働き方改革 と技術者人材育成とのバランス

 

 

今日のコラムでは、 働き方改革 と技術者人材育成とのバランス、
という題目で、働き方改革 の概要と現実、
そして技術者人材育成への影響について考えてみたいと思います。

 

尚、本コラムはあくまで技術者育成に関するものであるため、
以下で述べる従業員は技術職、またはそれに準ずる技術者を指すものとします。

 

 

 

働き方改革の狙い

 

2019年4月より本格的に始動した「 働き方改革 」。

厚生労働省は以下のようなところが狙いだと述べています。

 

————–

我が国は、

「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」

「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」

などの状況に直面しています。

こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、
就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。

「働き方改革」は、この課題の解決のため、
働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、
働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。

————–
※参照URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html

 

 

 

狙いそのものを見ると非常に良いと個人的には考えています。

 

多様性を許容し、人それぞれ、自らに合致した環境で活躍するというのはあるべき姿なのではないでしょうか。

 

実際に私自身も、自らのスキルを活かすため、自分で事業を始めたという経験があります。
サラリーマン時代よりもはるかに自らの力が発揮できていると実感している以上、
上記の厚生労働省の狙いに異論はありません。

 

 

 

ただ、現実問題となると少し違うというのが、弊社の顧問先での指導を通じて実感していることです。

 

 

 

働き方改革において、マネジメントと従業員で考える最重要事項は違う

 

 

働き方改革は非常にホットなテーマのため、
多くのコラムや特集記事などが存在しています。

 

それらの主張の妥当性は置いておくとして、
弊社の顧問先での実務経験を通じて感じている現実について話をしてみたいと思います。

 

 

 

まず理解すべきは、

 

「働き方改革に対する最重要事項はマネジメントと従業員(以下、技術者)で異なる」

 

という事実です。

 

 

 

詳細を言えば各社各様ですが、大まかにはほぼ共通しています。
会社の規模、業界は無関係です。

 

 

立場によってとらえ方が違っているということを理解することは、
働き方改革を考えるにあたって重要な第一歩です。

 

 

ではそれぞれの立場から 働き方改革 を見ていきましょう。

 

 

 

マネジメントの最優先事項は残業時間圧縮

 

定量的な評価もやりやすいことから、
ほぼ確実にここが最優先事項とする企業が殆どです。

 

 

長時間労働が続くことで、
生産性が低下しているという評価が大勢の中、
まずは残業時間を減らすということが、
マネジメントとして注力するケースが多く見受けられます。

 

 

会社外で異業種技術者と交流する、自己研鑽に使う時間を捻出する、

というのが働き方改革との関係性という理解です。

 

 

当然ながら長時間労働は社員である技術者を疲弊させ、
イノベーションを生み出す可能性を低下させる恐れもあります。

 

日本における若手技術者自体の母数が低下し続けている昨今、
あまりにも長時間労働の続く職場ではそもそも就職先として選んでくれないかもしれません。

 

 

何より、長時間労働によって心身に問題が出てしまっては、
会社はもちろん、何より本人が不幸です。

 

そのため、マネジメントとして残業時間をまず適正なものにしよう、
というのは妥当な動きというべきです。

 

 

 

 

 

技術者の最優先事項は興味のある仕事への集中と苦手・面倒な仕事の回避

 

これはあまり語られない技術者の現実かもしれません。

 

技術者は様々なコラムで述べているように、
専門性至上主義に裏付けられた理系教育を受けています。

そのため、わかること、知っていること、
それによって他よりもアドバンテージがあることに異常な執着を見せます。

 

 

上述の通り企業のマネジメントが労働時間の適正、
より正しくは残業時間の圧縮を要求する流れを上手くつかみ、

 

 

「トータルで労働時間が短くなるのであれば、やりたい仕事を優先的にやろう」

 

 

という考えが大なり小なり働くのが技術者です。

 

特に自らの専門性が活かされている、
または知的好奇心が満たされる、
さらに言うと自分が社内で優れていると自負している部分に関する仕事に対し、
業務バランスはとりあえずおいておいて、主観で優先順位を上げてしまうのです。

 

多くの場合において、上記の行動は無意識です。

 

 

これはモチベーションの維持という観点で業務が回っていれば、
マネジメントとしてはある程度許容すべきことでしょう。

 

しかし問題は、

 

 

「面倒な仕事、苦手な仕事は後回しにしよう」

 

 

という考えが同時に首をもたげるという事実です。

 

 

 

仕事のできる時間が制限されているというマネジメントの事情を上手く利用しているとも言えます。

 

 

 

そして、多くの技術者にとって面倒な仕事、苦手な仕事としてターゲットにされるのが、
技術者の人材育成で最重要なスキルともいえる、

 

 

「技術報告書の作成業務」

 

 

です。

 

 

技術者人材育成において、文章作成力は根幹ともいえます。

 

文章作成力がいかに大切かは、以下のようなコラムで何度も述べたことがあります。

※ 95%以上の若手技術者に不足している最重要スキル

 

※ 若手技術者に指導する際は、言葉だけでなく 活字 でも伝える

 

 

しかしながら、マネジメントにとって机の上でPCをにらみながら報告書を書いているその姿を見て、

 

 

「実験をしない、設備を動かさないで技術の何がわかるのだ」

 

 

「PCの前で座って技術報告書を書くことが会社にとって何の利益になるのか」

 

 

と感じているケースも少なからずあります。

 

 

 

特に

 

 

「働き方改革 = 残業時間の削減」

 

 

という考えが頭にあるマネジメントにとって、技術報告書を作成している技術者の姿はもどかしく映るようです。

 

 

上記のような背景もあり、

マネジメントは技術報告書の作成業務を減らす、または辞めるということに対し、基本的には前向き

です。

 

 

 

 

私自身も経営者なのでマネジメントの気持ちは非常によくわかりますが、もしここで、

 

 

「技術報告書を書く時間があったら、残業時間を減らす努力をしろ」

 

 

という指示を出した途端、技術者はその話に飛びつくと同時に、彼ら、彼女らの成長は鈍る(場合によっては止まる)でしょう。

 

 

 

それどころか、長期的視点で見ると労働時間の長時間化が進むでしょう。

 

 

 

何故でしょうか。

 

 

 

 

技術報告書の書けない技術者集団の問題点

 

いくつか問題がありますが、特に大きな問題が2つあります。

 

 

1つ目は、

「無駄な実験や試作の繰り返し」

です。

 

 

例えば過去に実験や試作を行い、失敗したとします。

 

失敗した本人はよく覚えているので同じ過ちはしないでしょう。

 

しかし、それ以外の人はそのような事実を知るすべがありません。

 

 

うまくいかなかったこと、失敗したことを、
何年も後になって再度行わなくてはいけないという状況になることは多々あります。

 

うまくいかないとわかっていることをもう一度やるということほど、
技術者の労働時間の無駄遣いは無いでしょう。

 

それこそ働き方改革の真逆の方向です。

 

 

このような時に

 

 

「技術報告書は、過去の成功と失敗の記録」

 

 

を伝える伝道師としての役割を果たします。

 

 

仮にその成功や失敗をした技術者が居なくとも、
技術報告書がその内容を明確に伝えてくれるのです。

 

 

このようなものがあれば二の轍を踏む必要は無くなるわけです。

 

成功体験であれば、どのようにやればその成功を再現できるのかもわかります。

 

 

 

職人のような技術者が、

 

 

「それは俺の頭の中にある」

 

 

というやり方ではこれからの時代、企業が生き残れないのです。

 

 

 

 

もう一つが、

 

 

「技術者同士のコミュニケーション精度の低下による業務効率低下」

 

 

です。

 

 

 

「技術報告書の書けない技術者のほぼ100%は、報告・連絡・相談・発表ができない」

 

 

という強い傾向があります。

殆どの企業でこれは当てはまっています。

 

 

 

知識こそ最重要という教育を受けてきている技術者は、
技術報告書の作成に裏付けられた

 

 

「論理的思考力に課題がある」

 

 

というケースが非常に多い。

 

 

論理的思考力は覚えるのではなく、手と頭を動かし多くの多様な文章を書き、それを添削してもらうというという地道な作業の積み重ねでしか絶対に成長しません。

 

 

尚参考までにですが、文章作成力が元々高い若手技術者も少数ながら存在します。

論理的思考力の高い若手技術者は、粗削りではありますが、入社段階で技術報告書の基本的な型を教えれば、短期間ですらすら書くようになります。

大学での講義経験によると、概ね全体の5%程度という印象で、女性の方が当該スキルは高い傾向にあります。理由はよくわかっていません。

 

 

 

論理的思考力が最も試されるのは、

 

 

「自分を客観的に見ながら、要点を抽出する」

 

 

というスキルです。

 

技術者は自分のわかっていることをまずすべて言いたい(書きたい)。
自分が色々知っているとわかってもらいたいから。
思いついた順番でまずは言うしかない(書くしかない)。

 

 

上記は典型的な技術者の思考です。

 

 

 

これは、意識しているにしても無意識にしても技術者のほぼ全員持ち合わせていることですので問題ありません。

 

 

それよりも問題なのは、

 

 

「いろいろ言いたい自分を抑制し、順序だてて要素を抽出して伝えることができない」

 

 

ということでしょう。

 

 

 

技術者が皆、上記のようなコミュニケーションの取り方をしたとすると、

 

・打ち合わせの議論が発散する

 

・メールの文面が不必要に長い

 

・口頭でのやり取りに時間がかかる

 

・指示事項を理解してもらえず、何度も説明しなくてはいけない

 

・誤解故の間違いややり直しが多発

 

 

といったことが日常茶飯事になり、結果的に労働時間は長くなります。
まさに生産性低下の典型例ではないでしょうか。

 

 

 

上記のようにならないためには技術者も論理的思考力を高めるしかありません。

 

 

そして、論理的思考力を高めるための最短の道はやはり、

 

 

「技術報告書の作成」

 

 

です。書く力なくして論理的思考力は絶対に伸びません。

そしてこの力を伸ばすには何はともあれ数をこなすしかないのです。

王道はありません。

 

 

 

働き方改革の流れの中で技術者のマネジメント法とは

 

上記ではいろいろな実例を挙げてきましたが、
そうはいっても現段階では働き方改革が社会の流れとして存在している以上、
マネジメントとしては無視はできません。

 

本来の働き方改革はもっと広い視点で考えるべきですが、
少なくともマネジメントが残業時間の圧縮に力を注ぎたいという事実には目を向けるべきでしょう。

 

では、このような状況下で技術者を抱えるマネジメントは何を考えるべきでしょうか。

 

「マネジメントの取るべきいくつかのポイント」を述べてみます。

 

 

 

1. マネジメントが技術報告書を実際に読んでみる

 

まずはマネジメントも技術報告書を読んでみましょう。
技術報告書の詳細の中身すべてを理解する必要はありません。

 

大切なのは、

 

「技術報告書の存在が、会社にどのような貢献をするのか」

 

ということを理解することです。

 

 

技術報告書は机の上で書いていて生産的でない、
というのは外から見た考えです。

 

 

社員が会社のお金を使って書き上げた報告書によって何がわかり、
何を伝え、それが結果としてどのような貢献をするのか。

 

まずはそこまでのイメージを持つ事が大切でしょう。

 

もしマネジメントとして、

 

「会社としては、技術報告書はこういう形であるべきだ」

 

ということがマネジメントサイドとして有れば、
そのアイデアをベースに議論すればいいのです。

 

 

その議論を通じ、マネジメントと技術者が着地点を見出せるのであれば、
それは一つの正解です。

 

 

技術報告書を読んだことが無い状態で、技術報告書の作成時間を圧縮させよう、
という指示を出すのだけは避けるようにしてください。

 

 

 

 

2. マネジメントとして圧縮、または削減できる打ち合わせが無いか再検討する

 

技術者の時間を取られるものの業務の一つに「打ち合わせ」があります。

すべてが不要というわけではもちろんありませんが、

 

 

「もう少し圧縮できないか」

 

 

「もう少し頻度を減らせないか」

 

 

ということはマネジメントとして是非検討すべきことです。

 

 

技術者が活躍できるのは打ち合わせの場所ではなく、
実際に実験をしているとき、プログラムを設計するとき、
設備を動かすとき、それを技術報告書にまとめ考察するときです。

 

 

これらの蓄積で新しいことがわかり、
最終的にはイノベーションへとつながっていきます。

 

 

打ち合わせは上記とは逆の業務です。

 

 

 

マネジメントとして減らせる打ち合わせが無いか今一度検討するのが一案です。

 

 

尚、この場合の打ち合わせは社内だけでなく社外との打ち合わせも含まれます。

 

 

不必要な打ち合わせに技術者を毎回引っ張り出すのではなく、
まずはマネジメントとして話を聴く、というのも一つの考えです。

 

 

 

 

 

 

 

今日は働き方改革の時代の流れも踏まえながら、技術者人材育成を考えてみました。

 

 

技術者の人材育成は、技術系企業にとっては極めて重要なアクションであり、
多くの企業でその理解があります。

 

その一方で上記のようなマネジメントサイドとして考えるべき時代背景や動きがあるのも事実。

 

ここはお互いに歩み寄りながら、

 

 

「最終的に生き残り、成長する企業になるためにはどうしたらいいか」

 

 

という命題に向かって議論することが重要だと思います。

 

 

 

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