複雑な仕事 に喜びを覚えてしまう若手技術者

複雑と専門

若手技術者は自分が専門家であるという自負のもと、ものごとを複雑に複雑にしていく習性があります。

 

何か一つのことを実験で確かめるために、いきなり実体に近い大がかりな治具を作って模擬することで、その事象を確かめる、ということを一例に私がサラリーマンであった時の若手技術者の振る舞いをご紹介します。

 

その日、仕事の進捗を確認するチームミーティングに呼ばれ、実務部隊の若手技術者たちもその場に呼ばれていました。

 


ある部品の検査手法を構築するという仕事を主に行っている若手技術者のAさんが、


「実体部品を模擬した、このような検査をまず行ってみたいと思っています。つきましては、部品を保持できる治具を製作したいです。」

 

すぐに、私はこう質問しました。

 

「今提案した実体部品を模擬した検査によって何が知りたいのですか?」

 

すると、若手技術者Aさんの答えは、

 

「この検査を行ったことが無いので、検査の基礎的な知見を積みたいと考えています。」

 

 

これは、若手技術者特有の思考回路をよく表している事例です。

 

 

「検査の基礎的な知見を積み上げる」

 

という目的に対して、

 

「実体部品を模擬した検査」

 

必要ないのです。

 

 

というのも、その当時、若手技術者Aさんは実体部品の検査どころか、検査そのものを行ったことがなかったのです。

 

 

「検査の基礎的な知見を積みあげる」

 

という考えそのものは間違ってはいませんが、それを形状を持った実態部品でいきなりやろうというところが問題なのです。

 

形状を持った物を評価しようとすると、形状由来の検査結果のばらつき、検査工程の複雑化など、評価すべきパラメータが増えていってしまうのです。


パラメータが増えれば増えるほど、本質が見えにくくなり、基礎的な知見を積みたい、という本流の目的からずれてしまいます。

 


結局、平板などの単純形状でまずは検査を行い、検査の概要を理解してほしい、ということで若手技術者Aさんも納得して動いてくれました。

 

 

 


技術の本質というのは、極めてシンプルなものが基礎となって成り立っているのが実情です。

 

PCなどの性能が向上したこともあって、ソフトを用いたシミュレーションを初めとした複雑な評価を、誰でも簡単にできるようになる時代になってきました。

 

今20代~30代の技術者は、深層心理の中で、

 

「複雑 = 専門的」

 

という考えができてしまっているのです。

 

 

もし、若手技術者が複雑なことをやろうとして苦労している所を見かけたら、是非シンプルなところからやり直す、ということを指摘してあげるようにしてください。

 


これが、技術の本質を見るという技術者の基礎的な思考構築につながります。

 

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