、外部情報に影響を受けることで醸成された言葉が多い可能性がある」
ということです。
外部情報とはSNS等のデジタルメディアに限らず、
周りの友人や知人との付き合いや話といったアナログの場合もあります。
外部からの情報と自らの境遇を比較し、
「もしかしたら自分も」
と自らに引き付ける心理が働いているようです。
技術系の社員、いわゆる技術者は職種的にも自尊心が低いことが技術者育成という事業を通じてわかっています。
上記の心理はその職種固有に加え、環境的、年代的に自尊心が低い傾向が近年高くなり、それが外部情報に敏感となる一因になっているのかもしれません。
ただし、本点の考察については対象となる若手技術者個々人のばらつきが大きく、最終的な妥当性判断をできるには至っておらず推測の域を出ていません。
専門性至上主義に基づいた技術力向上に対する焦り
昨今の政府の示す方向性やマスメディアの論調を見ると、リスキリングをはじめとした
「新しいスキルの習得推奨とその必要性」
を危機感をあおる形で示しているのではないかと感じます。
これが私の感じる若手技術者不安の2つ目の共通点です。
もちろん、上記のメディアや政府の示す方向性がすべて外れているとは考えておらず、常に精進するという姿勢は技術者にとっても必要不可欠な姿勢です。
例えば役職定年の低年齢化に備えて、早いうちから準備をしておくというメディアの主張には一理あります。
自らの地位的優位性を使って稟議を長引かせるような重箱の隅をつつく指摘をする、何も決めない会議を無駄に開くことを実績として考えるといった、一昔前であれば黙認された壮年期は幻になっていると私も考えているためです。
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ただこちらについても、一つの可能性という表現にとどめたいと思います。
当然ながら若手技術者の全員が向上心があるわけではありません。
技術者は総合職よりも専門性を示しやすい強みがある一方で弱みも抱える
2つ目として述べた上記のスキル向上については、追加で理解すべきことがありますのでここで述べておきます。
この文章を読んでいる方は技術者、または技術者チームのリーダーや管理職、
もしくは技術系社員の教育を担当される方が多いと考えます。
上記の方々の中で特に技術系社員である技術者や、元技術者は何かしらの技術専門性を有することを求められており、また思考の癖としても専門性至上主義を掲げていることから、前述した常に精進しながらスキルアップをするという流れに対しては「強い」といえるでしょう。
専門性至上主義は技術者としての成長を阻害する要因として説明することが多いですが、こういう場面においては強みとして認識されます。
ただ、技術系社員だからといつまでも過去の経験にしがみついて、自らの安全地帯である狭い技術領域に籠る、ましてや効率ばかり求めて人に丸投げするような技術系社員には厳しい将来が待っているでしょう。
職種の強みに胡坐をかくのではなく、明るい未来に向けて常に新しいこと、より正確には
「自らの技術基本軸の周辺技術を高め、広げる」
ということに”実践経験を積む”ことを最重要視の上で挑戦する前提が技術者に適用されるます。
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そしてここまで述べてきた内容を踏まると先が見えない、もしくは見えすぎるといった
「若手技術者の抱える不安の根本的な原因」
の輪郭が見えてきます。
目の前の仕事では目に見える技術者としての成長を感じられないという不安が増大
若手技術者は外的情報や技術力(スキル)向上に対する焦りから、
「今の仕事をしていても技術者として”成長”しないのではないか」
という心理に陥ります。
「この仕事が本当に自分の仕事(自分に合っている仕事)なのだろか」
という心理も表現違えど基本は同じです。
これらは向上心の一部ともいえるため、悪い事ではありません。
問題は、
「今の仕事していても」
という
「”現状否定”が支配的な心理となっている」
ことです。
若手技術者の多くは技術業務の前線を知らずに不安に駆られることが多い
当然ながらハラスメントで企業に勤めるのが苦しい、不正を行っているといった、若手技術者からみて明らかに企業側に問題がある状況ならば、できる限り早く勤務先を変えるという若手技術者の判断は尊重されるべきですし、企業組織はそうならない様、常に自省するという姿勢が不可欠です。
ただし、多くの場合において若手技術者の方々に問いかけたいのは、
「今の仕事という”現状を否定する”という判断をできるだけの、技術業務の実践経験をしたか」
ということです。
本当に今の企業で、今の仕事をしていたら自分は成長できないと言い切れるのでしょうか。
そう言えるだけの”実体験”をしたと十分か不十分かということを別としても、
何かしら言えますでしょうか。
社内外の方々と、ある程度”自らの責任と裁量”で仕事をやってからこそ見える景色というのがあります。
仕事をする期間や仕事の内容や規模は関係ありません。
大切なのは、
「周りと協力しながらも、自分で完結する仕事を何かやり切ったか」
ということなのです。
なぜでしょうか。
不安を低減させるには仕事をやり通すという経験で得られる高い視点が大きな役割を果たす
若手技術者の抱える不安にはいくつかの原因があると既に述べましたが、
より根本的な原因は一つに集約されると考えています。
それは上記で示唆した通り、
「実務経験不足」
です。
そのため技術業務経験がある程度ある中堅技術者、リーダー、管理職は、
何故若手技術者が不安を抱えているのかわからないのかもしれません。
リーダーや管理職の頭の中では、実務経験が不足してわからないことが多いのは当たり前という前提があるためです。
上記の前提は若手技術者の抱える不安を見えにくいものとするでしょう。
リーダーや管理職の方々は上記の前提条件と向き合いながら、
若手技術者の不安を低減させるために行動を起こさなくてはいけません。
リーダーや管理職は未熟な状態でも若手技術者にチャンスを与える
ではリーダーや管理職は、具体的にどのような取り組みをすべきなのでしょうか。
結論から先に言うと、
「明確なゴールのある仕事を与えた上で、まずこの仕事を完遂させてほしい」
という言葉を伝え、仕事を与えることにあります。
どのような小さな仕事でもいいと思います。
重要なのは仕事に明確なゴールがあること、そして仕事を完遂させるために
「任せて+フォローする」
というスタンスをリーダーや管理職がとることにあります。
リーダーや管理職の方々から見て、上手くできていないように見える部分があるかもしれません。
より効率的に進めるには他のやり方もあると言いたくなるかもしれません。
しかし、そこに”口を出さず”にまずはやらせてみるのです。
若手技術者の実践経験は試行錯誤によって、最も効率的に蓄積します。
かといって、あとはやっておけといった感じで放置するのもまた違います。
元技術者のリーダーや管理職の中には、人を育てるということに無関心なタイプの方もいるため、過去のコラムでも述べた通り、放置系の場合も多く見受けられますが、適宜フォローする、指示を与えるということは不可欠です。
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若手技術者が予め設定した仕事のゴールに到達したら、
そこでその仕事を終わらせることも肝要です。
ずるずると続く仕事は実践経験を最初に積むテーマとしてはふさわしくありません。
明確なゴールを目指してまずは走り抜けるという経験が若手技術者には必要なのです。
業務が終わったらできるだけ早くよくできたところと課題、そして課題解決方法案を伝える
業務が終わったら、
・よくできたところ
・課題
・課題解決方法案
の3点を若手技術者に伝えてください。いわゆるフィードバックになります。
元技術者のリーダーや管理職のフィードバックは課題の羅列になりがちですが、よくできていたところと、指摘した課題の解決方法案まで伝えます。
このようなフィードバックは、
・よくできたところを言語化される→「認められたと感じる」→自尊心が高まる
・課題解決方法案を伝えてくれた→「進むべき方向を示してくれている」→先に向けた安心感
という2つを若手技術者に与えることができます。
このような実業務を通じた自尊心の向上と安心感を与えることが、
冒頭述べた若手技術者の不安を低減させる特効薬となる可能性があることを、
リーダーや管理職が理解することが肝要です。
いかがでしたでしょうか。
若手技術者の多くが抱える不安は、多くのリーダーや管理職の方々にとって理解しがたいものかもしれません。
しかし、これらの不安は時代や環境の違いからきている可能性があるのも事実です。
最近の若手は聴きに来ない、相談に来ない、
わからないことは自分で調べるべきだ、
自分の時代と違って根性がないといった、
リーダーや管理職の価値観を押し付けるのではなく、
若手技術者側に少しでも歩み寄るという柔軟性が今の時代には求められているのではないでしょうか。
若さというのは技術者にとって最大の武器です。
頭と身体のスタミナや柔軟性は若い時にしかありません。
この強みを生かすためにも、リーダーや管理職は上記のような若手技術者への歩み寄りという労力の投資を行い、若手技術者に一刻も早く戦力になってもらうという考え方が、結果的に労力対効果が高まると考えます。
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